↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/22

11.バカヤロー!




「ダメだ!みんな!中へ入っちゃいけない!」


僕、浅倉 直樹は、生け贄組のみんなが校内に入ろうとするのを止めていた。


「なんで止めるんだよ浅倉!大暉たちが中に入っていったんだぞ!?助けに行かねえと!」


「テストのルールを思い出して!僕たち生け贄組は、制限時間内にグラウンドへ出てないといけない!つまり、制限時間内に校舎にいたら、ゲームオーバーになるってことなんだ!気持ちは分かるけど、今は堪えて欲しい!」


「そ、そうは言ったってよお!みんながミノタウロスにやられたらどうすんだよ!俺たちはみんなに助けられたんだ、今度は俺たちが助けにいかなくてどうすんだ!」


ああ、困ったなあ。友達思いがゆえに、危険を省みない状況になってる。


(僕も正直、優太郎くんと海斗くんが心配だし、助けに行きたいところだけど……僕たち生け贄組が戻ったら、確実に間に合わない)


そんな歯がゆい思いを抱いていた、そんな時だった。


「あっ!おい、帰ってきたぞ!」


「!」


その声につられて、僕は校舎の方へ目をやった。


そこには、吉田くん、谷口さん、海斗くん、そして優太郎くんの姿があった。


優太郎くんは腕を怪我したようで、海斗くんに担がれながら、血を垂らしていた。


「優太郎くん!」


僕が駆け寄ると、彼は痛みに悶えながらもニッと笑って、「クリアしたな」と答えた。


「藤山!」


「藤山くん!」


「優太郎!大丈夫か!?」


ふと気がつくと、彼の周りには人が集まっていた。


「へへっ、ちょっとドジっちまってさ。まあ、死なずに済んでよかったぜ」


「藤山……」


「みんな、無事に生き残れてよかった。俺、嬉しいよ」


「「………………」」


彼の言葉を受けて、テセウス組の者たちは黙り込んでしまった。


そして、その中の浜田さんがぽつりと、「ごめんなさい」と告げた。


「私、藤山くんのこと……疑っちゃってた」


「………………」


「酷いこと言ったりして、ごめんなさい……」


それに影響されて、他の人たちもみんな「ごめん」や「すまん」といった謝罪を述べていた。


僕には何のことか分からなかったけど、きっと僕らを助ける道中で、テセウス組もいろいろあったのだろう。


「いいさ、俺は気にしてない」


藤山くんは朗らかに笑ってみせた。


「こんな極限の状態じゃ、気が動転してもおかしくない。みんなは何も悪くないさ。悪いのは……」


と、そこまで彼が口にした時だった。


『二年一組のみなさま、お疲れ様でした』


僕たちの前に、あの片羽の天使が現れた。


『トゥルークリア、おめでとうございます。いくつかのクラスにテストを受けてもらいましたが、トゥルークリアを達成したのはみなさまを含めて、2クラスしかありません。素晴らしい成績です』


「………………」


『これにて、第二回実力テストを終了します。教室に戻り、授業を再開してください』


それだけを言って、その天使は僕たちへ背を向け、去っていこうとした。


「………………」


僕の胸の中には、いろんな思いが渦巻いていた。


丁寧な口調だけど、そこにはなんの感情もない。人の善性を測るために、生き死にのテストを開催する、悪魔のような天使たち。


正直、言いたいことはたくさんある。


でも、悪口や暴言は減点対象になる。だから僕は、ぐっとその気持ちを飲み込むしかなかった。


きっとここにいるみんなも、同じ気持ちだったと思う。


「……ちょっといいですか?」


そんな中、天使の背中へ声をかけた人がいた。


藤山くんだった。


彼は海斗くんの肩から離れて、一人足を引きずりながら、天使へと近づいていった。


「前々から思ってたんですけど、どうしてこのよい子テストって……悪いことしたら減点されるのに、いいことをしても加点されないんですか?」


『よいこと?具体的には?』


「……ごみを拾ったり、人に道案内をしたり、おじいさんやおばあさんへ席を譲ったりしても、俺は全く点が変わらなかった。なぜ、それらを加点してくれないんですか?」


『申し訳ありませんが、よい子テストにはそのような制度はありません』


「………………」


『よい子が、よいことをするのは、当たり前だからです』


「……そうですか」


藤山くんは、一度目を瞑り、深く息を吐いた。


「……そんなことで、本当によい子を測れるんですか?」


そして、すっと目を開けて、さらに天使へ投げかけた。


静かな怒りに満ちた目だった。


燃え盛る炎が、その瞳の向こう側に見えていた。


「テセウス組のみんなは、俺を責めたことを謝ってくれた。吉田くんに至っては、自分のことを省みて、助けに来てくれた」


『………………』


「直樹たち生け贄組のみんなも、俺たちを信じて待っていてくれた。海斗はみんなを逃がすために、自らミノタウロスの囮になってくれた……!」


『………………』


「そして、谷口は……俺がみんなから責められても、一人味方してくれたんだ……!」


藤山くんは、ぐっと歯を食い縛った。


そして、お腹の底から、思い切り叫んだ。




「なんでそういうことを、評価しないんだ!?」




「お前ら勘違いしてるみたいだけどな、よいことをするって簡単じゃねえんだぞ!怖くて、勇気が出なくて、泣きそうになる中でも、それでも優しくなれるってことなんだぞ!それがどれだけ立派なことか、お前らは本当にわからねーのかよ!?」


