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その召喚聖女はちょっとヤバめです。  作者: ハラ カナウ
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8・ヤマダ(仮)は仕事に忠実である①

 その日の夕暮れ。

 小さな町の冒険者ギルドは騒然となった。


「……。拾ったの?」

「はい。森に落ちていたので、これ幸いと拾って参りました。」


 茶髪の受付嬢は、その日の早朝に冒険者登録したばかりの、細身で小柄な少女と、その少女に背負われているオークを交互に見た。

 今から数刻前、若い冒険者の三人がギルドに「オークが近くの森に出た」と血相を変えて報告してきた。

 三人とも、満身創痍であり、特に小柄な魔法使いの少女は顔面蒼白で震えており、急ぎ救護室に運ばれた。

 オークは魔物の中では、それほど脅威の部類ではない。

 だが、凶暴な上に脂肪と筋肉で固められた巨体は、耐久力と防御力がとても高く、討伐推奨ランクは銅以上が複数人必須とされる。

 命からがら逃げてきた三人は、女弓使いが銅ランク、他の二人は真鍮ランクであり討伐が難しかった。


「あ、重いでしょ〜?オーク一旦、下ろそうね。」

「わかりました。」


 ドスゥンと、少女はギルドの床に首が捻れたオークを下ろした。

 オークは脂肪と筋肉の塊である。ギルドでも大の男三人以上で運ぶ巨体である。

 魔力も無く、スキルも属性も無い少女が、森から町まで一人で背負ってきたのだ。

『ん……?そういえば、この子、魔力ないのに、よくギルドカードが発行できたわね〜』


 この世に魔力が無いモノはいない。故に、全て魔力ありきで成り立っていると、言っても過言では無い。

 ギルド長に確認すべきだったかしら。そもそも、魔力が無いと…。


 茶髪の受付嬢は面倒になり、考える事を放棄した。

 出来てしまったモノは仕方がないし、持ってきちゃったモノは捌かねば腐る。


「それはヤマダ(仮)さん、運が良かったわね〜、誰か高ランクの人が倒して、捨てていったのかしらね。うん、討伐料は出ないけれど、解体してギルドに売れば良いわ。解体と買取を手配して大丈夫?」

「ありがとうございます。全て買取でよろしくお願いします。」


 そういう事にした。


「薬草採取の依頼も、お疲れ様。はい、報酬をどうぞ。オークの買取料は査定があるから、明日の早くてお昼くらいになるわね。今日は重い物、運んで疲れたでしょう。夜の農場の見回り依頼はどうする?キャンセルする?」

「大丈夫です。こう見えて一週間、眠らなくても行動可能な体力はあるので、この位、問題ありません。」

「ぅう〜ん、そっかそっかぁ。エラいわねぇ。お姉さん、エラい子にはお菓子あげちゃう〜」


 ご褒美よ〜と、綺麗な紙に包まれたアメを一つ、ヤマダ(仮)の手に乗せた。

 一瞬、止まったヤマダ(仮)は、小さい声でお礼を言ってアメを大事そうにポケットにしまった。




 夜。

 農場の見回り依頼を発注した、雇い主の管理する畑の一角にヤマダ(仮)はいた。

 この依頼内容は、広い収穫前の農場を盗人や野獣、魔物から守るものであり、依頼ランクに制限はなかったものの、腕っぷしの強い冒険者と大人数が求められた。

 その雇い主との顔合わせの際、ガタイの良い強面の者達に混じって、小柄でおかしな格好しているヤマダ(仮)が、ひっそりと混ざっている事に雇い主は驚いた。

 まぁ、何かの役には立つだろうと、追い出されずにすんだヤマダ(仮)は、ぼんやりを夜空を眺めている今に至る。


「どうした?ヤマダ(仮)よ。疲れでも出たか?」

「いえ。ただ、お月様の色が違うなと気づきまして。」

「月?貴様の世界の月は赤色ではないのか。」

「高さや時間にもよりますが、大体は黄色です。」


 農場は、町から出て少し離れた場所にあり、大きな川の近くに麦畑が広がっている。

 町を背に、柵に囲まれた麦や野菜の畑と家畜小屋、作業庫などを挟んで林があり、その向こうは深い山並みが広がっている。

 農場には所々、篝火が焚かれているが、夜の闇を照らし尽くすには足りず、視界は悪い。

 ただ、夜空は美しく赤い三日月の僅かな明るさを眺めていると、同じく雇われた冒険者の男がヤマダ(仮)達に声をかけてくる。


「おい、そこの変なヤツ!最近、ここら辺でも瘴気のせいで強い魔物が出るんだ。ボンヤリして魔物に収穫前の農場を荒らされたりしてみろ?ギルド長に殺されるぞ。」

「はい。わかりました。」


 鋼で出来た赤い鎧に身を包み、雇われた中でも唯一、銀のランクを持つ冒険者だ。

 この農園の持ち主とは知り合いだったようで、親しげに話しているのを見た。


「日中にも、町付近の森でオークが出たと受付嬢が言っていた。全く魔族のせいで、困ったもんだよ。」

「……。」

「魔族の連中も、瘴気流して世の中、混乱させて何が楽しいってんだが……。おっと、雇い主が呼んでるな……お前達、サボんなよ!」


 赤い鎧の冒険者は、ビシッと指を立てて指示し、雇い主の元へ早足で向かう。

 ヤマダ(仮)の手元から、囁く声が聞こえた。


「……瘴気は我らの……せいではないと……何度言えば人族は理解するのだ……」


 憎しみと悲しみが混ざり合ったような声。

 ヤマダ(仮)が、何かを言おうと口を開いた時、遠くから獣の遠吠えが聞こえてきた。

 周囲を見回っていた冒険者達に緊張が走る。


「あの遠吠えは狼だッッ!こっちにくるぞ!!」


 誰かが叫んだと同時に、林から一斉に狼の群れが飛び出してきた。


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