第70話【オレンジ・インパクト②】
「んぐむ…。」
目を覚ました安成。当たりはすっかり夕方だ。カラスが鳴いている…少し眠るつもりがかなり眠ってしまったらしい。
(よし…生きてる。)
寝ている間に殺される可能性もあるこの島で、ここまで眠って生きていることに安堵しつつも、同時に不甲斐なさも感じてしまう。ルリ姉やツル姉なら1週間は眠らずに、もっと強いディストートがもっとたくさんいても余裕で生き延びて帰ってくるだろう。
今の私じゃ危険度C〜Bのディストートを相手に戦って4日間が限界…鍛え方が足りないらしい。
(ホントに良い修行だな。今の自分のレベルが知れる…さて。)
というわけで、服を着替えて活動を再開する安成。同じ場所にとどまっているのは危険だ。これサバイバルの鉄則ね…特今回みたいに自分を狙ってくるヤツが居るような環境では特に。
「よし…。」
木から降りて、森の中を歩く安成。あと4体もディストートが潜んでいるこの島で、今日も含めてあと4日生き延びなければならない。
もしくは、バッドランドもう1つの達成条件である"10匹のディストートの全滅を確認する"こと。これを達成すれば即座に島から出ることができる。
(あと4体…いや、師匠の言葉をそのまま受け取るなら、ディストート同士で潰しあってる可能性を考慮して…多くても2、もしくはめちゃくちゃ強いやつ1…ってとこかな。)
自分の気配は消し、周りの気配には一層気を配って歩く安成。
相手はイノシシや鹿ではない、明確な知性を持つ戦闘特化の怪人なのだ。
一瞬の気の緩みが命取り…油断なんてできやしない。
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全く…油断なんてできやしねぇ。
〘ここもだ…焦げ目…戦闘のあとだな。〙
少しだけだが、俺と同じディストートの身体の一部が残っている…そして地面や木に付いた不自然な焦げ目…間違いねぇ!ここで何かしらの戦いが起こり、ディストートが倒されている!
同じような焦げ目をさっきも別の場所で見た。同じ誰かによる仕業だと見て間違いないだろう。
〘なるほど…おもしれぇヤツがいるな。それもコイツは、俺と同じだ…目的は不明だが、自分からディストートを倒しに行くタイプの仕掛方!〙
全くディストートに遭遇しなくなったのも合点がいった…この"何者か"が他のディストートを倒して数が減ったのだ。
かなりの手練れだな…ここに来て暇を持て余していた俺には丁度いい。
人間は無し、糞雑魚共も手応え無し…そんな中で、俺と同じくらい強いかもしれねぇ奴がもう1人近くにいる!
〘(まさかあの"ジャッキー・シルバー"か…?いや、野郎はこんな物を焦がすような戦い方はしない、むしろ逆だ…それに、ディストート同士での戦いではありえない要素もチラホラある。)〙
焦げ目に触れると肌がピリピリした…何かしらの毒か?いや、それならもっとその毒が色んなところに付着してないとダメだ。
普通の爆発?であれば音で気づくだろう。おそらく大規模な爆発を起こすような物質ではない、もしくは使い手の意思である程度コントロールができる"何か"…!
