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その召喚聖女はちょっとヤバめです。  作者: ハラ カナウ
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18・ヤマダ(仮)は…?

 光沢のある絹糸のような真っ直ぐな黒髪が、サラサラと華奢な背中を流れる。

 長い睫毛に縁取られた黒真珠の大きな瞳。

 少し薄めの唇は、淡い春の花の色に染まり、儚げに整った白いかんばせを彩る。

 ふっくらとした大きな胸元、奇跡のような細腰、しなやかに伸びた白い手足。

 淡いブルーのワンピースが、その可憐な体を包む。


「あの……?」


 小首を傾げ、困った様な仕草さえ一枚の絵の様な美しさがある。

 少女の声に我に返ったギルド総長は、慌てて受付の奥の応接室に案内したのだった。



 受付の奥の応接室は、貴族の為に用意された専用の応接室となっており、高級な家具が取り揃えられている。

 薔薇の蔓を模した飴色の縁に、上品な薔薇の刺繍が施されたソファーへ、座るように少女を促す。

 その正面にアシュトン、斜めの位置にギルド総長が座る。ギルド総長の後ろにコーラクが立った。


「おい、この娘がヤマダ(仮)か?」

「……いや、違うかな。まぁ、ヤマダ(仮)はその手配書みてぇに顔を隠してるから、素顔はよくわからん。アイツに魔力はないが、この子からは魔力を感じる。それに、体……特に胸が……うん、別人だな。」


 小声で背後のコーラクに確認するギルド総長。

 アイツ、胸真っ平だったもんなとコーラクは、ヤマダ(仮)ではないと判断した。


「あの……突然の訪問に対応していただき、ありがとうございます。」

「ああ、お声も美しい……、まるで妖精……ああ……妖精が私に……ヴッ!」


 すかさずアシュトンの脛を、大きな足で蹴るギルド総長。

 ギルド総長は少女を怯えさせないように、精一杯柔和な表情を作った。


「いや、気にする事はねぇよ。お嬢ちゃん、しかしこのギルド長が王都にいるとよくわかったな。コイツの所属は王都近くの町のギルドだ。……誰かに聞いたのか?」

「はい……アシュトン様の町に向かう道中で運良く、行き先を知る冒険者の方の出会いまして……。王都に行かれたと伺い、追いかけて参りました。」


 恥ずかしげに俯く少女。

 感動して、なんか気持ち悪い表情になったアシュトンを顔をそっと隠すコーラク。


「お嬢ちゃん、差し支えなけりゃ名前を聞いていいか?」

「……名前。」


 少女は、申し訳なさそうに目を伏せると、自身の口元に手を添えて震える声で言った。


「申し訳……ございません。信じていただけないかもしれませんが、私……自分の事が分からなくて…。」

「……どういう事だい?」

「名前も何も……覚えていないのです。気が付いたら、森の奥で倒れていて……。」

「記憶喪失、か。」


 コクリと、少女が小さく頷いた。


「森の中で途方に暮れている時に、通りかかったヤマダ(仮)という女性の冒険者に助けていただいたのです。」

「ヤマダ(仮)にッッッッッッ!」

「オラ!お嬢ちゃんが驚いているだろうが!」


 “ヤマダ(仮)”と聞いて、少女に掴みかかろうとした所を、ギルド総長から一撃喰らい、ソファーに沈められるアシュトン。

 いい笑顔のコーラクに続けてと促され、少し怯えながら話を続ける少女。


「ヤマダ(仮)様から、森の近くにある町の冒険者ギルドのアシュトンギルド長を頼るといいと教えていただきました。そしてこれを見せるようにと……。」

「ここの受付でも出したヤツか。」


 少女は持っていた簡素な手提げから、箱を取り出し、そっとローテーブルの上に置いた。

 何も知らされていなかったアシュトンは、それを見て素っ頓狂な声を出す。


「これは……カーデン王家の紋章!?」

「私が唯一、持っていた物です。王家や貴族の方に信頼されているアシュトンギルド長なら、きっと力になってくれるとヤマダ(仮)様が仰っていました。」

「はぁ〜、受付嬢から話を聞いていたとはいえ、実物を拝むと頭痛がするわ……。お嬢ちゃん、その箱は開けられるかい?」

「はい。これなんですが……。」


 箱の中には拳サイズの水晶で出来た玉が入っていた。

 少女に許可をもらい、ギルド総長が箱を持ち上げ観察する。


「……年季の入った水晶玉?箱の王家の紋章は本物だ。……しかもアルベルト王太子殿下の印まで入っている。こんなモノを何故、お嬢ちゃんが持っているんだ?」


 ギルド総長は、不安そうにこちらを見つめる少女を見た。


 この少女はどう見ても、ただ平民の少女ではない。容姿もだが、所作に品がある。

 しかも少女の顔立ちは、美しいがこの国特有の顔立ちではないように思う。

 どこぞの貴族が、どこぞの異国の女に手を付けて生まれた娘か?

 全くいない訳ではないが、ここまでの黒髪黒目も珍しい。


 黒髪黒目、異国風の顔立ち、記憶のない美しい少女。

 瘴気で凶暴化した魔物が跋扈する森の奥で、一切襲われる事なく、着の身着のままで倒れていた。

 王家の紋章とアルベルト王太子殿下の印が入った箱を持って。

 その箱の中には、古い水晶玉。


 単純に盗んだ……とは思えない。

『まさか……いや、この娘が嘘か戯言を言っているのかもしれん。』


 しかし、少女が嘘をついているようにも、戯言を言うほどイカれているようにも見えない。

 ギルド総長は、冗談のように思いついた一つの仮説が頭を離れない。


 この世界の者なら、誰もが知っているおとぎ話。

 しかも最近、そのおとぎ話が現実に実行された。……失敗したが。

 いや、お上の奴等からは、召喚は成功したが負荷に耐え切れず“死んで”消えたと、()()()()のだ。

 それがまさか……?

 口に出すのが恐ろしい。

 その件の後始末を押しつけれ、それがやっと落ち着いてきた所なのに。

 “それ”を口に出したら、きっと死ぬほど面倒な事に巻き込まれる。


「…………貴方様はまさか、“聖女”様だったのですか……!」


 そんなギルド総長の心情を知らず、アシュトンの希望に溢れた声で言った。

 少女が驚いて、目を見開く。

 ギルド総長は絶望して頭を抱えた。



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