第0章 プロローグ
第0章 プロローグ
今日はとても良い日だ。なんたって新しいフィギュアが届く日なんだから。
「宅配でーす」
そんな声とともに、チャイムの音が鳴った。
置き配にしたはずなのに、ピンポンをしてくるのは達が悪い。
あまり外には出たくないのだが、ここは我慢だ。
不機嫌そうな顔を見せる俺に、配達の兄ちゃんは首をかしげている。
どうやら受け取りのダンボールにサインとして名前と年齢を書かないといけないらしい。
どうも憎たらしいものだ。
名前「ワカツキ ハルト」 年齢「21歳」
俺は見ての通り、ピチピチの高校生だ。
…
学校での、成績不評や、レッドカード(注意カード)が蓄積し、留年をした16歳の春から、俺は学校に行かず、ニートライフを満喫している。
それでも俺を退学にせず、休学にする学校はすこし現代っぽさを感じるが、心が痛いので、卒業させてほしい。今から16歳のいる教室に行き、俺自身の卒業を手に入れるのも悪くないが、それはセクハラの度を越えた、犯罪である。
もちろん後悔はしているつもりだ。だが、この生活も悪くないと感じてしまう自分も居る。
なんたって学校に行って勉強していた時間や部活動の時間をすべて自分の趣味に使えるからである。
俺の最近の趣味は見ての通り、フィギュア鑑賞だ。
昔から漫画やアニメが好きだった俺にとって不登校とは、好都合だった。
そんな俺の最近の趣味は、自分でも理解できるほど、気持ちの悪い。そんな趣味をしていると自負している。
あまり説明はしたくないが、言うならば、
買ったフィギュアの顔の輪郭から、服のなびき具合まで、全てを観察し、妄想を膨らます。そして旧友が良くやっていた「地球と言う床に対し自分の生殖器を擦り、生命の喜びを感じる儀式(略して床オナ)」と言う新たな、快感方法を堪能している。
当時中学生の俺は衝撃を受け、それから一瞬たりとも、その単語を忘れたことはないだろう。
どうやら彼は小学2年生からの超古参プレイヤー。
彼と会わなくなってからその魅力に気づいた俺はあの頃分かり合えなかった自分に後悔している。
あいつは今、元気にしているのだろうか。(意味深)
俺は決して友達が居ないわけでは無かった。なんなら結構居た方だと思う。女の子には、とばっちり好かれなかったが、それでも幸せな日常を過ごしていたと思う。
今さら後悔するのは無駄なことだろう。
もしもう一度、謎の魔法とやらで「1からやり直せる」なんて異世界漫画のお決まり展開みたいなことが起きたなら、二度と今の姿にはならないと誓うだろう。
だけど俺はもう家に引きこもり、4年間外には出ていない。この世界でやり直すことは不可能だろう。
もし叶うなら、異世界転生でもしてみたいものだ。
新しく届いたフィギュアのスカートを下から覗きながらそう思った。
また生まれ変わって、1からハーレム!みたいな。
そんなあり得ないことを考えることが無駄なのは自分が一番よくわかっている。
…
…
…
どうやら、家を追い出されるらしい。
いきなりすぎて、とてもびっくりしているが
確かに、俺はもう21歳。一般的には社会人で働ける年齢だ。
あのクソジジイはそこらへんの頭は切れる。どんどんと頭に血が昇っている感覚があった。
俺はきっと怒っているんだろう。
…
全て自分が悪いのに人のせいや環境のせいにして、怒っている自分自身が今は一番嫌いだ。
俺は4年も外に出ていないんだ。そう簡単に出れるものではない。ジジイが言うには、「明日までは家を貸してやるから、仕事を見つけてこい」とのこと、さすがに無理ゲーすぎるが、自分の努力不足が招いた、状況なので何も反論できず。とりあえず外に出るために、ドアを開けた。
引きこもり期間の間も、ドアはフィギュア購入の宅配で開けることはあったが、(もちろん親のお金で)
