サラマイーツ王国王宮
翌日、少しおめかしをして(今迄緊急事態だったので平服でしたが、他国の王族と会うので)階下に降りると、机一杯にシェルさんが朝ご飯の他に茶菓子を用意してくれていました。
「マリー様、おはようございます。こちら、本日の会談にお持ちください。何か仕込まれていたらと思うと、あそこで出された物の飲食は我慢なりませんので」
「おはようございます、シェルさん。……えぇと、そんなに頻繁に毒は仕込まれるものじゃないと思うんですが?」
一応、友好国の王宮です。こういう事をしてもいいものでしょうか? 公爵令嬢時代のお茶会も、お土産は手渡しても基本的にはもてなす側が茶菓子は用意するものでしたし。
「用心に越したことはございません。それに、毒殺されかけたのはあちらの方です、此方から用意した物の方が王宮で出されるものを食べるより安心だと言えば納得せざるをえないでしょう」
「一応出してはみますね。ありがとうございます」
「万が一あちらで何か用意していても、お口にはなさらないように」
一応不老不死だから毒が入っていたとしても私が死ぬ事は無いんですけど、シェルさんの過保護は今に始まった事では無いのでありがたく受け取って置く事にします。言っている事にも一理ありますしね。
イグニスさんの例もあります……毒を喰らっても死ぬ事も出来ず延々と苦しむ。う、それは遠慮したい所です。
不老不死と言っても、毒が効かないとかではないんですよね。ローズの日の贈り物で皆さんと私は状態異常耐性を持っていますから、そこまで警戒する事でもないですし。
とはいえ、私が毒を喰らって平然としているのに、シャルルカン様が毒を喰らって倒れたとなったら今度は私が疑われます。なんとかしてシェルさんのお菓子を食べてもらいましょう。私の考えの浅さが出てしまいました。シェルさんはきっとここまで考えてくれていたに違いありません。
さて、そんなこんなで朝食も食べ終わったので、今日はイグニスさんと一緒に王宮に出向きます。イグニスさんは【変身】を使われる際に服を編まれているので、今日は私に合わせて少しばかり窮屈そうな身形です。
「なに、この位はな。女に恥をかかせるものではない」
アオイさんはそういう考えはありませんが、イグニスさんは割合人間に……主に私に合わせてくれようとしています。アオイさんにとっては人とかかわった経験というのはクズハさんのご家庭くらいだったからでしょうか……もしかして、アニマルズの中で一番若いのはアオイさんかもしれません。
そんな事を考えているうちにコテージから王宮へと到着しました。この国はあまり馬車に乗る風習は無いんですよね。荷車とかはよく見るんですが、足元が舗装されていないので馬車はきっと想像以上に揺れるのだろうなと思います。
ここ、城下町なんですが、こじんまりしているんですよね。一番外側に私たちのような旅行客が泊まる宿泊施設があって、その近くに毎日市が立つような街があって、そこの裏路地に皆さん家を構えていらっしゃって、王宮が最深部にあって。で、王宮の中に基本的に貴族の方も屋敷や部屋を与えられている、という形のようです。だから王宮が街よりもずっと広かったりします。
果物なんかは森で採れますし、農作をするにはこの国は暑すぎて向いてないようで、あとは鉱山の採掘資源とこの国特有の果物を輸出に出して外貨に換えたり、穀物と交換したりしている様子。あ、海があるので魚介類はいつも新鮮なものが手に入るみたいですね。それらは日持ちがしないので基本的に自国内で消費されるようです。
先程も思っていた事ですが、王宮が無駄に広い。お陰で会談場所まで案内される間にこのサラマイーツ王国城下町の事を滞在中に知った内容をおさらいしてしまいました。
「第二王子はこちらでお待ちです」
「ありがとうございます」
案内された両開きの扉を侍女さんが開いてくださり、中は数人で話すのにちょうどいいようなサロンになっていました。
壁は大きなガラスの嵌った窓で、中庭の光を取り込んで明るいです。しかし、中に入って扉が閉まると外の音は全く聞こえなくなりました。
なるほど、秘密の会談にはうってつけですね。もともとこの王宮は二階という概念が無いので(その為に余計に無駄に広いのです)ここで話した事が外に漏れる事はまず無いでしょう。
「ほーう……遮音結界に……中を覗く事も出来ないようになっているな」
イグニスさんが部屋をぐるりと見渡して言いました。こんなガラス張りなのに? と疑問に思いますが、イグニスさんは付与魔術もお得意です。その辺も詳しいのでしょう。
「ご名答。よく来てくれた、マリー殿、そしてお連れの……あぁ、竜種か」
今日は最初から両肩にフギンとムニンを乗せたシャルルカン様が出迎えてくれました。イグニスさんの正体を見破る……のは、たぶんフギンかムニンのどちらかでしょう。フギンさんとムニンさんと呼ぶべきかもしれないのですが、人型よりもカラスのお姿でいらっしゃる方が自然なせいか、つい呼び捨てにしてしまいます。
「イグニスだ。貴様がシャルルカンだな。マリーに話は任せる、我は付き添いだ」
「そういう事なら気にしないでおきましょう。こちらも俺一人では無いしな」
「あ、そうだ。お茶菓子を持ってきました、良ければ食べながら話しませんか?」
「それはありがたい。今少々食事制限中でね。料理は食べていないんだ、果物だけ」
「あら……甘いものしか無いんですけど、いいですか?」
「かまわない。久しぶりに手の込んだものが食べられるな」
やはり毒殺未遂ですからね。多少は料理という物に抵抗があるのでしょう。毒見役の方も果物の方が幾分か安心して食べられるでしょうし。
私はバスケットに【収納】してきたシェルさんお手製のお菓子類をサロンのテーブルに出すと、さっそくシャルルカン様は毒見も無しに口に小ぶりなタルトを放り込まれました。
「うむ、うまい」
もぐもぐ、と口に含みながらしゃべるのは行儀が悪いですが、割と真剣に今の食生活に辟易していらしたのでしょう。一口でほおばり、ひといきに咀嚼し、ごくんと飲み込まれました。
「さて、では会談を始めようか」
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