南の国へ出発!
着替えよし! 作り置きの薬よし! 持っていく薬もよし! 万が一料理が口に合わなかった時のためのシェルさんお手製大量のお弁当よし!
全部をお気に入りのバスケットに【収納】した私は最後の荷物の確認をしていました。南の国ですから暑いのを見越して着替えは半そでばかりに、一応ショールを入れています。つば広の帽子をかぶって準備万端です。
階下では皆さん集まって準備OKなようです。見送りにポールさんが数日滞在してくださいまして、クリス神様もいらっしゃって、下がざわざわしています。
といってもアニマルズの皆さんは基本着替え無いので(何せ【変身】ですので)荷物らしい荷物もなく……おや、階下から「昔から女と言うのは支度に時間がかかるものだな」なんて聞こえてきましたよ。
これでもノーメイクで、基礎化粧品も使ってない喪女生活してるんですから、かなりの時短ですよ、時短。不老のお陰でもあるんですけどね、すっぴんでいられるの。外で仕事をするから多少は焼けましたけど、都のお嬢様に比べたらちょっと健康的かな、くらいですし……不老不死の恩恵を変なところで感じています。
これだから男の人は分かってないんですよ。私が不老不死じゃなかったらとっくに真っ黒に日焼けして肌はぼろぼろ、髪もぼろぼろですよ。転生してまともに美人の見た目を手に入れてそれを何もしなくても維持できる。それだけでも不老不死の価値はあったというものです。
帽子をリボンで留め、バスケットをもって階下におりました。リビングで皆さんお話なさっているようですね。どれどれ、私も旅立つ前に少しお邪魔を……うっ、眩しい。リビングのドアを開けたら種類の違うイケメンが一斉に振り向きました。ポールさんまで眩しく見える……と言ったら失礼なのでしょうが、このイケメンたちの中で見劣りはしないんですよね。気さくで話しやすいから眩しさを感じないだけで、顔の造作は悪くないお方ですし。
思わずリビングのイケメンの数を数えてしまいました。ひーふーみーよー……いつの間に増えたんでしょうね。6人も居ます。
よく考えてみたら男所帯な上に男性に女一人混ざっての植生調査という名の旅行なんですよね。その上一緒に行くのは私に求婚らしきものをしている男性陣なわけで……。ひとつ、手を打っておきますか。
「さて、そろそろ出発ですがここで一つ皆さんとのお約束があります」
「何でしょうか? 私にできる事ならなんなりと」
「言ってみろ。約束は守る」
「竜は約束を違えたりはせんぞ」
同行者の3人がしっかりはっきり明言してくれました。これなら安心ですね!
「旅行中は人型での私への接触を禁止します! 以上! さぁ行きましょう!」
笑顔で私がそう告げると、先の三人が一斉に沈黙して何やら深刻な表情をしています。
知りません~、ちゃんとお約束がありますって言いました~。気持ちは小学生の「バーリア!」です。
「マリー様、それはさすがに……ご無体というものでは」
「危急の際に助けられないのは困る」
「言うではないか……人型でなければ良いのだな?」
イグニスさんは一部【変身】が可能ですからね。
「もちろんです。翼や角や尻尾を生やしていても人型だと私が判定したらダメですよ」
「くっ」
やっぱり。油断も隙もありませんねこのドラゴン。
「いざという時はクリス神様が助けてください。お祈り用の彫像も持ったので!」
「おや、私はいいんですか?」
意外そうにクリス神様が言いました。いいも何も、クリス神様は神様な上にお友達第一号です。何か問題ありました?
私が首を傾げていると、ふふ、とクリス神様は笑っておられます。花の顔ですね。何か優越感のようなものを感じていらっしゃるような顔をしていらっしゃいますけど。
そしてその優越感を過敏に感じ取っている人が三人いるんですけど。ちょっとその人たちと今から旅に出るので煽るのやめてくださいクリス神様。悪戯がすぎますよ。
「マリー様、そろそろ出発なされた方がよろしいかと」
不穏な空気をブルーが冷静に切り裂いてくれました。ありがとうブルー、さすが有能使用人。
「そうね。おふざけはこのくらいにして出発しましょうか。あ、約束は約束ですからね」
私は念を押すと外にでました。
シェルさんがペガサスの姿になり、そこにブルーが鞍を乗せてくれます。ドラゴン姿のイグニスさんを見て、ポールさんがやや青ざめて目を逸らしていましたが、何かあったのでしょうか。イグニスさんは面白そうに顔を近づけてからかっています。やめてあげて。
イグニスさんの背には人型のアオイさんが鞍も何もなしで乗りました。お互い不承不承という体でしたが、こうして見るとドラゴンに乗る戦士という感じがしてかっこいいですねぇ……。
私は長旅なのでシェルさんに横乗りに乗り込むと、手綱を握りました。とはいえ、全く操作する必要は無いのですが。
「南の国までなら私がご案内できると思います。……トカゲが遅れなければよいのですが」
「聞こえているぞ馬。誰が馬に遅れをとるか」
「相変わらず仲良しですねぇ。それじゃあ、ブルー、ポールさん、クリス神様、いってまいります」
馬上から3人に挨拶すると、ふわりと身体が浮き上がりました。
相変わらず乗り心地抜群のペガサスです。これも魔法の力なのでしょう、心地よい程度の風しか感じません。
「いってらっしゃい、またあちらで」
「いってらっしゃいませ、マリー様」
「くれぐれも危ない事しちゃだめですからね」
三者三様の見送りの言葉を聞きながら、私は空高く舞い上がって行きました。
南の国、どんなところか楽しみです!




