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黄金の国の狩人  作者: 神誠
第二章 騎士と魔獣

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遭遇

 カールは冒険者たちと共に山中を歩いていた。

 斥候であるアメリアが先頭を歩き、皆を先導している。

 既に日は陰り始めていた。

 陽の光は木々によって遮られ、昼でもあまり明るくはならないような場所だ。

 まだ日は落ちきっていないが、既に足元も見えづらくなり始めている。


 見上げると、木々の隙間から赤く染まった空が見えた。

 そろそろ獣の痕跡も確認しづらくなっているはずだ。


「今日はこれ以上は無理ね」


 アメリアが振り返って、すぐ後ろを歩くデニスに声を掛ける

 デニスが頷き、後ろに続く仲間たちに視線を向けた。


「今日はこのへんで野営しよう」


 デニスの言葉に仲間たちが頷きを返す。

 アメリアが少し開けた場所を見つけ、そこで野営のための準備を始める。

 準備と言っても、焚き火に使う枯れ木を集めるだけだったが。


 カールは身につけていた兜を脱ぎ、地面に置いた。

 背に負っていた円盾も兜の横に降ろし、薪集めを手伝い始める。

 カールが脱いだ兜は鋼製だったが、鎧は革製のものを身に着けていた。

 普段は騎士として鋼製の全身鎧を身につけていたが、それでは山中を歩き回るのには適さないと判断した為だった。

 腰に佩いた宝剣は身につけたままだった。

 その剣だけは何をするときも身につけるか、手の届く場所に置いていた。

 父から預かった大事な剣だ。

 軽々しくその身から離してはいけないと思っていた。


 やがて準備が整い、皆で焚き火を囲んで腰を下ろした。

 各々が持参した携帯食料を取りながら、これまでの調査と明日からの予定について確認をする。


 彼らが獣の調査のためにこの山に入って、もう四日目になる。

 まだ、それらしい獣の痕跡を見つけることは出来ていない。

 麓の村で得た情報によれば、獣は狼のような姿でその体は赤黒い毛で覆われていたのだそうだ。

 またその体は並の狼よりもかなり大きかったらしい。

 より詳細な情報が欲しかったが、目撃した者たちも遠目に見ただけらしく、それ以上の細かい特徴はわからなかった。

 まだ何の成果も出ていなかったが、痕跡を完全に消し去ることなど出来るはずもない。

 じきに何か発見できるだろうと彼らはそう考えていた。


 一通り調査について話し合った後は、他愛のない思い出話や冒険者たちの身の上話で盛り上がった。

 冒険者たちがどのようにして出会ったか、これまでにどんな冒険をしてきたか、そんな話を冒険者たちは楽しげに語り続けた。


 カールにとって、彼らの話はなかなかに興味深いものだった。

 カールも冒険に憧れないわけではない。

 冒険者たちを少し羨ましいとすら思った。

 カールは彼らとこうやって過ごす時間を楽しんでいた。

 まだ短い付き合いだったが、カールはこの仲間たちのことが気に入り始めていた。


 そうやって語り合っているうちに夜も更け、彼らは明日に備えて床についた。

 今夜はカールは見張りの当番では無い。

 何もなければ朝まで眠れるだろう。

 横になり目を閉じる。

 一日中歩き回っていた疲れのせいか、数分も立たぬうちにその意識は眠りの中へと落ちていった。







 その日の深夜、見張りの当番になっていたアメリアは一人焚き火の番をしながら退屈を紛らわせる方法はないかと考えていた。

 周りでは仲間たちが眠っている。

 その耳に聞こえてくるのは燃える焚き木の爆ぜる音と仲間の寝息、後は虫の声くらいだ。

 寝ている仲間を見回していたアメリアは、やがてカールの寝顔に目を留めた。


「騎士さま、ホント綺麗な顔してるなー」


 朝までカールの寝顔を眺めて暇を潰そうかなどとアメリアが考え始めたときだった。


 ……ケテ


 何かが聞こえたような気がした。

 人の声に似たような何か。

 だがこんな山の中、しかも危険な獣がうろついていると言われている場所に自分たち以外の人間がいるとは思えない。

 おそらく気のせいだろう。

 アメリアは小さくため息を付いた。


「タスケテ……」


