二章 森奥の城
涼恵と佑夜と分かれ、七人が近くに出来た森の中に入っていく。
「気をつけろよ。何かいる気がする……」
リーデルの言葉に全員に緊張が走る。エネミーや謎の生物が襲ってくるかもしれないからだ。
一歩一歩進んでいくと目線を感じるが、近付いてくることはなさそうだ。ここまで襲ってこないとそれはそれで怖いところがある。
「ここはあの茶髪の女性が管轄しているみたいだな……」
「あの女性って……涼恵さん?」
「あぁ。だから手出しは出来ないようにしているんだろう」
そんなことが出来るのか……と思いながら森奥まで歩いていくと、大きな城があることに気付いた。
「ここは……」
「この中に、二人ほど閉じ込められているな」
リーデルが言うと、「どうしたらいい?」と新が尋ねた。
「そうだな……とにかく、助けたらいいと聞いている。……あぁ、そうだな。その前にコードネームを決めるか。あの女性の言うことだ、もしかしたら本当に影響があるかもしれないしな」
「コードネーム?かっこいいな!」
夏人が盛り上がる。「そんな調子じゃ、死ぬ可能性もあるぞ」とため息をつくが、すぐに咲達を見る。
「じゃあ、そこの白髪の女。お前は「ジョーカー」でいいか?」
「私のこと?まぁいいけど」
「そっちの黒髪のくせっ毛。お前は「クラウン」な」
「分かった」
リーデルに決められるが、咲と新は特に気にせず頷いた。
「そっちの茶髪の女は「ユスティース」だな」
「おばあちゃんの信念を考えたらいいコードネームだね」
「そこの黒髪は「プロテクト」、そこの銀髪は「ブライト」だ」
「いいね、それでいいよ」
「そっちの女は「クオーレ」でどうだ?」
「うん、大丈夫」
「あぁ。……で、お前は何にすんの?」
全員のコードネームを決めると、夏人が首を傾げた。
「『ホープ』、でいいんじゃない?」
咲に言われ、リーデルも「いいな、気に入った」と頷いた。
中に入ると、エネミーがうろついていた。
「チッ……さすがに多いな……」
「どうする?ホープ」
「戦うしかないだろうな……」
本当は隠れながら行きたかったが、これでは不可能だろう。
「異世界と融合したってのが痛いな……」
そう呟いたのが聞こえる。異世界と、融合……?どういうことだろうか?
その時、近くに青い扉が見えた。
「おいで」
ピースに呼ばれ、咲と新はそちらに向かう。
青いエレベーターにはやはり二人が立っていた。
「いらっしゃい、二人とも。今回はいいものをあげるために呼んだんだ」
その言葉とともに、ピースとガーディは指を鳴らした。同時に、目が熱くなる感覚を覚える。
「『トルースアイ』だよ。どんなものでも見ることが出来る」
「その力はピースのものだ、しっかり利用するといい。……オレからはこれをプレゼントしてやろう」
さらに指を鳴らすと、青い石が出てきた。それを渡され、
「それは特別な力を込めたものだ。……主に回復関係になる。活用してくれ」
「ありがとうございます」
「では、また」
エレベーターが止まると意識が薄くなっていき、ハッと現実に戻ってくる。手にはガーディからもらった石を持っていた。
「どうした?」
「あ、いや。その……ファントムゲートに行ってた」
「あぁ、あの人達に会ってたのか」
リーデルは二人の話を聞いて納得したらしい。二人がコクコクと頷くと「あの人達は本当にお前らに期待しているんだな」と笑った。
「ファントムゲート?何、それ」
何も知らない義久が首を傾げる。咲と新が説明すると「そんなところがあるんだ」と目を見開いていた。
「それで、これをもらったんだ」
「これ……使えそうだな」
その石を見せると、リーデルがニヤリと笑った。
その時、エネミーが気付いて襲い掛かってきた。咲が間一髪、祖母が使えた力の一つ、「反射の壁」を使って防御する。
「あっぶなぁ……」
そのまま、戦闘が始まった。
リーデルが風呪文を唱える。その後ろで実涼が氷呪文を放った。
エネミーも、新に向かって光呪文を放ってきた。咲が庇って事なきを得たが、当たっていたらどれほどの重傷を負っていたか……。
「任せて」
