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角が生えた少年  作者: 紅いろ 葎
第二部
17/31

ドッペルゲンガー

きょろきょろと席を探し歩くアデル達に、ふいに手を振る少年達がいた。4人がけの端のテーブルで一人の男の子が席から立ち上がり、二人に向かって大きく腕をあげている。

アデルとジェルトはその少年に気が付いて足を止めた。



『あれ?あの席の子って』

アデルはその少年から目を動かして、向かい合うように座っていた女の子に目をやると、その二人が先程のクーリングスペースの一件で、ヴィルエッドが突き飛ばした子達だと気が付いた。




二人の見た目はそっくり良く似ていた。

落ち着いたピンクブラウンの緩くふわふわの髪で

女の子はそれを長く伸ばし、毛先をひと束纏めている。

黒目がちな瞳まで、二人はそっくりだった。


『こっちだよ!君、君たち!』

少年の方が変わらず二人に声をかけ続けるのを聞いて、アデル達はその少年達に近付いていった。






アデル達を上目がちで見上げて、女の子がにこりと笑いかけた。アデルとジェルトは顔を見合わせる。


『やぁ、君達さっきのクーリングスペースの子達だろ?テーブルはどこも埋まってるし、良かったら隣を』

少年は隣の椅子をひとつ引くとそこにジェルトを座らせながらそう言った。

どうぞ、と女の子もアデルを見上げるので、

アデルもありがたく女の子の隣に腰掛けながら

ありがとう、と女の子に声を掛けた。






『じゃあ、君達ってさっき......大丈夫だった?』

ジェルトは少年が座ったのを見て、二人の顔を交互に見た。

『失礼をしたのは私なのよ。怪我は無いわ、ありがとう』

女の子はふわふわと、朗らかな面持ちでジェルトに答えた。綺麗な子だなぁ、と思わずアデルは見とれてしまった。近くで見てみると黒目がちな瞳は大きくうるうると艶やかで、綺麗な二重な落ち着いたピンクブラウンにちょろちょろと見え隠れする。

