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四章 失望の教会

 咲と新が目を開くと、あのエレベーターの中にいた。

「やぁ、二人とも」

 ピースの声に二人は起き上がる。そしてジッとピースとガーディを見た。

「頑張っているようだな、安心だ」

「……あなた達は、一体何者なんですか?」

 ガーディがクスクス笑うと、咲が首を傾げて尋ねた。それに答えたのはピース。

「それは、今はどうでもいいことだよ。どうせいつか知ることになる」

 どうやら、明確な答えは教えてくれないようだ。

「そう言えば、涼恵からもらった本。恐らく気付いているだろうが、あれはお前達の記録を残しているものだ」

「そうなんだ……」

「同時に、埋まっていくにつれて相応の呪文が使えるようになる。うまく使うといい」

 笑うと同時にエレベーターが止まる。

「あぁ、今日はここまでだな。また来るといい」

 その言葉とともに、眠気が襲ってきた。



 起きて集まると、咲があの本を見る。

「また付け足されてるね」

 その言葉に全員が覗き込むと、確かに昨日のことが記されていた。

「今日はどこに行くんだ?」

 夏人が聞くと、リーデルは「今度はあっちから感じるな」と昨日とは逆方向を見る。

「あっちは教会があるよ」

 お茶を持ってきた希菜が答える。よく知っているなぁ、と思っていると、

「涼恵さんに教えてもらったの。よく一緒に出掛けてたから」

「なるほど」

「でも、教会って神聖なイメージがあるんですけど……」

 月菜が首を傾げると、「神聖だからこそ、だと思う」と咲が答えた。

「神聖な場所って、不浄を嫌うわけじゃん。だからむしろ狂ってしまう可能性がある」

「……?どういうこと?」

「ようは、墓地とかあるだろ?あそこって本来は神聖な場所だろ?でも土足でしかも面白おかしく行ってしまうから、幽霊とかが怒って危害を加えてくる。それと同じようなものだ」