月菜がアルターに乗ったかと思うと、力が湧いてきた。どうやら月菜のアルターが能力アップをしてくれたらしい。
何とか倒し、息を整えていると近くから声が聞こえてきた。
「……あなた達は誰なの?」
ハッと見ると、女性がうつろな目で咲達を見ていた。
「……あなたは……」
「……木護……木護 聖……」
その名前を聞いた途端、頭には「女教皇」という言葉が浮かんだ。
「木護って……あの、朝木ヶ丘学園の学長の?」
「……えぇ、その親戚……」
「なんで、そんな人が……」
「……私、家族の期待に応えることが出来なかったの……」
実涼が尋ねると、ぽつぽつとその人は話し出す。
「みんな、頭がよかったし才能もあった……でも、私には何もなかった……」
ギュッと、彼女は手を握る。
「そんな優秀な人達だったのに、みんな死んじゃった……怪物のせいで……」
「……その怪物って……?」
「…………鳥みたいな、そんな怪物。三羽の鳥ちゃんが守ってくれたけど……なんで、私だけ助かったんだろ……」
その時の様子を思い出したのか、聖は涙を流した。
才能がないから、自分の価値なんてないと思っているのだろうか?……木護家は、才能重視の家系だと聞いたことがある。そんな中で生きていたら、確かにそう思ってしまうものかもしれない。
でも、本当にそうだろうか?朝木ヶ丘学園は、確かに未来ある優秀な才能を持っている若者を集めているらしいが、不穏な動きをしている人がいると聞いたことがある。それに……。
「……人間ってね、役目を終えると死ぬって言われているの」
咲が口を開いた。彼女は咲の方を見る。
「裏を返せば、役目を終えていないから死ぬことは許されない。……きっと、あなたにはまだ何か役目があるんだと思う。このまま、家族を奪われたまま人生を終えたいの?立ち上がろうとは思わない?」
その言葉に、聖は目を見開く。
「どういう……」
「あなたが生き残ったのは理由があるって言うこと。……その本、多分聖書でしょ?キリスト教徒だったんじゃない?」
「う、うん……そうだけど……」
「立派なことじゃない、何かを信仰できるなんて。何かを信仰して教えを守ることが出来るなんて、なかなか出来ないよ。神様だって、それを見ていてくれているんじゃない?だからつらいことがあっても神様を信じて前に進むことが出来るんだと判断したんだと思うよ」
咲はもちろん、神様なんかじゃない。神様の心なんて分からないし、今言ったこれも、ただの慰めに過ぎないということは分かっている。
しかし、彼女を立ちなおさせるためにはこう言った方がいいだろうと判断したのだ。聖はうつむき、
「……神様……」
彼女は祈り始めた。そうしていると、彼女の周囲が光り始めた。
「ありがとう……」
そう言ってこちらを見る彼女は、先ほどまでの暗さなどなかった。どうやら吹っ切れたようだった。
「これ、あげる。役立てて」
そして、十字架のネックレスを渡してきた。それを受け取ると、不思議と力が湧いてくる。
「ありがとう、受け取っておくね」
「ううん、お礼を言うのは私の方。役に立ったらいいんだけど」
前を向くことが出来た彼女を見て安心する。聖は後ろを指さし、
「多分ね、この方向にまだ誰かいる気がする。行ってあげて」
そう言われた。リーデルが「そうなのか?」と目を丸くする。
「うん。なんとなくだけど、分かるの」
「そうか……ありがとう、すぐに向かう」
最後に一礼し、怪盗達はその場を去っていく。
指さされた方向は城の奥だったようだ。エネミーを倒しながら進んでいくと、檻の中に一人の男性が閉じ込められていた。
「……君達は……」
「あなたを助けに来たの。……あなた、華道 弘莉さんじゃない?」
実涼が尋ねる。それに彼はなぜ知っているのかと言いたげに目を見開いた。
「おばあちゃんから聞いたの。その……」
「……あぁ、俺は極道だよ」
実涼の言葉に、弘莉は自嘲するように笑った。同時に、「教皇」という言葉が浮かぶ。
彼は極道の息子で、祖父母に当たる人は極道とその妻ながら本当にいい人だったと聞いている。
