図書室の天使
15時30分。
授業が終わり、だいたいのクラスのHRが終わるのはこの時間だと思う。
「あ…。」
私は、HRが終わったその瞬間に図書室に来ていた。彼女は、来てくれたのだろうかと半分不安を抱えて。
いつものように、人がほとんど来ない…静かな図書室。
そこに女の子がいる。
私は、いつも図書室にいる天使に会うことが楽しみで目的そのものだった。
それ以外どうでもよかった。
だから…。
「良かった…。」
天使以外の女の子とここで会って安堵するなんて、不思議だった。
三つ編みのおさげに丸メガネ。
前髪が長すぎて、顔が見えない女の子。
二組の近衛さんが、来てくれていた。
「えっと…。」
「こんにちは。」
「え!?」
しゃ、喋った!?
「こんにちは。」
また喋った!?
い、いや…落ち着け。うん、ここから何も考えてなかったから、驚いただけ…うん。
「こ、こ、こんにちは。」
見事に声が裏返った。
何これ。私、緊張しすぎでは?
「大丈夫?」
「だ、大丈夫よ!!」
喋ったことないのでは!?おかしくない!?
いや、おかしいのは私だわ。
今まで喋らないだけで、喋られないわけじゃない。そして挨拶は誰であろうと基本!
落ち着け、落ち着くのよ、私!!
「えっと…来てくれて、ありがとう。」
「どういたしまして。なんとなくだけど、お昼のアレ、メッセージだと思ったから。」
良かった…ちゃんと伝わってたみたい。
半分確信していたとはいえ、内心不安だったんだよね。
「それで、何かな。」
「え、えっと……。」
どう答えよう?
何も考えてなかった。
「近衛さんと…お話…したくて。」
「私と?今まで、まともに話したことないのに。変わってるのね、上坂恵那さん。」
「あ…私のこと…。」
「同級生だもの。」
そ、そんなものですか。もしかして同級生の名前、全て覚えてるとか?
「私…元々人を探していて。いつも図書室に来てくれる天使みたいに可愛い女の子なんだけど…。忘れ物していたの。」
「図書室で会えるんじゃないの?」
「最近、図書室で騒いだら怒らせちゃって。それで、何度か担当じゃない日にこっそり顔を出したけど…もう来てくれなくなってて。」
迷ったけど、正直に話すことにした。
なんか、嘘をつきたくなかった。
「それで探すことにした。私、迷ったら行動するようにしてるし。」
「そう。」
「今日二組に来たのもそう。海未…幼なじみのクラスに名字が同じ子がいるって聞いたんだけど…近衛さんを見たらもっと話したいって思ったんだ。」
「だからお昼にメッセージを。」
「そうだよ。だから来てくれてありがとう。正直に言うとね、何話すとか考えてなくて内心焦ってる。」
なんだか緊張が解けて、その場で座りたい気分になった。
それでもなんとか踏ん張ってる私は自分をほめてあげたいわ。
「あああ!でもどうしようかな…天使の手がかりがなくなっちゃった!!」
これからどうしたらいいのかな。
もう天使に会えないのかな。
もう天使を眺めることができないのかな。
「そんなに天使に会いたいの?」
「うん。すごく会いたい。だって、もっと眺めていたい。」
「私と話したくて、でも天使にも会いたいって・・・。上坂さんってちょっと浮気性なのね。」
「う・・・。」
それを言われると、全くその通りなのだから何も返せないや。
「それが天然なのか、素で性分なのか分からないけれど・・・。」
声音だけで、怪しんでいるのが分かる。でもどこか・・・嬉しそうにも聞こえる。そんな彼女にまた興味が湧いてきて、彼女目を離せなくなる。
「でも・・・。」
すると近衛さんは、
「これ以上にないほど嬉しい。」
トレードマークとも言えるおさげを解いて、丸メガネも外して・・・まっすぐ私の方をしっかりと見たのだった。