特殊な銃火器か何かか?それならあんな身体の一部が残るような戦闘にはならないだろう…。
そもそも俺たちディストートにとって"触れるだけでピリつく"レベルの物質なら、ディストート由来じゃねぇ可能性が高いな……………。
〘……………まさか、人間か?〙
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「なにこれ…!?」
森の中を歩いていた安成は、ある物を発見した。
「死骸だ…ディストートの…!」
そこにあったのは、見るも無残に殺された、魚類のディストートの死骸だった。
「穴ほげてる…!」
白目を向いて倒れているディストートの胴体には、大きな穴が空いていた。まるで何か鋭いが猛スピードで突き刺さったような…そんな穴。
もっと気になるのは"穴の空き方と傷跡"…あまり穴が綺麗じゃない…つまり機械だとかそんな文明の利器で空くような穴じゃない。もっと手荒だ…しかも、この穴の空き方は、何度も同じ場所を攻撃して空いたようなものとは違う。一撃だ。強固なディストートの肌に一撃で貫通させている。
「……………強い…!」
ディストート同士で殺し合い…実は珍しいことではない。何故か知らないが、ディストートはディストート同士の攻撃で普通にダメージを負うのである。より強い個体が自分よりも弱い個体を攻撃する事案自体は良く発生する。
ま、それだけ凶暴ってことだ。ディストートってのは。
「まだそんなに時間経ってない…近くにいる…!?」
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〘ん?〙
ピリつくような気配…野郎がこの近くに居るぞ!
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「!?」
凄まじい殺気を感じる…近くにディストートが居る…!?
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〘(おもしれぇ…ちょうど退屈してきたところだ…!)〙
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(ここが修行の正念場…!こんな気配久しぶり…!)
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(〘ここ最近で1番の気配だ…だが…?〙)
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"SELECT NORMAL"
"DISTORT BRAKE MATERIAL"
"COLOR RED LET'S GO"
シュピーンッ!
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〘ん!?〙
肌を刺すような赤い光…!?
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「変身…!」
殺気がこっちに向いた…!目と鼻の先!
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〘へへ…いよいよだ…!〙
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「いよいよだ…!」
いつでも行ける…どこからでもかかってこい!
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〘……………て、顔してるぜ?〙
「顔に出てた?やだな…へへ…!」
〘震えてるぜ?〙
「武者震いだよ…やっと手応えがありそうなヤツが現れたってね!」
〘特大ブーメランだ嬢ちゃん…!まさかとは思ったが本当に人間だったとはな…!〙
「……………………………………。」
〘……………………………………。〙
ドヒュッ!
「……………!」
クルッ!
〘おお!〙
シュタッ
〘アレを避けるとは!〙
「サソリの攻撃方法なんて…ある程度予想がつくもので。」
〘レスポンスバトルも得意なようだ。〙
「だいたいの武術はならったかな…アンタみたいな不意打ち以外。」
〘ハッハッハ!これはすまなかった…。〙
ゆっくりと近づいていく両者。睨み合っていても、互いにこれ以上不意打ちはしないという謎の信頼感を胸に歩を進める。
「ん。」
拳を突き出す安成。
〘ん?ああ…フフフ…。〙
それに答えるように拳を突き出すスコーピオン:ディストート。
トンッ…
ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ!
「おお。」
〘拳を出さないと思ったか?安心しろ…その赤いオーラが我々にダメージを与えるエネルギーであることは理解している。〙
「勇気あるな〜って…教えたっけ?」
〘お前の体から出ている光…身体がピリピリするのでな。〙
「あそ…じゃ、ここからは恨みっこなしってことで。」
〘ああ…楽しい闘いにしよう!〙
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《8月5日目 PM19:20 ジャッキー・シルバーの館》
〘……………。〙
腕を組んで空を見上げるジャッキー・シルバー。8月の19時はまだ向こう側が明るくて薄く赤い。
「そんなに気になりますか?」
〘鶴。〙
「ちゃんと届きましたかね?」
〘安成のスマホを探知して追っていくのだろう?大丈夫だ。寧ろ問題はその後だろう。〙
「ちゃんと使えますかね…何度も試行錯誤して作ったので暴走することはないと思いますケド。」
「新しい性質のD.B.Mなぁ。」
「あらルリ子。」
「アイツらが晩御飯の支度してくれるってよ。」
〘そうか。〙
「島の方見つめるくらい心配なら行かせなきゃ良かったんだ。」
〘そうではない…。ただ、少し思い出していたのだ。〙
「思い出してた?何をだよ?w」
〘お前たち3人の修行時代のことだ…。〙
「まあ…うふふ♡」