 新が説明するが、

「理解出来ないって言うことが理解出来た」

「つまり分かってないってことじゃん……」

 夏人の言葉に義久がガクッと肩を落とす。

「いや、分からなくても仕方ないって。……ようは神聖な場所は不浄なものが流れ込んだらそれを追い出そうとしておかしくなるって話をしているだけ」

「なるほど分からん」

「あぁ、もういいや……」

 咲も説明するのだが、あっけらかんと言われこの話をしていても進まないと早々に切り上げる。

「とにかく、そろそろ行くか」

 リーデルの言葉に頷き、立ち上がる。

 そして行こうとした時、「待ってくれ」と孝に呼び止められた。

「孝さん?どうしました?」

「これ、持って行けって涼恵が言ってたぞ」

 そう言って渡されたのはレイピア。これは何だろうと思うと、

「それな、涼恵が使っているやつらしいんだ。ほかの武器があるから使ってくれだと」

「そうなんですね。……じゃあ、実涼が使った方がいいかな」

 新がそう言って、そのレイピアは孫である実涼が受け取った。

 教会まで向かう道中、マスクをつけた茶髪の青年がメモを取っていた。

「お父さん?」

 実涼が驚く。その声に気付いた青年――風が振り返る。

「あ、実涼。どうしたの?」

「それはこっちのセリフなんだけど……」

 この状況で一体何をやっているのか……。彼は困ったように頬をかいた。

「薬草とかを調べてたんだ。僕、お母さんとは違ってこういうことしか出来ないから」

「そ、そっか……」

「あ、これあげるよ」

 苦笑している彼らに風がメモ帳を渡してくる。なんだろうかと見てみると、道具の簡単な作り方が書かれていた。

「これは……?」

「すぐに作れるから渡しておくよ。僕は他に持ってるし」

 そう言って笑うので、ありがたく受け取ることにした。

 気を付けてー、と風に見送られ、教会に来た。

 教会は煤にまみれていた。本当は美しかったのだろうが、今は見る影もない。

 中に入ると、まずは礼拝堂に入る。

「……広いね……」

「うん。ここで集まりとかあるだろうからね……」

 そう言いながら、探索を始める。教会という建物だからか、エネミーはいなかった。

「これ、聖書だね……」

「うん……」

 堕ちていた本を拾うと、実涼が答える。

「おばあちゃんの家に置いてあったの。勉強の一つだって言ってた……」

「涼恵さんが?」

 確か、あの人は巫女の家系と聞いていたのだが。まぁ何を読むのかはその人の自由だからいいけれど、少し意外だった。

 それはさておき、何もなさそうだと思っていると遠くから美しい音が聞こえてきた。そちらに向かうと、白い髪の少女がピアノを弾いていた。

「……あの」

 月菜が声をかけると、その子は手を止めて振り返る。

「なんでここにいるの?」

 そして、そう聞いてきた。その子は「ピアノを弾いてるの」と答えた。

「この子が、今回の救出対象らしいが……」

 リーデルが困ったように囁く。まさか、こんな子がいるとは思っていなかったのだろう。

「君、名前は?」

 義久が尋ねると、「……藤下 こころ」と答える。それと同時に「女帝」という言葉が浮かんだ。

「ここでずっと、ピアノを弾くように言われたの。私もそれに納得してるし……」

 そう言いながら、こころはまたピアノを弾き始める。

 そこに、青年がやってきた。

「こころ、またここにいたんだ」

 そう言いながらこころの近くに来た。

「あの、君は……」

「ん?……あぁ、僕は花筏 あつし。あなた達はなんでここに?」

 彼の名前を聞くとともに、「皇帝」をいう言葉が浮かんだ。

「その……実は君達を助けに来て……」

 新が戸惑ったように言うと、「あぁ、なるほど」と目の前の青年は笑う。

「僕達はここから離れなれないんだ」

「え、それってどういう……」

「私達はここで悪意を侵略させないようにピアノを弾いているの。……あなた達みたいに戦えないから」

 こころも優しく微笑む。その間も、こころはピアノを弾きあつしは彼女の傍から離れようとしない。

「……つまり、この場合は助けるのではなく……」

「守る、だろうな」

 その言葉と同時に、エネミーが周囲に現れた。タイミングがいいな……なんて思っていると歩いてくる人影があった。

「ここは我々が占領する。今すぐ投降するならば、命は助けてやろう」

「そう言われて引くようじゃ、こんなことしてないよね」

 投降しろと言われてやってやるほど、自分達は腐っていない。

「なんで世界がこうなったと思う?」

 しかしそう聞かれ、顔を見合わせる。それを見たその人物はククッと面白そうに声をこぼした。

「何も分からず助け出していたのか。これは滑稽だ。

 この状態にしたのは、人間様だってのによ」

「……え?」

 それは……どういうこと、だろうか……?

「人間は滅ぶべきだ。あいつらもそう思っているくせに、変に抵抗しやがって」

「あいつら……」

「涼恵と蓮だよ。あいつらだって、本当は人間なんていない方がいいんじゃないかって思っているだろうよ。表に出さないだけでな」

「そんなこと……!」

 本当に、ないなんて言えるのだろうか?

 だって、あの二人は異世界で生まれた神様の生まれ変わりだ。きっと、思うことはあるハズだ。

「……新、咲。変なことを考えるな」

 義久の言葉に戻ってくる。

 そうだ、今は目の前の男をどうするか考えなければ。

「ここさえ攻め落とせたら、こちらが勝ったも同然なんだ。邪魔者は排除させてもらうよ」

 その言葉と同時に、化け物の姿になる。

 それは形容しがたい姿で、人間には見えないものになった。

「こころ、お前はピアノを弾いていてくれ。あつしは彼女を守ってほしい。オレ達はこいつを倒す」

 新が言うと同時に怪盗達は武器を構える。ピアノの音が流れ、力が湧いてくる。

 同時に、男が近付いて新たに襲い掛かる。間一髪、なんとか庇うことが出来たが、

(お、重い……!)

