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第二百七十二話 予行

 転移門の予行は、クエストの説明を受けてから十日後の今日実施することになり。

 一昨日にリオルさんから報告を受けた僕たちは、はるばる一陣――を少し過ぎたところまでやって来て、周囲の魔物をブチのめし、予行の準備にかかっていた。


 決行までにやたら時間がかかると思ったが、リオルさんに言わせるとこれでも急ピッチで準備を進めた方らしい。


 なにせ、転移門は人を一瞬で遠くまで運ぶ術式。

 ちょっとした不備があっただけで、利用者は容易に死ぬ。


 なので、ラナちゃんの術式をリオルさんが検証した後、職人さんたちが試作品を作成し、色々と実験をしたそうだ。

 最初は無生物、次に小動物、大型の家畜、そして――あまり大声で言える話ではないが――最後には、減刑を餌に死刑囚を使って実験したらしい。


「……で、結局術式の不備らしい不備はなかったのだがな」


 一メートル四方程の板を並べながら、リオルさんは呆れたような、感心したような声を上げる。


「ええと、多分、すごいことなんですよね?」

「ラナ君本人は魔力が少なくて実験もできないのだろう? 机上だけで完動する術式を新しく組み上げるのは……まあ、察してくれ。ちなみに、私が即興で色んな術式を組み上げることができているのは、今までの経験プラス発動前に諸々チェックを入れているからだぞ?」


 ……いや、どっちもどっちな気がする。リオルさんの魔導の発動速度で、チェックなんてやってる暇あんのか?


 と、雲の上のような話に呆れ返りながら、僕もリオルさんと同じく板を配置していく。


「あ、ヘンリー。今置いた術式板は九十度右回転させてくれ」

「はいはい」


 言われたとおりに置いた板を再配置する。


 ……こいつが転移門を構成する術式が刻まれている『術式板』。

 あまり冒険者が利用するようなシーンはないが、例えば気温を調節する結界だったり、大規模な攻性術式だったり、複雑かつ大規模な魔導を外で使用する際に利用されるものだ。軍とかでは結構使っている。


 んで、周辺警戒をゼストとティオに任せつつ、僕、シリル、ジェンド、フェリス、リオルさんでこの術式板を配置している、というわけだ。


 今回の術式板は三十六枚組。この板を適切に配置することで転移門が組み上がる。


 ティオの鞄の容量的にはもっとデカいのも運べるが、現場で板を配置する時間、発動に必要な魔力量などを勘案してこのサイズになったらしい。なお、リーガレオからリースヴィントへピストン輸送するため、同じ規格の転移門が何組も製造中とのことである。


 ……しかし、街ん中で術式板を並べる練習は何度もやったのに、いまだにちょいちょいミスっちまうな。

 まあ『なんか複雑な模様が描いてあるよくわからん板』なんで、上下左右すら覚えきれないし。番号の付箋貼ってあるから、完成図と見比べれば位置だけはなんとかなるが。


「おっと、シリルさん。君の置いているそれは左右逆だ」

「あっ、すみません」


 と、シリルも三回目の指摘である。

 なお、何気にジェンドはミスっていない。……頭いいしなあ、あいつ。


「ふむ……通常、術式板を運用するような者たちは、配置を完全に頭に叩き込んでいるから失念していたが、不慣れな者だとこうなるか。付箋は適当に付けていたが、上に付けるなどのルールを設けたほうがいいな」

「あ、そうですね」


 付箋がついているのが完成図の上側ってわかってれば、ぐっと楽になる。


「まあ、反省はともかく。これで完成、だ」


 リオルさんが最後の術式板を置く。


 完成したのは、正方形の術式陣。練習中に何度も見たが、精緻に描かれたクロシード式の術式の組み合わせが、なにかの芸術品かなにかのように見える。


「さて、ここからが本番だ。手筈通り、リーガレオにいる人間をここに転移させる」


 リオルさんは一つ頷いて、シリルの方を向いた。


「シリルさん、魔力を高めておいてくれるかな? 私はリーガレオ側の転移門担当に連絡を取る」

「はいっ、承知いたしました!」


 シリルが、朗々と歌を歌い始める。

 転移門を発動させるために必要な魔力は膨大で、こうして増幅させないといけない。


 術式陣に上手く流すためには練習が必要だが、やってる暇はないので適当に垂れ流してリオルさんがうまく制御する形になる。

 ……これも立派なトンデモ技術な気がするが。


「フェリス君は、念のためここに残ってくれ。ヘンリーとジェンド君はゼストたちと一緒に魔物を警戒だ。この辺りの魔物は排除したが、彼女の歌に引かれて来るものもいるだろう」

