04.貧乏の理由
「……すまんな、ルシール。手伝おうと思ったのだが、かえって手間を取らせてしまった」
「解体は、お任せしてもよろしいでしょうか?」
子爵は大きく頷く。
「ガウディ、フローラ。手伝ってくれ」
「は……はい……」
「はぁい。頑張りましょうね」
気乗りしない執事と、朗らかに返事をする夫人。三人が力を合わせて牛を運んでいくのを眺めながら、ドリスはベルトラン家の行く末を憂えた。
「せめて、従業員をあと二人ほど雇えたらいいんですけどね」
「そうねぇ。でもほら、ドリスとガウディが手伝ってくれるから、なんとかなっているのよ」
「ガウディ様は、そろそろ限界だと思いますけど」
先月、用を足しに行ったきり帰ってこなくなった従業員の代わりに、ガウディは執務室から引っ張り出された。以来、現場仕事に慣れない執事からは悲壮感が漂い、毎夜、腰が痛いとぼやいている。
「無事にキノワール伯爵の融資が受けられるといいのですが……」
「ねぇ、ドリス。私、ずっと不思議だったのだけれど……どうして我が家は、こんなにも貧乏なのかしら」
「……旦那様と奥様の、お人柄によるものかと」
「お父様とお母様?」
ルシールは小首を傾げた。この娘は、家が没落寸前であることは理解しているものの、原因について考えたことはないらしい。
「私は、お二人の温かく寛容なお人柄を尊敬しておりますし、行き場を失っていた私を拾ってくださった恩義も感じております」
ドリスは元々、とある男爵家の令嬢であった。ところが不慮の事故で突然両親を亡くし、頼れる親戚もないところをベルトラン子爵に拾われたのである。毎月の賃金は目減りしていく一方だが、それでもここに残ってルシールを支えているのはその恩があるからだ。
「しかし……飢えた人を見れば無償で食料を与え、縁もゆかりもない人でも頼まれれば無担保で金銭を貸し、霊験あらたかな壺だと勧められたら喜んで購入する。良く言えばお人好し、言葉を選ばなければ阿呆だからでしょうね」
「先日、旅の行商人から購入した運気の上がる聖水は?」
「あんなもの、ただの水です。運気が上がるどころか、そのせいで従業員の給料が払えず、逃げられたんじゃないですか」
かくして、先代が築き上げた家畜農場で豊かに栄えていたベルトラン子爵家は、現子爵の代によって、みるみる困窮していったのである。
「せめて私やガウディ様に一言ご相談いただければお止めできるのですが、いつの間にか即決即金しているので止めようがありません」
「ふふっ。お父様もお母様も、人の話は聞かないタイプだものね」
「そうやって笑って済ませられるルシール様も、しっかりとお二人の血を継いでいらっしゃいます」
「まぁ。そうかしら」
そこでどうして嬉しそうに頬を染められるのか。ドリスにはやはり、ルシールの思考は理解し難い。
鶏の処理に戻ろうと踵を返しかけたところで、子爵が小走りに戻ってきた。
「そうだ、ルシール。言い忘れていた」
「はい。なんでしょう?」
「来月、シルヴァス侯爵主催の狩猟会があるそうだ。ルシールにも参加してほしいと、キノワール伯爵からお誘いがあったぞ」
ドリスとルシールは、顔を見合わせた。
「これは、思っていた以上に好感触だったようですね。私が策を練る必要もないかもしれません」
「ケンタウロス様……!」
ルシールのその目は、すでにここではないどこかを見つめて輝いていた。
願わくば、この期待に満ちた眼差しがアンセルムに向けられればよいのだが。ドリスは小さく息を吐いた。