 攻撃が重く、次受け止めろなんて言われても出来るか分からなかった。

 その時だった、後ろから炎が飛んできたのは。

「うおっ」

「おっと、避けちゃったか。そのまま焼き尽くされてしまえばよかったのに」

 そこにいたのは佑夜だった。

「あーあ、贖罪の巫女様の守護者様が来たか」

「ここら辺を探索してたら音が聞こえてきたからね。あんまり出だしするなって涼恵さんには言われたんだけど」

 クスクスと佑夜が笑う。いつもとは違うその笑顔に、ゾクッと背筋が凍った。

「フン。本当に嫌な奴らだな」

「なんとでも言ってどうぞ、コラプス」

 佑夜は何を言われても飄々としている。それは余裕から来るものだろう。

 実際、佑夜はかなり強い。皆を守りながら強敵を一人で倒せるぐらいには。それでもすぐに倒そうとしないのは、主人である涼恵に止められているからだろう。

「それと、このままでいいの?このピアノの旋律、君には相当きついハズだけど」

「チッ……」

 佑夜の言う通り、コラプスの息は切れている。指摘され、撤退しようとするのだが。

「な、なんで……」

「出られないって?そりゃあ、兄さんが作ってくれた呪物があるからね」

 慌てているコラプスに、佑夜は懐から人形のようなものを取り出す。それは精巧に作られたもので、霊感がなくともかなりの力があると分かる。

「さて……ここで話してても意味ないか。ボクは援護に回るよ」

 ここまで対応してくれた佑夜は一歩引き、怪盗達に任せる。それに頷き、もう一度武器を握った。

「やるぞ、ここまでお膳立てしてもらったんだ」

 リーデルの言葉と同時に、全員が動き出す。

 咲はこころとあつしにさらに防御の壁を使い、月菜は全員の能力をさらにあげる。実涼とリーデルは呪文で、ほかの三人は物理呪文を唱えて攻撃していた。

 もちろん、コラプスも負けていない。彼はこころとあつしを狙い、ほかの手下達が七人の相手をしている。

「やらせるわけないでしょ」

 こころとあつしは、佑夜が守ってくれていた。そのおかげで、攻撃が当たることもなく集中することが出来た。

 そうして何とか手下を倒し、コラプスの方を見ると苦しそうにしていた。

「……時間切れだね。早く地獄に戻れ」

 佑夜の冷たい言葉にコラプスは恨めしそうに睨むが、光に包まれて消えてしまう。

「……さて、君達も危ないから一緒に行こうか」

 佑夜の言葉にこころとあつしは目を丸くする。

「でも、私達……」

「本当は子供である君達がこんなことをする必要ないんだよ。それにこれを置いていくからさ」

 安心させるように微笑み、佑夜は先ほどの人形をピアノの上に置く。

「これ……神様の力……?」

「うん。神様がボク達に与えてくれた力だよ」

「それだったら、安心だね!」

 あつしがキャッキャと笑っている。こんな純粋な子がずっとこの役割を請け負っていたと思うとやるせない。

 一緒に避難所まで戻ると、「あ、この子達を助けてくれたんだ」と涼恵がエプロン姿で出てきた。

 ――本当は人間なんていない方がいいんじゃないかって思っているだろうよ。

 先ほど、コラプスが言っていた言葉を思い出してしまった。

「……あの、涼恵さん」

 咲が涼恵に声をかけると「どうしたの?」と首を傾げられた。

「あとで話したいことがあって……」

「うん?……分かった、部屋に行くよ」

 浮かない顔をしていたのだろう、涼恵は小さく笑った。

 部屋で本を読んでいると、ノックの音が聞こえた。入ってきたのはもちろん涼恵。

「咲ちゃん、どうしたの?」

 彼女は首を傾げながら尋ねた。こんなこと聞いていいのか分からず、もごもごしていたが、

「何でも聞いていいんだよ?」

 そう言われ、今のうちに聞かないといけないと腹をくくる。

「……さっき、コラプスってやつに言われたんです。涼恵さんとか、おばあちゃんは……」

 続きは言えなかった。しかし、涼恵は何かを察したのか考え込んでしまった。そして、

「……佑夜さんとかには言わないでね?」

 そう、一言置いた。

「実際、諦めてるところはあるよ。だって、三回目だよ?……諦めたくもなるよ」

 はぁ、とため息をつきながら涼恵は答える。

「三回目……?」

「うん。……一回目は、私がホープライトラボを再設立した時だったね。あの時も、人々は悪事から目をそらしていたの。二回目は、君のご両親が学生の時。あの時も、怠惰に陥っていたの。……そして今回。今度は、「発展」を諦めた。こうなったら人間はおしまいだよ」

 寂しげに笑う涼恵には、今までの後悔のようなものがにじみ出ていた。

「……再設立したのも、今頑張って研究しているのも、すべては他人のためだったよ。皆が幸せになれるためにはどうしたらいいのか、不安を出来るだけなくすためにはどうしたらいいかって……ずっと研究していたんだよ。その結果がこれだ」

「……涼恵さん」

「だったら、いっそのこと……って思ったことは実際にある。今だって思ってるしね」

 その言葉に、咲はギュッと拳を握り締めた。

「それは……やっぱり、贖罪の巫女だから?」

「うーん、それはどうだろう?……関係あるかもしれないね。私と佑夜さんは「イレギュラー」な存在らしいし」

 イレギュラー……?なんて考え込んでしまうが、涼恵は彼女の頭を優しく撫でた。

「……人生ってさ、その人が主人公なんだよ。咲ちゃんの人生の主人公が咲ちゃんであるように、死ぬまで続いていく物語なんだよ」

 そう言って、もう一度小さく微笑んだ。

「だから、咲ちゃんにはしっかり考えてほしいかな。うちの子供達や孫にも言っているけど、人生は「選択」の連続で、何かしらの役目を与えられているから。それを放棄して物語を終わらせるのは、その役目を放棄するのと同意義なんだ」

 涼恵は寂しげで、泣きそうだった。

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