第74話【お前のテリトリー】
《8月11日 AM10:00 新上五島町・蛤浜海水浴場》
ザザーン…ザザーン…
ザザーン…ザザーン…
ピョーロロロロロ…
ザザーン…ザザーン…
ここは、長崎県は新上五島町。日本の西の果て…本土から離れた場所にある日本屈指の自然豊かな離島である。
都会の喧騒から完全に分離されたこの島は、他の地域とは全く異なる文化や言葉を持つ。
例えば"方言"…"五島弁"と呼ばれる、この島独自の言語体系の一部は、なんと同じ長崎県内ですら通じない。
そんなことなど序の口で…椿油を使った名産の"五島うどん"、オスメスのペアだと7000円近くで取引される固有種の"ゴトウヒラタクワガタ"、そして世界遺産に選ばれた"教会"…近年は様々なメディアで注目が集まり、お忍びで有名人がやってくることもあるリゾート地になりつつあるが──────────。
「(ニヤニヤ)。」
「何をニヤニヤしてんだよ。」
「久しぶりのハマグリでテンションが上がってるわけ。」
「ふーん…そんなに泳ぐの好きかよ?」
「泳いで"獲る"のがね…ま、都会っ子には分かんないか。」
「獲る?何をだよ。」
「ヒミツ。」
幼少期の大半を上五島で過ごした(というか地元)安成にとって、素潜りなど容易いことである。島にはゲームセンターも映画館もない。コンビニも24時間空いていない。中心街以外の地域など、夜になれば、星と月以外の光が存在しない漆黒の闇の中で、隣をイノシシや鹿が歩いている…なんてことは日常茶飯時なのだ。
ニュースなどで"町中にイノシシが出た"などという報道を見た時も、島の人間は"たかがイノシシ一匹でニュースになるほど都会は暇なのか"とすら思うほどである。
そんな環境に住む子どもたちの遊びといえば、釣りや素潜り、崖や山を己の身一つで体験することが大半を占める。
そうやって強くたくましく育った島の若者が、都会に出てこう思うのである。
「都会っ子って体力ないからね。」
「安成は人間辞めてっからな。」
「ギリ人間だよ…まだ。」
「ギリかよ。」
「ごめんごめーん!着替えに時間かかっちゃって!」
「嘘つき。ホントはウンコしてたくせに。」
「はいはいウンチウンチ。」
「來美さん、耐心は?」
「あ、耐心ちゃんあそこ。」
「泳がないの?耐心。」
「日差しに弱いからあそこでジュース飲んでるって。」
「なんたる軟弱、都会っ子。」
「來美さん。」
「どうしたの?翔馬君。」
「ちゃんとケツ拭いたんすか?」
「いいよウンチは!どんだけ好きだよウンチ!」
「よし、行くぞー。」
「あぁん、待ってよ安成ちゃ〜ん!」
「何さ。」
「離れないでよ!ナンパとかされたら誰が私と耐心ちゃんのこと守るの?」
「どうせされないから大丈夫だよ。」
「クソガキ!」
「どうしても不安なら、はいこれ。」
「何この本。」
「"軟派逃技百烈選"。あらゆるナンパから逃げ出せる方法が書いてるから。」
「胡散臭い本だなぁ…何この出版社、初めてみたんだけど。たみ…あけ…?」
「ハイ行ってきまーす。」
「俺も行こ〜っと。」
「あちょ!2人とも…あーあ…行っちゃった…。」
ライミさ〜ん!
「あ、はーい!ちょ…歩きにくいな砂浜!?」
真夏の砂浜は歩きにくい…浜全体が若干の登り坂になっている蛤浜海水浴場なら尚更だ。休んでいる耐心の元に行くにも、転ばないように慎重に歩かなければならないのだった。
「アンナちゃんとショウマくん、行っちゃいましたね。」
「元気だよねあの2人…まあ安成ちゃんは久しぶりの地元だし、翔馬君は翔馬君で広い砂浜にテンション上がってるのかもね。」
「私もあとでちょっと行ってみようかな…!」
「一緒に行こうね。」
「はい!」
「じゃあ〜私ちょっと飲み物買いに行くから、一緒においで?」
「わかりました!」
「耐心ちゃん何か食べる?」
「かき氷食べたいです!」
「お姉さんが買うてやろう…!」
「あ…えーっと…!」
───────────────────────────
「パイン味?」
「はい!おいしそうだったので!」
「ほんとに良かったの?私、お金あったのに。」
「はい…いや、その…なんと言うか…えっと…。」
「?」
「じ…自分で…自分で働いて、自分で稼いだお金で書いたかったんです…!この前…初めてお給料が出た時に、ママは…きっとこうやって…私のために頑張ってくれてたんだなって…思って…それで…え、えとえと…うぅまくいえないけど…自分で買いたくて…!」
「耐心ちゃん…。」
ドンッ
「キャッ…!」
としゃあ!
