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掌の上

「なるほど、そんな事があったのですね……」


 クリス神様が思った以上に深刻そうな顔で呟きました。あれ? そんな変な相談でしたっけ。


 私はただ、この国の第二王子が国王に就任するお手伝いをする代わりに、今回のような事が起こらないように元・婚約者とその現・婚約者をどうにかする、その為にこの国に留まるかもしれない、というご相談をしただけなのですが。


「ふぅむ、悪くない話ではあるが、お前の本来の目的は別にあるだろう? その為にも一度帰るべきだとは思うがな。いつまでも家を空けておくものでもない」


「私も、一度マリー様はお帰りになった方がよろしいのではないかと。……噴飯ものですが、そこのトカゲならばこの国と家との往復は大した距離ではありません」


 ドラゴンライドすれば確かに日帰りで往復できますね。私が怖いのに慣れればの話ですが。


「そうですねぇ……アオイさんは我関せずですか?」


「俺の仕事は終わった。正直、お前が自らあのクソ野郎共と関わるのは反対だ」


 アオイさん、なかなか辛辣です。でもまぁ仕方が無いですよね、国を出てからは一度しか会ってませんけど私でもあれはクソ野郎だと思います。王様の方がよほど平身低頭して……。


「……あぁ、なるほど」


 王様がお忍びで私の元を訪れた事もご存知なのですね、シャルルカン様は。


 既にご存知の通り、ギュスターヴ王国とサラマイーツ王国では交易という関係があります。友好的な関係を築いているので戦争という事には成り得ません。その友好国であるギュスターヴ王国の王様が、サラマイーツ王国の第二王子を支持する、という方向に行けばどうなる事でしょうか。


 結果は火を見るより明らかですね。第一王子に味方すれば友好国が敵国となりうる事態です。私にそれをさせるだけの力があるかどうかはともかく……、と思いましたが、ありますね。


 あのクソ野郎と現・婚約者が今回の真犯人であるという事を盾にすればいいのです。


 怖い人だ、とシャルルカン様の事を考えて思いました。一体いつから彼の掌の上で踊らされていたのでしょう。毒ももしかして、気付いていて煽った可能性があります。……その場合、あまり手を組みたくないのですが。毒見役の方をあえて巻き込んでますからね。


 私がすでにクリス神様と王様、ポールさんとブルーの協力を仰いで証拠を押さえる動きをしているのもご存知でしょう。紹介されるまでフギンとムニンの事は知りませんでしたから、どこで何を聞かれていたかは……想像の範疇でしかありませんが。


「確かに……私の協力が不可欠ですね……」


 さすがに友好国とは言え他国の国の中枢にまで足を踏み入れる真似はできません。また、今回の事件に関してはフギンとムニンの証言では弱いのです。あくまでも真っ当な方法で証拠を掴み取り押さえなければなりません。


 ギュスターヴ王国がクソ野郎を国王にするのはもう知った事じゃありませんが、私は真相に一番近くにいる部外者であり関係者です。王様との縁もあります。シャルルカン様は全てご存知で私に手を組むことを持ち掛けてきたのです。


「……私はきっとこの国に残る必要は無いでしょう。協力するためにこの国に留まる必要は一切ありませんからね。なので予定は特に変更せず、帰国でいいかと思います。そして、私のやる事も変わりません。今回の毒殺未遂の犯人を捕らえる……そこから先のシナリオだけ、シャルルカン様に合わせる必要があるという感じですね」


 なんだかんだいって元凶が私という所もシャルルカン様は否定はしませんでした。


 剣は使いようによる、と言っておきながら、その剣の設計図を書いたのは私だ、としっかり明言されています。


 つまり、証拠を掴んで罰則を与える権利を私が掴み、その罰則自体は私に委ねられますが王様がサラマイーツ王国の第二王子を支持するという条件を付与しろ、という事のようです。


「マリー……」


 クリス神様が不安そうな顔で私を見ています。


「クリス神様……?」


「あまり……いい予感がしないのです。私も調べてみますが……この件は慎重に動くようにしてください。シャルルカンという男と会う時は必ず誰かを同伴させるように」


 そう言い残してクリス神様は一条の光を残して消えられました。


 神様の悪い予感とかどういう状況でしょう。しかし、一日時間を貰って考えれば考える程、私はシャルルカン様に協力『しなければならない』事になっていたのだと気付かされます。


 あくまで態度は対等であるように見せながら、シャルルカン様は私があの毒を考案した者だとご存知です。その時点で私はすでに、彼に手綱を握られているに等しい。


 時間をくださったのはあくまでポーズだったのでしょう。対等、と私に思わせる為の。その場でここまで頭が回らない自分のバカさに少し頭痛がしますが、あの場はシャルルカン様に支配されていた……、あれが本来の王族なのかもしれません。


 支配者、というのはあぁいうもので、私が接してきたクソ野郎やその父親の王様は私に対して瑕疵があるから一歩引いてくれているだけで。


「では、帰国するという事で。お互い協力しあうという事を明日シャルルカン様に告げて帰国しましょう。明日はイグニスさん、一緒に来てくれますか?」


 アオイさんとシェルさんはシャルルカン様に一度会っています。シェルさんが会った時は意識不明の重体の時ですが、三人ともに会ってもらってシャルルカン様の印象を刻んでおいて欲しいのです。


 クリス神様の一言のせいでしょうか? 私の胸の内にも、何か変だという思いがあります。掌の上で踊っているせいかもしれませんが、決して私にとっても悪い話では無いのですけれど……嫌な予感、といいますか。


 不安げな私の肩をイグニスさんが抱きます。顔を見上げれば、大丈夫だ、という視線が返ってきました。


(そう、大丈夫……、たぶん、大丈夫……)


 私はそう胸の中で自分に言い聞かせて、その日布団の中に入りました。あまり、よくは眠れませんでした。

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【長編異世界恋愛】
宰相閣下は『壁の草』をご所望です!~転生モブ令嬢は推しの溺愛に気付かない~
― 新着の感想 ―
[良い点] 深い!Σ(゜Д゜) [一言] 周りが腹黒ばかりだと 引きこもりたくなる気持ちもわかりますね(^_^;)
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