「わかりました」


 リオルさんが懐から取り出した水晶型の魔導具――これまたラナちゃん謹製の通信術式を搭載した最新型――で、リーガレオと通信を始めているのを横目に、僕とジェンドはそれぞれ武器を構えて、ゼストたちに合流した。


 で、ゼストは僕たちを見て、


「ようやく完成したか。意外と手間取ったな」

「うるさい。早々に配置役放棄したやつが言うな」

「悪いが、俺にああいう作業は無理だ。覚えられん」


 堂々と言い切るな、馬鹿。


「私はラナの術式、組み立ててみたかったんですが」

「組み上げ中の警戒役はティオが適役だしなあ。俺なんかが警戒に立ったら、魔物がすぐ近くに来るまで気付けないし」

「……そうですね。ちなみに、南東方向から魔物来てます、今」


 えっ、とジェンドが声を上げる。

 いや、安心しろ。僕もまだ気付けてない。


「んー? ティオ、種類とかわかるか?」


 南東方面は岩山とか林とか色々あって見えん。


「多分動物系の群れですね。岩山の向こう、吠え声が聞こえたので」


 聞こえたか? とゼストに目線で聞いてみると、無言で首を横に振られた。


「あ、竜も来ました。まだ遠いですが、走行速度から推定地竜……が、およそ三匹」

「うお、マジだ」


 真南の地平線あたりから、こっちに向かってくる影。こっちは遮るものがないので僕も見えるが、ドラゴン三匹はちっとハードだな。


「シリルの歌声と魔力は目立つからなあ」

「言っても仕方がないぞ、ジェンド。構えろ」

「はいよっと」


 ジェンドが大剣を構え直し、ゼストがやや前に出る。

 僕は二人から少し距離を取り、如意天槍を投擲に向いた形状へ変化させた。


「ヘンリーさん、強化ポーションは?」

「筋力のいい目のやつを一本くれ」


 地竜はドラゴンの中でも特別硬い。投槍で仕留めんならバフが欲しいトコだ。


 ティオからひょい、と投げ渡されたポーションを一気に飲み干し、そろそろ姿も見えてきた三匹のドラゴンを見据える。……といったところで、南東の岩山の影から鬼虎の群れがこんにちはと姿を現した。


 上級中位の鬼虎とドラゴン三匹。どっちを先に狙うか一瞬迷うが、万が一後逸させて転移門の術式板を崩されたら、予行はやりなおしだ。

 数の多い鬼虎を先に仕留めることにする。


 ……改めて、デカい群れだ。二、三発じゃ全滅無理か?


「ジェンド、ゼスト! 鬼虎は僕がやるから、ドラゴンの方は頼んだ!」

『了解!』


 二人の力強い返事に頷きつつ、慎重に構えて連中が間合いに入ってくるのをじっと待つ。


 もう少し……もう少し……今っ!


「《強化(ハザク)》+《強化(ハザク)》!」


 ぐいん、と体を弓のようにしならせ、強化を込めた如意天槍を思い切り振りかぶる。

 ……あんだけ大きな群れなら多少狙いが逸れてもまず当たる。威力重視の構えで、数歩助走し、


「ッッツォラァ!」


 投げ。


 途中、五十に分裂させた如意天槍が、鬼虎の群れのやや左寄りのところに突き刺さり、群れの四半分程を引き裂いた。


「っし、悪くない。次行くぞ!」


 如意天槍を引き戻していると、『あっ』とティオが声を上げる。


「ヘンリーさん。この辺の魔物、一度は排除しましたけど、普通に近辺に『発生』し始めました。あと、南側からも魔物のおかわりです」

「~~っ、ええいっ、了解!」


 くっそ、こういう時、シリルの魔法でドーンって一掃すんのが気持ちいいんだけどなあ!


