エピローグ 最後の英雄は森に棲む
ドゥカトゥ帝国の進撃はあまりにも呆気なく終了した。
ドゥカトゥ側の損害は三千五百。
対してホンドゥールの損害はたったの五百である。
しかも三千五百の内、千は自身の策に呑まれている…とのことだ。
あれから数日王都に滞在する予定だったが、師がさっさと家に帰るぞと帰路に着いてしまった。
僕もダンも、それには従うしか無い。いや、ダンは最後までゴネていたか。
しかし、現金なことに”隠者の森”が見えてくると妙にホッとした。
「いったい帝国は何がしたかったんでしょうか…?」
「知らん」
いつもの師のぶっきらぼうな返答。
「勇壮なるフェルド・アイゼンを見たかった…ではないのか?」
「んなわけあるか!」
この「んなわけあるか!」は大部分が照れ隠しだ。
流石に分かってきた。
この人は、英雄だ。
英雄だが、ぶっきらぼうで、不器用で、皮肉屋な…普通の爺さんだ。
「おう、こら、ベスラ…お前なんか失礼なこと考えてねぇだろうな!?」
「いや…そんな事はありませんよ…?」
「だから…なんで疑問系なんだよ!!」
英雄とは、一体何なのだろうか?
竜を倒したから英雄?…違う
世界を、人々を救ったから、英雄…これも違う。
艱難辛苦を乗り越え、道を切り開いたから、英雄…これも何か違う気がする…
あぁ——そうか。
歩む足を止めず、ひたすら歩き続ける者を…英雄と呼ぶのだろう。
いつか、僕も———僕もかの英雄と肩を並べ歩いていきたい。
「おう、ベスラ!聞いてんのか!クソ弟子!!」
「え、あ、はい!なんですか!全く聞いていませんでした!」
「お前いい性格してんよな…まぁいいや…ちょっとこっち来い」
師が手招きで呼び寄せる。
こんな事は今までなかったな…どんな無理難題を吹っ掛けられるのか…
「コーヒーの淹れ方教えたる。
いいか、美味く淹れるようになれよ?明日からのお前の仕事だからな?」
「え!?はい!頑張ります!」
思わずと言った風に思った以上に声が出てしまった。
「声でっか……」
師も呆れている。
ダンも耳を抑えている。
こうして、英雄の異常な余暇は続く——。
明日も、明後日も、きっと…ずっと——。
*****
ベスラ・ビノと言う男が居る。
”隠者の森”に住まい、滅びかけた竜族と共に暮らす一人の老人。
金級冒険者であり、竜王と友であるベスラ・ビノを人々は”森の隠者”と呼んだ。
そして誰も知らない。
隠者ベスラが、年老いた今なお毎週欠かさず古き石碑の元へ詣でていることを。
最後の英雄は森に棲む。
ー完ー




