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27.双子の姫たちとの昼食

 来る日も来る日も忙しそうなレンとは、次第に朝食さえ一緒に取るのが難しくなって行き、レンとの物理的距離が離れたせいか、フェリシアの心は随分と落ち着いた。



「立太子って、大変なのね」


 しかし、立太子の儀の内容を聞いた感じではそんなに重たい内容の儀式ではない。形式的な部分が多く準備がそれほど必要には思えなかったが、おそらくフェリシアには知り得ないことがあるのだろうと想像するしかない。


 逆にフェリシアは時間を持て余し始めていた。

 立太子の儀に参加することになったため、どう言う動きをしなければならないかなどを学んだが、それほど難しいことはなく、フェリシアのやることは多くない。

 

 この地域の最近の動向に関する本についても一通りざっくりと読んだため、何となく状況はわかってきた。

 ただ避けたのは山脈の向こうの西側諸国の情報だ。フェリシアはまだ元の自分の国の百年分の歴史を受け入れられる自信がなかった。

 


「フェリシア様、姫様たちからお昼のお誘いがありますがいかがいたしますか?」

 こう言う暇を持て余してしまったときの双子の姫たちの誘いはありがたい。

「喜んでとお伝えして」

 フェリシアがそう答えるとクデリが頷いて部屋を出て行く。



 二人が誘ってくれたのは、皇城の北側にある青の庭園でのお昼ご飯だった。テーブルなどを運び込みセッティングした二人は、フェリシアが来るのを今か今かと待ってくれていた。


 フェリシアが庭園に足を踏み入れると二人は揃って出迎えてくれる。

「お義姉様!」

 二人が両側から腕を掴んでフェリシアをテーブルへ招く。にこにことして嬉しそうにしてくれる様子にフェリシアも嬉しくなる。


「私たちが準備したのよ」

「すごい?すごい?」

「えぇ、すごいわ。ありがとう」

 自分のために二人が頑張ってくれたのかと思うと、心が温かくなり二人をぎゅっと抱きしめる。二人も嬉しそうにフェリシアに抱きついてくれて、さらに嬉しくなった。


 テーブルの上にはすでにサンドイッチなどの手軽に食べられる食事が用意されている。

 三人は席に着くと、お茶を飲み談笑しつつ昼食を食べた。


「お兄様って、お姉様のお相手もしていないの?」

「いくら忙しいからって酷くない?」

 フェリシアはなんとも言えず笑うしかなく、二人の厳しい意見に耳を傾ける。

「そもそもお姉様を連れてきたのはお兄様なのに」

「ほったらかしなんてよくないわ」

「レンは、忙しいから仕方ないですよ」

 フェリシアがそういうと二人は同時に視線を向けてくる。

「お姉様は甘いですわ」

「たとえ忙しくても時間を作るのができる男です」

 プリプリと怒った表情を見せる二人が可愛くてフェリシアはつい笑ってしまう。


「レンは十分いい男ですよ」

 さらりと口から滑り落ちた言葉に、フェリシアは思わず自分の口を手で押さえた。


 私、今何言った⁉︎


 まるでレンを男として見ているような言い方である。目の前の二人には違和感のない言葉かもしれないが、フェリシア自身が驚いてしまう。


「お姉様も、お兄様のこと案外お好きなのね」

「てっきりお兄様の片想いなのかと」

 二人はコロコロと笑っていうが、逆にフェリシアは焦ってしまう。

「い、いえ、今のは別にそう言う意味では……!」

「お姉様真っ赤です」

「りんごより真っ赤です」

 二人に指摘されてどうすることもできずフェリシアはいつもより熱い頬を手で押さえる。


「安心しました」

「ちゃんとお義姉様がお義姉様になってくれそうで」

「お兄様いっぱい描いてたもの」

「ね。いっぱい描いてたもの」

 話が読めずフェリシアは二人に聞き返す。

「何を描いてたのですか?」

「絵を」

「いっぱいね」

「お兄様の部屋に……。あ、そういえばお義姉様、旧帝国のお城へ行ったって聞いたわ」

「そういえば、ピクニックに行かれたって。どうでした?」


 ピクニックという体にしただけであって、実際にピクニックらしいことはしていないが、旧帝国の城へは行ったので、フェリシアは簡単にその話をした。


「レンからお聞きになりましたか?」

「いいえ、カイゼント卿から」

 二人が急に後方へ視線を向けるため、フェリシアもつられて視線を追う。


 するとそこには何人か立っている護衛騎士の中に、カイゼント卿の姿があった。

「カイゼント卿?姫様たちの護衛になったのですか?」

「レンダリオ殿下の担当からは外されまして」

 困ったように微笑でそう言った。外された理由は多分レンがそう指示したせいだろうとはなんとなく思ってしまうが、今度は双子の姫たちの護衛になったようだ。


「カイゼント卿は、優しくて紳士だからいいわ」

「なんでもしてくれるものね」

 二人で「ねー」と笑い合っているが、なんか変なことをしていないかハラハラするのはフェリシアだけではないに違いない。

「……、カイゼント卿は大丈夫ですか?」

「ご心配頂き恐縮です。ですが、姫さまたちのお願いは可愛らしいものですよ」

 そう爽やかに笑うカイゼント卿は本当にそう思っているようにしか見えない。双子もとてもお気に入りの近衛騎士のようで、にこにこしている。


「それなら良かったです」

「……フェリシア様もお変わりございませんか?」

 何故かとても心配そうにそう聞かれて、フェリシアは軽く頷いた。頷いたフェリシアに対して、カイゼント卿はまだ何か言いたそうだったが、そっと口を閉じたように見えた。


「お義姉様、お菓子も頂きましょう」

「これ、カイゼント卿が買ってきてくれたの」

「今人気のお店のクッキーなの」


 近衛騎士に買い物に行かせてどうするのだというツッコミをしたかったが、とりあえずフェリシアは「美味しそうですね」と返しておいた。


 久しぶりの楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。

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