その姿は、
「・・・天使?」
少しウェーブのかかった長く美しい髪の毛に、パッチリと大きな目。そして小ぶりな顔立ち。
私が探し続けていて、会いたくて会いたくて焦がれていたあの天使そのものだったのだ。
「無自覚とはいえ、まさか二回も上坂さんに探してもらえたなんて・・・夢みたい。」
「えっと・・・もしかして。」
「うん。いつもあなたからの視線を感じていたよ。」
な、な、な。
なんてこったい。本当に天使が・・・あの天使が・・・。
「じゃ、じゃあさ。もしかしてバレバレだったりしますか。」
「うん・・・あんな好意的な視線・・・気にしないフリするのが大変だったの。」
再びなんてこったい。
私的には完璧に隠しきっていたつもりだったのに。それもただ見てるだけでなく、私自身の気持ちまで…。
そう・・・私は初めて見た時から本気で好きになっていたのさ!!自分ではただ尊いだけで、憧れだけって聞かせていたけれども、無理でした。
うわああ。穴があったら、化石を探す旅に出たい。
「上坂さん。」
「な、何でしょう。」
「私ね。すごく舞い上がっていたの。」
「え?」
「だって大好きな上坂さんの視線を独り占め出来るのだから。」
それは、己惚れてもいいの?
そのままの意味として・・・受け取ってもいいの?
「ずっと話しかけてほしいなって待ってた。私自身が勇気なくて。」
「それは、」
ごめん。私も勇気がなくて、眺めているだけで満足していた部分も大きくあった。むしろ私なんかが天使に近づくことさえ、おこがましいとも。
「そんな時山西さんが来た瞬間、あなたの視線が私から外れて・・・私を見なくなって、山西さんに向けられた。それがたまらなく嫌だった。」
「じゃあもしかして、声をかけてくれた時って…。」
「ヤキモチ焼いちゃった・・・。」
か、か、か、可愛いいいいいいい!!!!
じゃああれは、怒ってはいたけれども怒りだけじゃなくて、嫉妬心
どうしよう、すごく嬉しい。嫌われていなかったどころか好かれていた。ニヤニヤが止まんないや。
「でもやっぱり繋がりが欲しくて・・・話しかけてほしくて、栞をわざと残しました。きっと私のことでいっぱいになってくれるって。でもまさかあの姿の私にあんなメッセージを残してくれたなんて。」
それなら近衛さんの思惑通り。
近衛さん・・あの天使のことでいっぱいになったのだから。
「上坂さん、大好きです。ずっと前からあなたのことが好き。」
「近衛さん。」
そんなの…
そんなことは・・・。
「近衛さん、知ってると思うけど、私も近衛さんが好きです、ずっと恋をしていました。」
初めて天使を見た時から。
そして・・・今日、クラスに会いに行った時も惹かれた。
「だからまず・・・あなたの名前を教えて下さい。」
「はい。私は蜜莉、近衛蜜莉っていうの。」
「蜜莉・・・。」
なんてぴったりな名前なんだろうか。
彼女らしい、甘く可愛い名前。
「わ・・・すごくドキドキする、好きな人に名前を呼ばれるのって。」
「その微笑みは反則でしょ・・・。」
ふにゃりと笑ったその破壊力。きっと周りの人間を一瞬で虜にできるような微笑みだった。きっと天使の微笑みとは、こういうことを指すのだろうなって思う。
そんな彼女を今後は私が独り占めできると思うと・・・。
「蜜莉。」
「何・・・わっ!」
私は彼女を抱き寄せた。
すごく緊張したし、なんなら今も心臓が破裂しそうなほど高鳴っている。
それでも彼女に触れたくてたまらなかった。
「大事にするから。」
「うん・・・。」
「それから・・・覚悟してね。」
勇気がなくてたくさん待たせてしまったから、その分もう遠慮はしない。
そんな意味も込めて私は耳元でそっと天使に囁いた。