 そんな泣き言を胸に抱えつつ、僕たちは戦いに臨むのだった。















 そうして、ますます圧力が強まる魔物を、後ろに一切逸らさないよう……また、後ろの連中の近くに『発生』する魔物を、投槍で仕留めながら尽力すること十分程。


 カッ、という光が、背後で瞬いた。


 四方都市や王都との行き来に何度も世話になった、転移門発動の光。

 シリルが高めた魔力を、リオルさんが自分のそれも上乗せして術式陣に流し……今、いよいよ発動した。


「お、おおおおおおおおお!? ここは間違いなく、一陣の先! 本当にこのように瘴気の濃い場所に転移できるとは、ラナ嬢は凄まじいな! いやいや、ウチの宿舎に泊まっていた頃が懐かしい!」


 事前の打ち合わせ通りの人材だけど相変わらずうるせえ!


「エッゼさん! 転移してきたんだったら、魔物倒すの手伝ってくれませんかね!? シリルとリオルさんも!」


 メイン火力のシリルがいないと、実際結構キツいんだよ! 数減らしがおっつかない!


「うむっ、任せよ! このような晴れ舞台だ、折角であるし、ここで我の新必殺技のお披露目といこう!」


 新必殺技!?


 なにを子供のようなことを……とか思いながら振り向いてみると、エッゼさんは自身の大剣を軸に、長大な光の剣を吹き上げさせている。


「いつものルミナスブレードじゃないっすか!」

「ここまではその通りだが、ここからが違う! ヘンリー、ジェンド、ゼスト、ティオ嬢! 巻き込んでしまうゆえ、適当に下がってこい!」


 なにを、と反論する暇も惜しい。

 こと戦いに関して、エッゼさんの指示に逆らうのは愚の骨頂だ。


 僕は切りかかってきた骸骨騎士を薙ぎ払って、後ろに飛ぶ。

 他のみんなも、今相手している連中をいなしながら後退した。


 リオルさんの的確な魔導での援護もあり、僕たちは全員無事に前進してきたエッゼさんの後ろに回ることに成功する。


「うむ、ではお見せしよう!」


 ゆらっ、とエッゼさんが大剣を操る。

 この動きは、すげー長え剣で、前方の魔物を薙ぎ払う、エッゼさん得意の『山断ち・横式』……


「フンッッッッ!」


 思った通り、エッゼさんのルミナスブレードが、半円状に数百メートルの範囲で魔物をぶった切……あれ、なんか光の剣が飛んでってるんだけど。


 エッゼさんの大剣から光は消え、自由を得た? 光の刃が前方に進み、進路上の魔物を切り捨てていく。

 それは、ずぅっと前まで進んでいき……地平線近くでようやく消失した。


 ……まだ左右とか後ろには魔物残ってるけど、一番圧の強かった前側の魔物は、直近数百メートルの範囲はほぼ全滅。それより向こうの連中も、運良くさっきのの範囲の外じゃない連中は大体死んでる。


「うむ! 成功だな!」

「……エッゼさん、今のは?」

「射程のある技が欲しくて開発した、『山断ち・飛び式』である」


 アンタのルミナスブレードは元々大剣にありえていい射程じゃないんですけど!?


 し、しかし、うん。そうか。


「そ、その……ジェンドの飛炎剣みたいなもの、ってことですね」


 炎を操るジェンドも、炎の刃を飛ばす師匠直伝の技を操る。


「その通りである! なにを隠そう、あの技から着想を得たのだ。……ふっ、ジェンド、すまぬな!」


 なんかジェンドの奴、ブンブンブンと手を必死に横に振ってるが、規模こそ違えど原理は似たようなもんだろう。そうしとこう。


「まだまだ魔物はいるな! よし、もう何度か試してみるのである!」

「リーガレオ方面には撃たないでくださいよ!」


 こんだけの射程なら、一陣で気張ってる連中にまで届きかねない。


「承知しておる! ではゆくぞ!」




 ……まあ、こんな感じで。

 転移門の予行は大成功。


 英雄クラスの戦力を、万全の状態で即座に前線に引っ張ってこれるということを証明したのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] この調子ならそのうち、一定範囲内で強制的に魔物の発生を阻害出来る対魔物ジャーマーなんかも開発しそうだな(-_-;)<ラナ
[良い点] 範囲攻撃で即死攻撃で遠距離攻撃でクールタイムほぼ無しはチートww [気になる点] シリルの間違えた板 左右逆は違和感ある 左右が逆なら180度逆で上下も逆になるか、 もしくは裏表が逆だから…
[良い点] エッゼさんもやはりエッゼさんであった。 [気になる点] ジェンドとリカルドさんの飛炎剣は剣に術式を刻んで魔導と剣術の合せ技ですけど、エッぜさんその辺無視して自力で飛ばしていませんか? ジェ…
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