「でも、俺に極道なんて向いちゃいない。笑ってくれよ、大事な舎弟も兄貴達も、守れなかったんだぜ?」
「……弘莉さん」
「それなのに、俺だけが生き残った。……極道としても恥だ……俺は祖父母みたいな立派な極道になんてなれない……」
「そんなことないよ」
卑屈になる彼に実涼ははっきり言い切った。
「おばあちゃん、言ってた。生きてる人は死んだ人の分まで生きていかなきゃいけないんだって。それが理不尽に奪われたものなら、なおさら。……確かに、最初はつらいよ。でも、それでも前を向かないといけないんだよ」
実涼の言葉にも、彼は鼻で笑う。
「……お嬢ちゃんは知らないかもしれないけどな、それが出来ないほどつらいことだってあんだよ」
「そりゃあ分からないよ。私も、親しい人が死んだ経験がないから分からない。きれいごとだって言うことも分かってる。でも、やっぱり前を向かないといけないの」
実涼の言葉は、謎の重みがあった。その理由は、続く言葉で分かった。
「私、情報屋の手伝いをやっているけど……その関係で、目の前で殺される人だっている。どうしても、助けることが出来ない命だってあるの。おばあちゃんもお父さんも、おばちゃんも後悔するけどそれでも前を向いて、弔って進んできたんだよ。それしか出来ないんだよ……」
情報屋、という言葉に全員が驚く。実涼が情報屋をしているなんて知らなかったのだ。
弘莉は彼女のジッと見る。そして、
「……もしかして、お前六代目アトーンメントの娘か?」
そう、聞いてきた。「……うん、そうだよ」と実涼は頷く。
「そうか……じいちゃんが五代目アトーンメントにかなり世話になったみたいだからな。どれほど素晴らしい一家だったか、いつも聞かされてたよ」
うつむきながら、彼は再び自嘲した。
「……そんな一家に生まれたんなら、そりゃあそんなたいそうな考えでもやっていけるだろうよ。でも、それも出来ない奴だっていんだよ」
彼にどんな言葉をかけても、きっと届かないのだろう。皆で顔を見合わせると、
「お前、まだそんなことを言っているのか?」
後ろから、男性の声が聞こえてきた。振り返ると黒髪の男女が立っていた。
「……お嬢ちゃん、五代目アトーンメント……涼恵の孫娘か。世話になるな」
「あ、その……康弘さんと光莉さん、ですよね……?」
「はい。その子の祖母ですよ」
康弘の方は威厳のある雰囲気を宿しており、反対に光莉の方は穏やかで優しそうな雰囲気を感じ取れた。
「弘莉、極道になるならその覚悟もしておけと言っただろう?」
「そう、だけど……」
「お前は極道になるには優しすぎる。だから光莉さんと一緒に堅気として生きていけと言っただろう。それが嫌なら、非道になるしかないんだ」
祖父の言葉に彼はうつむく。実涼は「あの、康弘さん……」と声をかけた。
「その……そこまで言わなくても……」
「……次期七代目アトーンメント、祖母から聞いたことないか?時にはこれぐらい酷いことを言わないといけない時だってある。……俺も、未熟だった時は君の祖母から何回も暴言を吐かれたからな」
「そ、そうなんですか?あのおばあちゃんが?」
「彼女なりに考えがあってのことだと分かっている。……俺が強くなるためにそうしてくれた。兄貴達だって、そうだった。それが分からないなら、極道から……裏社会から足を洗うしかない」
そこまで言われ、弘莉はうつむいてしまった。
「まぁまぁ、落ち着いてください」
光莉が優しくなだめる。そして弘莉の方を見て、
「……でも、そうね。覚悟のない人間には、何も守れない。それは確かよ」
そう、言い切った。
「私もあまり厳しいことは言いたくないけど……あなたは私達の大事な孫だもの。死んでほしいわけじゃない。だから選びなさい。逃げるのか、立ち向かうのかを」
光莉の言葉に弘莉はギュッと手を握った。そして、
「……たち、むかうよ……舎弟や、兄貴達の分まで生きて見せる……」
「……そう。それならいいわ」
彼は、決意を秘めたその瞳を向けた。同時に、檻が壊れる。
「お嬢ちゃん達はまだ、ほかの人達を助けに行くんだよな?」
「はい、そのつもりです」
「それなら、これをやるよ」