 今度ははっきりと聞こえた。

 驚き、再び耳を澄ませてみる。


「タスケテ……」


 間違いない。

 子供のような声で助けを求める声が聞こえた。

 だが、こんなところに子供がいる筈がなかった。

 声のした方角に向かって声をかけてみる。


「誰かいるの?」


 それに答えるように再び声が聞こえた。


「タスケテ……」


 その声は少し離れた茂みの中から聞こえてきているように思えた。

 こんな山の中で、しかも危険な獣がうろついている状況で子供の声が聞こえてくるなど、どう考えてもおかしい。

 アメリアは振り返り、仲間たちの姿を確認する。

 まだ、誰も気づいている様子はなく、全員眠ったままだ。

 前方の茂みに視線を戻し、大きく息を吸い込んだ。


「助けて欲しいなら姿を現しな!」


 大声で前方の茂みに向かって誰何する。

 その大声を聞いて仲間が皆目を覚まし、起き上がって武器を取る。


「何かあったのか?」

「前方の茂みに何かいる」


 武器を手にした仲間たちが彼女の後ろに集まって来た。

 アメリアはそれを振り返ることもせず、その視線は真っ直ぐに前を見つめたままだった。

 デニスがアメリアの隣に立ち声をかける。


「何がいるんだ?」

「わからない」

「他に何かわかってる事は?」

「助けを求める声がした。子供の声」

「何?」

「ありえないでしょ? こんな山の中、しかも夜中に子供がいるはずがない」


 そのまま、全員で周りを警戒することになった。

 しばらくそうして警戒を続けたが、再び声が聞こえてくることは無かった。

 やがて、カールとデニスが二人で見張りに立ち、他の仲間は休ませることになった。

 それからは夜が明けるまでおかしなことは何も起きなかった。


 翌朝、彼らは昨晩起こった事について話し合った。


「アメリア、声が聞こえたというのはこっちか?」

「ええ、そうよ。ちょっと調べたいんだけど、時間を貰える?」


 茂みに視線を送るカールの問いに答えながら、アメリアは歩き出そうとする。


「ああ、だが一人で行動するのは避けてくれ」

「俺がついていくよ」


 デニスが声を上げ、二人は茂みの中へと歩いていく。

 調査を終えた二人が戻ってくるのにそう時間はかからなかった。

 そして、戻って来たときの二人の表情は厳しいものに変わっていた。


「このすぐ先で獣の足跡を見つけたわ。狼に似た足跡。ただし、普通の狼とは比べ物にならないくらいでかい」

「俺も見たが想像以上だ、あれは」

「そうね。私の見た限りでは多分牛よりもでかい」


 そのアメリアの言葉に皆が一様に驚きの声を上げる。


「牛よりでかい狼だって?」

「ええ。信じられないなら自分で確認してみる?」


 アメリアの問いにカールは小さく首を振って答える。


「いや、信じよう」


 そう口にしながら、カールは周りの仲間を見回す。

 牛よりも大きな狼など聞いたこともない。

 相手は未知の魔物である可能性もある。

 得体の知れない相手だ。

 もし戦闘になった場合、このメンバーで対応できるだろうかと考える。


「どうする? 雇い主はアンタだ。アンタの指示に従うよ」


 デニスの言葉にカールは暫く考える素振りを見せた後で答えた。


「まだ情報が少なすぎる。出来ればもう少し情報を集めたいと思うが君たちはどうだ?」

「アタシも一応は賛成かな」

「一旦撤退してまた来るにしても、今ある情報だけではどうにもならないだろうな」


 今のままでは相手の情報が少なすぎる。

 もう少し情報が欲しかった。

 出来ることなら危険を犯したくはなかったが。


「しかし、昨日聞こえた声というのは何だったんだ? まさかその獣が出した声ってわけでもないんだろう?」


 デニスの問いにアメリアがわからないといった体で首を振って答える。


「どうかしらね。獲物の鳴き声を真似ておびき寄せる獣がいるって話も聞いたことはあるけどね」

「獣が人間の声真似をしたってのか? 冗談だろ?」

「アタシに聞かれてもね」


 そう言ってアメリアは肩を竦めてみせた。


「獣の足跡を辿れるか?」


 カールに問われたアメリアは自慢げに微笑みながら胸を叩いてみせた。


「ええ、もちろんよ」


 その後、アメリアは一行の先頭に立って獣の追跡を始めた。

 そうして、どれほど歩いただろうか?