ジェルトをちら、と見るとアデルに負けずに女の子をじっと見つめたままだ。



『自己紹介するよ。僕はライラス・ジェミニ。こっちが妹のフィオナだ』

少年は名乗ると、よろしく。と付け加えてアデルとジェルトを交互に見た。

ライラスの方はと言うと、フィオナと同じくふわふわの髪を広がり過ぎないように切り整えている。

フィオナよりも、いくらか表情が大人っぽく整った顔をしていた。

同じく黒目がちな目は、フィオナとそっくりな二重だけれど、どこか凛々しくも見える。



ジェルトは目を丸くする。

『ジェミニ?じゃあ君が?』

ライラスはジェルトを見て首を傾げた。

ジェルトが続ける。

『僕、ジェルト・ゴージっていうんだ。多分、君と僕ルームメイトだよ』

宜しく、とライラスの前に手を差し出して興奮気味にライラスの顔を覗いた。

ライラスはそれを聞くと、とても喜んだようで

ジェルトの握手に快く応じた。


それを見たフィオナも、にこにこと顔を綻ばせて

『仲良くなれそうな人で嬉しいわ』

とライラスとジェルトを見た。

続けてアデルが名乗ると、ライラスはアデルにも

握手を求め、二人は握手を交わす。

フィオナもそれに続いてそれぞれが握手を交わした。


四人は改めて宜しくと笑い合うと、それぞれ食事を始めることにする。




『君達は、やっぱり双子なの?』

スープを口に含んだところで、ジェルトはジェミニ兄弟に質問をした。

ちぎりとったパンを指で摘んだまま、フィオナがにこにこ顔で答える。

フィオナは常にふわふわにこにこと暖かい表情なのだろうか。鈴のような声と、柔らかい表情はとても愛らしい。

『そうなの。どこの地域でも珍しいから、良く驚かれるわ』

『うわぁ、羨ましいなぁ......』

ジェルトは興味深そうに二人を見て、フィオナの様子を気に止めながら

『僕はひとりっ子だから、兄弟もいないんだ』

とジェルトが言うと、アデルも

『僕の家も子供は僕だけだ』と言った。


ジェルトはまた羨ましいなぁ......と呟いた。




ライラスとフィオナはお互いに顔を見合わせると

くすくす、と笑い合った。

『そう言ってくれると嬉しいわ』

『この国には子供にドッペルゲンガーの話をするだろ?おかげで小さい時はいつも気味悪がられてふたりぼっちさ』



がやがやと響く食堂内の賑わいをノイズに、アデルは首を傾げて考えた。ドッペルゲンガーってなんだろう。そんなアデルをジェルトは見逃さなかった。


不思議そうなアデルの顔を見て、またなのか!と驚きながら説明する。

『ドッペルゲンガーって、つまり自分にそっくりなのが悪い子の前に現れて食べちゃうぞって作り話だよ。アデルは小さい時に言われなかったの?』

三人のきょとんと驚いたような顔をぐるりと見渡して、アデルは顔が熱くなるのを感じた。




『ごめん。僕実は、小さい時の記憶が......ほとんどないんだ』

スプーンを握る手が思わず下がってアデルは俯いた。

え!とかまぁ!とか、それぞれ小さく驚きの声を上げると、三人はアデルを伺うようにゆっくりと視線を揃えた。



『あの......ごめんなさい。嫌な事を言ったわ』

すかさずフィオナが隣のアデルに悩ましく呟いた。

ジェルトもライラスも、どこか気まずそうに顔を見合わせた。





その時である。

肩に掛けられたままのアデルの鞄が、

もごもごと不可思議な動きを見せたかと思うと、

隙間からぼふっと小さな火花を散らしたのだ。


『うわ!』

アデルは急いで鞄の口を開けると、目を真ん丸くして叫んだ。

『ジャックテリー!』



フィオナは何事なのだと反対奥のアデルの鞄を覗き込むし、ジェルトとライラスは視界に映った火花に顔を強ばらせて固まっている。


しかし、珍事件を起こした張本人はそんな事もお構い無しに、アデルの手を伝って鞄から顔を出すと威嚇の声を上げて食堂の中央通路の方を見た。


アデルも他の三人も、その小さなドラゴン地味た生き物につられて視線の先を追う。

そして、全員今度こそ驚いて息を止めた。



『僕......?』


中央通路よりもややこちらのテーブルに近い所で

立ち止まってこちらを凝視する二人の少年がいた。

そして、四人は一同に一人の少年に驚いたのだ。

その片方が、どう見てもアデルにそっくりなのだから。



あちら側の少年達二人も、アデルをじっと見て

表情を凍らせていた。

ジャックテリーはその視線と対峙するように

威嚇の姿勢を崩さない。

アデルは何かとてつもない緊張で、食堂内のがやがやした賑わいの音が、いつの間にか耳から完全に遠ざかっていた。


ただ、こちらを凝視する自分にそっくりな少年と

見つめあったままだ。



『こ、こっちに来る!』

そう声を上げたジェルトの怯え声で、アデルはふと我に返った。食堂内の喧騒がどっと耳に戻ってくる。

無意識に、フィオナがアデルの片腕をそっと掴んだ。



あっという間に、少年達はアデルの前へとやってくる。

アデルとそっくりな少年は、髪の長い少年に手を引かれる形で後ろからアデルを睨みつけて付いてきた。


髪の長い少年は、いかにも怒りを抑えきれないような低い声で、アデルに質問を繰り出した。

『お前、アデル・キャンベルか』


アデルをしっかりと視界に捉えて、長髪を一本に高くまとめた少年はアデルを睨みつける。

アデルはその視線に捕まってしまったかのようにびくりとも体を動かせない。

ただ恐ろしいと思った。


長髪の少年はそんなアデルに慈悲もなく、

『答えろ』ともう一度声を上げた。

それは地鳴りでもしたかのように、アデルの心臓をじりじりと振動させた。



『人に名前を尋ねる時は、先に名乗るのが礼儀だわ』

フィオナが声を震わせながら、それでも凛と響く声で少年達を見上げて言った。

長髪の少年がちら、とフィオナに視線を移すと

フィオナのアデルを掴む手に力がこもったのがわかった。



『......ダリヴレッド・グリフォン。さぁお前の番だ。お前はアデル・キャンベルか』

低く鳴り響くダリヴレッドの声は、四人にしっかりと届いた。


ジャックテリーが変わらず威嚇していたが、ダリヴレッドは気にも止めない。

ただアデルをじっと見据えて、答えを言えと言わんばかりに視界に捉えて動かさない。



『そう、です』

アデルはその視線から逃げることも出来ずに

いつの間にか枯れてしまった喉から、小さく声を絞り出した。

するとダリヴレッドは目を見開いて、アデルの胸ぐら目掛けて手を伸ばした。

それを見た四人はあっ、と息を飲んだが

誰よりも早かったのはジャックテリーだった。

アデルの腕を伝って、体をしっかり鞄から出すと

刺々しい尻尾を思いっきり、ダリヴレッドの手に振り込んだのだ。



『なっ』

ダリヴレッドは思わずさっ、とその手を引っ込めると、向き直ってアデルそっくりな少年と何も言わずに去っていった。

四人は状況が飲み込めず、しばらくそのまま動けなかった。

二人の少年が完全に去ったのを確認すると、ジャックテリーだけがくっ、と一度翼を伸ばして呑気にテーブルに乗り移り、アデルの食事を吟味し出す。







次第に緊張が解けてきたアデルは、そんなジャックテリーを見ながらまずは一呼吸おいた。

訳が分からないと言えば簡単だが、アデルの頭の中はとにかく混乱でいっぱいだった。


ジェルトは青ざめた顔で呟いた。

『あれが、グリフォン家の長男なのか』

その呟きを聞いて、ライラスも呟く。

『アデルはなんで揃って兄弟に突っつかれるんだ......?』


そんな二人の呟きを聞いたフィオナが

違うわ。と呟くと、

『そうじゃないわ。グリフォンよりも後ろのもう一人の男の子だわ......』

と言ってアデルを見つめた。



『あんなにそっくりで、お互いが誰かわからないなんて』

フィオナがそう、続けた。

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