『………………』


「そういう気持ちを知りもしないで、お前らが勝手にやった勝手なテストで、よい子だなんだって基準を作りやがって!いいことをしても無視する癖に、悪いことをしたら殺すまで減点しやがって!ふざけんじゃねえ!」


『………………』


「俺は、絶対こんなテスト否定してやるからな!こんなテストで、お前らなんかに評価されてたまるか!」



バカヤローーーーーー!!



『………………』


天使は、じっと藤山くんをみていた。


そしてぽつりと、『5点減点です』とだけ言った。


「………………」


天使はそれ以上何も言わずに、その場から立ち去っていった。


風が吹いて、グラウンドの砂ぼこりが舞っていた。









……優太郎くんはその後、すぐに保健室へ行き、応急措置を施した。


肩から背中にかけて切られていたものの、思ったよりも傷が浅いらしく、数日で完治するとのことだ。


「ふー、よかった。血がやたらと出るから、内心めっちゃ怖かったんだよな」


そう言って安堵する優太郎くんを見て、僕と海斗くんも微笑んだ。


「優太郎、やっぱお前、足が遅いんだって。無理してカッコつけるんじゃねーよ」


「はー!ひでえ言い草だぜ。そんな悪口言ってたら、減点されるぞお前」


「こんなんで減点されるかよ。ほら、見てみろ。点数変わんねーぜ?」


「おいおい、なんでこれが減点されないんだよ!やっぱこのテストおかしいって!」


優太郎くんと海斗くんの悪友漫才を見て、僕はクスクスと笑った。


「それにしても、今回のテスト、みんなでトゥルークリアを達成できたのは大きかったね」


僕がそう言うと、二人はこくりと頷いた。


この三人の点数は、今このようになっている。


僕:11点。


海斗くん:9点


優太郎くん:12点。


優太郎くんは、さっきの天使への暴言がなければ、17点という圧倒的な点数になっていた。


「よかったの?優太郎くん。せっかく17点だったのに」


「いいんだよ。こんな点数、あいつらが勝手につけただけだ。死なない程度に残しときゃいいのさ」


「ふふふ、優太郎くんらしいね」


彼だって、せっかく命がけで手に入れた点数を減らしたくはなかったはずだ。


それでも、言わずにはいられなかったんだろう。それくらい、優太郎くんには許せないことだったんだ。


(みんなのために、あれを臆せず言えることが、優太郎くんの一番優しいところかも知れないな)


僕はそんなことを思いながら、三人で教室に戻っていった。







……それから僕たちは、また日常に帰ってきた。


よい子テストに監視された、息苦しい日常ではあるけれど、あの実力テストを終えられたことで、僕たちの空気は朝よりも緩和されていた。


何より、今回はクラスメイトの誰も死ななかった。これが、かなり精神的に大きかった。


みんなで頑張れば、これからも生き残れるかも知れない。そういう希望が灯ったような気がした。



キーンコーンカーンコーン



夕方になり、帰りのホームルーム間近となった時間帯。この時に、天使からの放送がなった。


『現時刻をもちまして、第二回実力テストを全クラスが終了いたしました。参加者のみなさま、お疲れ様でした』


『これより、各クラスの成績を発表します』


天使はそう言うと、三年生から順にテストの結果を放送した。


『三年一組、ノーマルクリア。クリアまでの時間56分24秒。死者5名』


『三年二組、ノーマルクリア。クリアまでの時間59分3秒。死者3名』


『三年三組、クリアできず。死者17名』


「………………」


この放送が流れ始めた瞬間、僕たちの間にあった前向きな空気が、また凍りついていくように思えた。


みんな神妙な表情で、静かにうつむいていた。


結果を聞くだけで、どんな残酷なことがあったのか、容易に想像できてしまう。ありありと、目の前にその光景が浮かんでくる。


『二年一組、トゥルークリア。クリアまでの時間60分00秒。死者0名』


僕たちの結果も発表されたけど、誇らしいとは思えなかった。


それはみんなも同じだったようで、教室の中はしーんと静まり返っていた。


……事が起きたのは、一年生のクラスだった。


『一年三組、トゥルークリア』


「!」


これか。


天使がトゥルークリアは2クラスしかないと言っていたけど、一年三組のことだったんだ。


「………………」


そして、その次に発表された結果に……僕は度肝を抜かされた。




『クリアまでの時間、6分17秒。死者0名』




「え!?」


僕は思わず、声が出た。


優太郎くんと海斗くんも、「は!?」と言って席を立っていた。


他のクラスメイトたちも、みんな顔を強張らせていた。


(あ、あのテストを、6分でクリア……?)


僕と優太郎くんと海斗くんは、みんな顔を見合わせた。


天使はそんな僕らを置いていくように、淡々と発表を続けていた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。