 アメリアが足を止め、今まで以上に念入りに辺りを探り始めた。


「ここで足跡が消えてる」


 彼女は皆をその場に待たせて、しばらく辺りの地面を確認していたが、やがて顔を上げ周りをキョロキョロと見回し始めた。


「まさかね」

「どうした?」

「ちょっとね。おかしなところがあって。調べていい?」


 そう言ってアメリアは近くの木に登り始めた。

 その木から降りてくると、今度は別の木に登り、その木の樹皮を調べ始める

 他のメンバーは皆それを何も言わずに見守っていた。

 アメリアは優秀な斥候だ。

 こういった調査や追跡に関して彼女の仕事に口を出せるものはいなかった。

 そうやって何本かの木を調べたあとにアメリアは皆のところに戻ってきた。

 皆の前で彼女は頭を左右に振りながら、ため息をつく。


「みんな、ちょっと聞いて。あの獣の足跡をつけてきてわかったことだけど……」

「まさか木に登れるってんじゃないよね?」


 冗談半分で質問したホルストにアメリアは真顔で答える。


「登れるかはわからない。けど、木の間を跳び回って移動したりも出来るみたい」

「どういう事ですか?」


 眉を潜め質問するイルマにアメリアは険しい表情で答えた。


「木の幹にデカイ爪の跡があった。反対側の木にも同じような傷があったから、木と木の間を跳ねるみたいに跳びまわってたんじゃないかと思う」

「跳び回る?」


 アメリアの返答にデニスが信じられないというように眉を寄せる。


「体は牛よりデカイって話だったよな」

「ええ、何かの間違いならいいんだけどね。間違いでなければ牛よりでかい体なのに木の間を跳ね回れるくらいに身軽だってことよ」

「ちょっと想像できんな。本当ならかなりヤバそうだってのは何となく分かるが」

「実際どの程度なのかわからないけど、地上での動きも相当に素早いと思ったほうがいいでしょうね」


 二人の会話にイルマが不安げに口を挟んだ。


「体の大きさから言って力も相当強いんじゃないでしょうか? 下手をすれば治癒術を使う余裕もなく即死させられる可能性もありそうです」


 その言葉に頷きながらアメリアが言葉を続ける。


「もちろん体重自体も相当なものの筈。体当たりを食らっただけで致命傷になりかねないわ。真正面から受けたら完全武装した騎士でも跳ね飛ばされるでしょうね。さらに鋭い爪と牙も持ってるはずだから。前に来た連中が帰ってこなかったのもわかる気がするわね」