弘莉から渡されたのは十字架が刻まれた短剣。
「俺は別のもん持ってるからよ、有効利用してくれ」
そう言って、三人はその場から歩き出した。
「帰ろう、今は避難所の近くにいた方がいいと思う」
「そうですね。弘莉も行こう」
「うん」
そんな会話が、後ろから聞こえてきた。
さらに進んでいくと、中央に赤い光を放っている大きな石が置かれていた。
「これは……?」
「なるほど。……これを壊したらいいみたいだ」
義久が首を傾げると、リーデルが答えた。それならとそれぞれ武器を持つが、
「待て、気配を感じる……」
リーデルが耳をピクピクさせながら告げる。……確かに、どこからか足音が聞こえてくる気がする。
「――っ、危ない!」
月菜が叫ぶと同時に、咲の後ろから強い気配を感じ取った。間一髪、避けられたが地面がへこんでおり、当たっていたら死は免れなかっただろう。
「へぇ?ガキのくせによくやるな」
そう声をかけてきたのは黒いローブをまとった人物。異様な雰囲気に全員が嫌な汗を流れるのが分かる。
しかし雷呪文がその人に飛んでくる。避けられてしまったが命中がよく、誰だろうかと振り返ると、
「チッ、避けやがって……」
「始末してやろうと思ったんだけどよ……」
そこにいたのは良希と信一。どうやら涼恵に言われて助太刀に来たようだ。
「ここにいたんだねー」
さらに金髪の男性――啓もやってきた。彼は涼恵から借りてきたのか剣を持っていた。
「まったく……本当にあの子も人使いが荒いんだからー……まぁいいけど」
彼は相変わらずニコニコしている。しかし、まとっている雰囲気には怒気が含まれていた。
「君がスズちゃんの言ってたやつかー」
「チッ……あの贖罪の巫女の手下か……」
「お前ら、その赤いの壊しとけ」
「こっちは俺達が対応しておくからよ」
三人に言われ、一つ頷いた後その赤い石を攻撃し始めた。かなり固く、壊れるまでにかなりの時間がかかりそうだ。
その時、先ほどもらった十字架のネックレスと短剣が光った。
「まさか……なぁ、それ使ってみてくれ」
「あ、あぁ……?」
咲はネックレスをもらった時に浮かんだ呪文を唱え、実涼は短剣で切りつける。するとヒビが入った。どうやら不思議な力が宿っているらしく、赤い石に効くようだ。
そのまま壊すと、ローブの人物は舌打ちをした。
「本当に、贖罪の巫女と断罪の女神様は邪魔するな……それに、魂と救済の子も立ちふさがりやがって……」
「当たり前でしょ」
足音が聞こえ、振り返ると新に似た男性――暁と白髪の女性――悠が歩いてきていた。二人も剣を持っている。
「と、父さん?」
「お母さん……?」
新と咲が目を見開く。それもそのハズ、二人は新と咲、それぞれの親だからだ。
「……なるほど、魂と救済の子供達か。お前達の言霊は邪魔になりそうだな」
「うるさいなぁ」
「地獄に落とされたいの?」
二人の冷たい言葉に「おー、怖い怖い」とさして怖くなさげに告げる。
「こらこら、あまり煽るもんじゃないよー」
啓が暁と悠をなだめる。
「大丈夫ですよ、こいつ地獄に落ちようがあまり効果なさそうですし」
「そうそう。私達からしたら世界をこんな風にしたこいつとその仲間を業火で永遠に焼きたいぐらいなんですから」
……この双子、恐ろしい。
そう思うのだが、そういえば自分達の知っている双子は全員恐ろしいことを思い出す。
「あはははっ!確かになぁ。……でも痛いのは嫌だし、ここは逃げるとするか」
そう言って、ローブの人物はどこかに消えてしまった。それを睨んで見ていたと思うと、暁と悠は振り返って、
「大丈夫だった?」
そう声をかけた。
「う、うん。大丈夫、お母さん」
「よかった。……私達、傭兵みたいなことしているの」
「傭兵?」
「あぁ。とはいってもお金とかはもらってないから義賊みたいなものだけどな」
二人はそう言って笑う。どうやら二人は一緒に行動しているらしく、エネミーを倒して回っているようだ。
次はどこに行くべきだろうか、と悩んでいると、
「……多分、今度はあそこだと思う」
暁が左の方向を指さす。そこには巨大な絵画が飾られていた。