「あ…(かき氷が)!」
「耐心ちゃん大丈夫!?」
「私は大丈夫です!けどかき氷が…。」
余所見をしながら歩いてきた男2人にぶつかって倒れてしまった耐心。買ってもらったばかりのかき氷を地面にぶちまけてしまった。
一瞬だけ耐心をチラ見して、何事もなかったかのように歩いていこうとする男たち2人。その様子を見た來美が怒りいっぱいに呼び止める。
「ちょっと!」
「あ?」
「いや、"あ?"じゃなくて…今ぶつかったじゃないですか!」
「余所見してるほうが悪くね?」
「余所見してたのはそっちです!」
「あの…ライミさん、私は大丈夫ですから…。」
「良くないよ。」
「だけど…だけど…。」
「良くない!」
「ライミさん…!」
「ちゃんと謝ってください!余所見してたのはそっちだし!わざとじゃなかったにしても、この子が自分のお金で買った"かき氷"、こんなになったんですよ!」
「うざwなにこれ、俺怒られてる?これw」
「笑い事じゃないです!」
「ダル…オメーらがチンタラしてんのがワリぃんだよ。そのガキの金?知らねぇよ。くだらねぇ小遣いの1つや2つで…クソが。」
「んな…くだらない…!?」
「ちょ、俺らサーフィンしたいんだけど。」
「そっちの都合でしょう!?」
「いい加減にしろよマジでクソアマ…!そんな"かき氷"ぐれぇで
ヒュッ!
ガゴッ
「いってぇ!?」
「どうした…!?」
男のこめかみに走った痛み。まるで木製の警棒か何かでぶん殴られたような衝撃が走る。
隣りにいたもう1人の男が、飛んできた物体の正体に気づくまで、そう時間は掛からず…。
「シュノーケルじゃねぇか!?」
「シュノーケルだぁ!?おい誰だ!こんなもん投げやがったヤツ!」
シュノーケルが飛んできた方向に顔を向ける男2人。目線の先から歩いてくる2人の子どもが煽るように口を開く。
「そんなシュノーケル1つでクラついてるんじゃ、サーフィンなんて出来っこないよオッサン。」
「やめとけよ安成。女と子ども相手じゃないと強くでれねぇ可哀想なイキりジジイかもしれねぇじゃんよ。」
「安成ちゃん…!翔馬君…!」
「んのガキ…!」
「きゃー。助けてくださーい。この2人、子どもと女の子相手に乱暴してますよー。」
ザワザワ…
ザワザワ…
「警察呼ぶぜ?」
「クソ…!覚えてやがれ!」
翔馬の一言が決め手となったのか、その場から男たちは消えた。
「ありがとう2人とも!」
「アンナちゃ〜ん(泣)、ショウマく〜ん(泣)」
「はいはい泣かないの。」
「大丈夫ッスか?」
「助かったよ2人とも…私と耐心ちゃんだけじゃどうしようもなくて…!」
「余所者が…私の上五島で好き勝手やってくれるね。」
「観光客ってことか?マナーがなってないヤツは、どこに行ってもトラブルしか起こさねぇんだから困ったもんだよな。」
兎にも角にも九死に一生。間一髪で助けに来てくれた安成と翔馬の姿が、來美と耐心にはヒーローのように見えていただろう。あまりにもナイスタイミング。
「もしかして…私たち2人に危機が迫っていることを感じ取って戻ってきてくれたの…!?(うるうる)」
「いや、ウンコしたくて。」
「結局ウンチかよ!(ウンチ行き過ぎだよ安成ちゃん)」
───────────────────────────
「あ~…!あのクソアマまじで…!」
「たかがガキの氷なのになぁ〜…。」
「悪目立ちしたせいで誰もナンパに乗ってこねぇし最悪だぜ。」
「そうだな〜……………あ。」
「ん?どうした?」
「よく考えたらあの女…結構美人だったな。」
「ん?あ~…確かにビジュだけは最高だったが…。」
「襲っちまおう。」
「は?」
「襲って楽しもうぜ…どうせ抵抗できっこねぇんだから。」
「オマエって最低だな。」
「問題はガキの方だな…。」
「ガキはボコって捨てちまうおう。」
「うわ!オマエ最低!」
「人のこと言えねぇだろオマエが!」
「へっへっへ…w」
とちゃぷんっ
「ん?」
「どうした?」
「なんか音しなかったか?」
「音?何の音だよ?」
「いや…気のせいかもしれんわ。」
───────────────────────────
2時間後──────。
「おーい!そろそろ帰るよー!」
「帰るってさ。」
「もう昼だもんな。腹減ったし着替えるか。」
「そうだね…ねぇ翔馬。」
「ん〜?」
「どうだった?海。」
「ん?ん〜…そうだな〜…。」
「普通だな!」
「そうか普通か。」
「アンナちゃ〜ん!ショウマく〜ん!行くよ〜!」
「はいはーい!じゃ、行こっか。」
「おー。」
───────────────────────────
ザザーン…ザザーン…
ザザーン…ザザーン…
☆次回予告☆
事件発生!平和な砂浜に打ち上がった腕が告げるのは、惨劇の始まりと激闘の開戦か!?
───次回!
第75話
【怪人JAWS】!
テリトリーの支配者は、安成か!?ディストートか!?
挿絵で使わせていただきました蛤浜海水浴場の写真はAI作成画像ではなく実際の写真で無加工のものです。
無料使用OKのサイトから使わせていただきました。
本当に生で見てもこのくらい綺麗な海水浴場です。
皆さんも遊びに来てね!