 アメリアの言葉を聞いた仲間たちは皆一様に黙り込む。

 しばらくの沈黙の後、デニスが意を決したように口を開いた。


「カール。俺の意見を聞いてもらえるか?」


 そのデニスの言葉にカールは顔を向ける。


「悪いがアメリアの話を聞く限りでは、今の俺達で相手をするのはきつい相手のように思える」


 カールはため息を付きながらそれに答える。


「これ以上の依頼の遂行は無理だと、そういうことか?」

「ああ、すまん。契約違反で罰則があるとしても命を失うよりはマシだからな」


 その言葉にカールは苦笑いを浮かべて答えた。


「いや、それは気にしなくていい。俺も同じことを思っていた。実際に戦う前にわかって良かったよ」

「そうか。そいつぁ良かった」


 デニスはカールのその言葉に安堵するように小さく微笑んだ。


「とは言っても、このまま無事帰れるとも限らないんだがな」


 そのデニスの言葉に皆黙り込んでしまい、そのまましばらく沈黙が続いた。

 やがて、カールが顔を上げ、アメリアに視線を向ける。


「急いで山を降りたとして、麓に着くのはいつ頃になる?」


 カールの質問にアメリアが答えた。


「夜通し歩いて?」

「歩けるならそうしたいがな。可能なのか?」

「出来なくはないけどね。やめたほうがいい」

「だろうな。それで、夜は休んだとしてどのくらいで麓まで着く?」

「明日の日暮れまでには帰りつけると思うけど」

「そうか。こうなると山の中で夜を越すのは避けたかったが、仕方ないな」


 そういって、カールは皆の顔を見回しながら呼びかける。


「できるだけ急いで山を降りよう。荷物も重要な物以外は捨てていこう」


 皆がその言葉に従い山を降りる準備を始めようとすると、それを静止するようにデニスが声を上げた。


「待ってくれ。一つ決めとかなきゃいけない事がある」


 皆の視線が自分に向くのを確認してから、デニスは再び口を開いた。


「帰り道で獣に襲われた場合にどうするかについてだ」

「どうとは?」


 カールの質問にデニスはゆっくりと大きく呼吸をして、言葉を続けた。


「おそらく戦っても勝ち目は薄い様に思う。もし襲われたときには一人が残って足止めをして他の仲間を逃がすための時間を稼ぐ」


 その言葉を聞いたカールは驚き、眉を寄せる。


「まず、最初は俺。次にグスタフ、ホルスト、アメリア、イルマの順だ。カールはとにかく逃げてくれ。アンタには生きて帰ってもらわなきゃならない」


 カールはしばらくデニスの顔を見つめていたが、やがて皆の顔を見回しながら口を開いた。


「君達はそれでいいのか?」

「まあ、妥当だと思うけどね」

「私も、それでいいかと」


 アメリアとイルマが頷きながら答えた。

 カールはそれを聞いて、小さく首を振った。


「気持はありがたいが、俺は騎士だ。女性より先に逃げることなどできない」


 そのカールの言葉にアメリアが苦笑しながら答える。


「アタシらも一応その程度の覚悟はしてるから、気にしなくていいよ」

「あの、私もこれでも冒険者です。なので、私のことも気にしなくて大丈夫です」


 二人の訴えにカールはもう一度静かに首を振って答えた。


「悪いがそこを妥協するつもりはない」


 そのカールの答えに今度はアメリアがため息をつく。


「こっちとしてはあなたに死なれちゃ困るんだけどね。まあ、いいわ。じゃあ、アタシよりイルマを優先して守ってやってくれる?」

「ああ、わかった」


 カールの表情を見て、デニスが声をかけてきた。


「気に入らないかい?」

「仲間を捨てて逃げるというのはな。そうしなければならないのだとしても、気分のいいものではない」


 それを聞いたデニスはなぜか嬉しそうに微笑んでみせた。


「騎士の流儀には反するかもしれないけどな。まあ勘弁してくれ」


 そうして、彼らは山を降り始めた。

 薄暗くなり足元が見えづらくなるまで歩き続けてから、野営の準備を始めた。

 その夜は見張りを二人づつ立てて警戒したが、朝まで何も起こることはなかった

 次の日の朝、日が昇ってすぐに一行は出発した。


 そうやって一時間ほど歩いた頃だった。

 突然、先頭を歩いていたアメリアが後ろを歩くデニスを突き飛ばした。

 その直後、右前方の岩陰から巨大な狼のような獣が飛び出して、アメリアを撥ね飛ばした。

 華奢な体は軽々と吹き飛ばされ宙を舞う。


「グウッ」


 地面に投げ出されたアメリアが苦しげにうめいた。


「アメリア!」


 うずくまるアメリアに皆が駆け寄り、彼女をかばうように立つ。

 アメリアはうずくまったまま動けずにいた。

 獣がゆっくりとこちらに近づいてくるのが見えた。

 その体は赤黒い毛に覆われており、その目は血のような赤色に染まっていた。

 アメリアの見立て通り、その体躯は牛よりも大きい。


「クソッ、大丈夫か? アメリア?」

「これを……獣に向かって投げて」


 アメリアは自分の安否を気遣う言葉には答えず、デニスに一握りほどの大きさの紙包みを手渡した。

 デニスはその包みを受け取り、ためらうこと無く獣に向かって投げつける。

 包みは獣にぶつかり、中に入っていた粉末をその場に撒き散らした。


 グアッガハッ


 獣が鼻を押さえるようにしてうずくまり、もがき始めた。

 そしてすぐに、逃げるように走り去って行く。


「今のうちに逃げて」

「よし! 逃げるぞ! カール! アメリアを頼む!」


 デニスの言葉にカールは頷き、アメリアを横抱きに抱き上げ走り始めた。

 その後を他の仲間が追いかけていく。


 遠くから獣の吠え声が響いてきた。

 その声は抑えきれない怒りの感情が籠もったものだった。


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