「あの、絵画の中?」
「うん。あそこから気配を感じるの。もしかしたら、その近くかもしれないけど……」
夏人が首を傾げると、悠がコクリと頷いた。
「もう少し周りを調べてみる」
月菜がそう言うと、「明日でいいんじゃない?」と実涼が答えた。
「今日行くにしても明日行くにしても、気を付けて。……あぁ、そうだ。これ」
おもむろに、悠が筆を渡してきた。それは咲の父親である優士のものだった。
「それ、あげるってお父さんが言っていたよ。何かの役に立つんじゃないかって」
「ありがとう、お母さん」
ありがたく受け取ると、悠は「私達はもう少し探索するから、今日は休んだら?」と言ってきた。そういえばと涼恵から受け取った腕輪を見る。啓が「あー、あの子が渡してくれたんだねー」と笑う。
「それ、使って涼恵のところに戻れよ。話し合いの場所は貸してくれるだろ」
良希の言葉に従い、七人はそれを使って涼恵のもとに戻る。
「おかえり。ご飯出来てるから食べていく?」
そう言いながら、涼恵は椅子に座らせてくれた。恵漣が食事を持ってくると怜と蘭の兄弟が近付いてきて「これ、地図だよ」と渡してくれた。
「ありがとうございます。調べてくれたんですか?」
「ある程度だけどな。あ、それとこれ、やるよ」
蘭が小瓶に入った液体を渡してきた。
「おじいちゃん、何それ?」
「飲むタイプの傷薬だ。涼恵から教えてもらって作ってみたんだよ。……今はこの世界で作れる薬を研究中なんだ、安全なものだったらすぐに作ってやるから言ってくれ」
「俺も新薬なら作れるから、ほしいものがあったら言って」
二人の言葉に「お前ら、すごいんだな」とリーデルが笑った。
そこに、リーデルと似たような黒ネコと白ネコが足元にやってきた。
「無事だったみたいね」
「え、この子達……」
「ロディとマリアンだよ。ほら、ファートルの看板ネコの……」
「え、え?」
義久が目を丸くする。それもそうだろう、ロディとマリアンは普通のネコだと思い込んでいたから。
「あいつら、飼いネコ扱いだったもんな……」
「まぁまぁ、仕方ないわよ。この子達には聞こえていないんだから」
ロディとマリアンがそれぞれ困ったように笑う。リーデルはジッと二人を見て、
「……二人も、導く者だった……?」
そう呟かれると、「あー、シャーロック様に作られたのか?」とロディが聞いてきた。しかし、
「いや、違う。ピースとガーディって二人組だ」
「二人組……?あぁ、なるほど」
「サキとアラタは会ったのよね?」
どうやら心当たりがあるようだ、その質問に咲と新は頷く。
「なるほどなぁ。まぁこんな世界になるって分かってたら……」
「まぁまぁ、今日はもう遅いから早く寝た方がいいんじゃない?見張りは俺達がしてるからさ」
長話になりそうだと思った怜が間に入ってくる。
そのあと、ゆみに案内されてそれぞれの部屋に入った。
「何かあったら私達に言ってね」
「はい、ありがとうございます」
ゆみが持ち場に戻ると、咲はベッドに座る。
さすがに避難所だからか、狭い部屋にベッドと机と椅子があるだけだ。個室があるだけマシだろう。
しばらくして、部屋をノックされた。扉を開けると立っていたのは涼恵。
「咲ちゃん、ごめんね。こんな時間に」
「いえ、大丈夫ですよ。どうしました?」
「これ、蓮から渡しておけって言われてね。それから、眠れない時は書庫があるからそこから本を借りてきていいからね」
祖母からと言われて渡されたのは白紙の本だった。タイトルも、あらすじも、何もない本当に白紙の本。
「これは……?」
「私も分からない。でも……不思議な力を感じるよ。多分役に立つんじゃないかな?」
涼恵が咲の頭を撫で、「それじゃ、私は戻るよ」と部屋から出た。それを見送り、白紙の本をジッと見る。
試しに咲が一ページ目に手をかざすと、文字が出てきた。それは、先ほどまでの記録を書き記しているようだった。
「これ……」
もしかして、これを埋めろと言うことだろうか?
「……明日、新にも言わないと……」
そう呟き、それを机の上に置いてベッドに横になった。