極秘任務
黒崎に圧がかかっていた頃。
「はい、ヤクモ様。」
男は電話口で背筋を伸ばす。
指示は短い。
黒崎迅を、任務中の事故に見せかけて始末しろ。
表向きは穏やかでも、拒否権などない。
了承の言葉を返すが、問題は一つ。
黒崎が強すぎる。
それを伝えると、ヤクモは一言だけ返した。
場所はこちらで用意する。
そこへ誘導しろ、と。
通話が切れる。
男は小さく息を吐いた。
「……やるしかないか」
歩き出す。
その背に、声が落ちた。
「裏切り者」
足が止まる。
ゆっくり振り返る。
そこにいたのは、狂犬。
ゲヒュール対策課最強。
「……なんだ?」
平静を装う。
イヌは気にした様子もなく続ける。
「インスティンクトでさ、悪意ある奴にカマかけてたんだけど」
軽い口調。
「やっと引っかかった」
一歩、距離を詰める。
「極秘任務でね。内通者がいるって話」
視線が刺さる。
「で、お前」
少しだけ首を傾げる。
「殺す前に確認なんだけどさ」
間。
「仲間、いる?」
沈黙。
答えない。
「ふーん」
イヌはあっさり流す。
「じゃあ次」
淡々と。
「繋がってる奴の場所、知ってる?」
沈黙。
その一瞬の揺れ。
イヌの目が細くなる。
「……あ、分かった」
軽く笑う。
「仲間はいない」
一歩踏み込む。
「で、場所も知らない」
男の顔が歪む。
「なんで――」
最後まで言わせない。
「もういいや」
興味を失ったように言う。
「知りたいこと終わったし」
間もなく。
「殺すね」
男は反射的にゲヒュールを展開する。
識別個体クラス。
だが。
数秒後。
静寂だけが残った。
イヌはポケットからスマホを取り出す。
発信。
「終わったよ」
軽い声。
「裏切り者は殺した。仲間はいないし、繋がりの場所も知らないってさ」
間。
「金、振り込んどいて」
通話終了。
少しだけ伸びをする。
「……さて」
ポケットに手を突っ込む。
「パチンコ行くか」