この先に進むのは4年ぶりだ。
久々の外への期待と、いままで4年間の心配が混ざり合い、複雑な気持ちで、ドアを開けた。
そして右足から1歩ずつ進んでみた。
「暑い」
そう感じた。
4年ぶりに外に出た感想ランキングではかなりしたの順位にいそうな感想である。だが一番に感じたのはそれだ。3月はこんなにも暑かっただろうか。どうやら4年で世界は平均3℃程上がってるらしい。
どうでもいいことだが、懐かしい外の空気にこれからの緊張が少しほぐれたように感じた。
今日は3社を受ける。「コンビニ」「スーパー」「ガソリンスタンド」どれもバイトレベルの仕事だが、一人暮らしの俺にとってはちょうど良い仕事だ。
(「今日は」と言ってみたが、今日以外はもうないけどね)
3社とも4年間の引きこもりニートにしてはちゃんと受け答えできたはずだ。「社会人になるまで、何をしていたか」という質問以外は。
結果は直接口で言われた。
結果は全落ち。どうやら「中卒」が俺の足を引っ張っているらしい。一般的な不合格通知は、面接から1週間程かかるらしいが、俺の場合経歴が酷すぎて、全社その場で切られた。理由は中卒以外にもありそうだな…
正直もう俺の居場所はないのかもしれない。
そう感じた。
太陽が沈み、1日の終わりを感じさせる月の明るさが、俺の心を引き裂いてくる。
さあ家に帰ろう。
と言ってはみるが、帰る家はもう俺にはないみたいだ。
よくよく考えたらおかしいだろうと感じてきた。
仮にも4年間引きこもっていた、息子を見捨てる親が居てたまるのだろうか。
親として失格だ!ありえない!
…
全部自分のせいだ…俺が留年したのが悪いのだろう。
というか留年しても学校には行けたはずだ。
明らかに俺が悪い。
なんなら、ここまで住ましてもらったことに感謝をしなきゃいけない立場だろう。だが俺に恩返しなんてそんなことができる力はないと、今日でよくわかった…
もう何でもいい… 最後にオナニーでも…って
!?
たぶんのろのろと歩いていたからだろう。
横から来るトラックに気付かなかった
まだ10メートルほどある。走れば間に合…
俺の体全体が痛みを持っている。不衛生な生活のせいだろうか、ゲームのやりすぎもあるだろう。
確かに俺は4年間計ってはこなかったが、元の体重から30kgは増えている気がする。
ここで4年間運動をしてこなかった俺の体が走ることを拒否している。
そんな体で走ることなんて、不可能だ。
多分もう無理だ。
引かれる寸前、普通は親への感謝とかが出てくるのだろうか。だが今の俺は本当にどうでもよいことを考えている。
「トラックに轢かれる」「家を出される」「ニート」
これらはこの4年間飽きるほど聞いた単語である。
言うとするならばそれは。
「異世界漫画のありがちな展開」そのもの。
それは俺の憧れであり、留年したての俺を救ってくれた神様である。多分どうでもよいことではない。いつの間にか俺の人生の一部になっていたんだろう。
俺はこの人生、結局なにも成し遂げられてない。
後悔は正直ある。だけどこれでいいのだ。
トラックの急ブレーキの音がする、たぶん60キロくらい出していただろう。今からでは絶対間に合わない。
夜道の道路を照らす、トラックのライトの奥からは、人を轢くわりには、ごく普通の顔をした、トラックドライバーの顔が見えた。
そして俺は誰も覚えていないであろう22歳の誕生日の日
トラックに轢かれた。
と
おもっていた。
なんということだ、トラックドライバーがF1レーサーばりのスーパードリフトをかましてきた。
周囲に車は居なく、負傷者もゼロ、なにもなかったように過ぎ去っていったトラックに男ながら惚れそうになった。
(死ぬわりには回想シーンが長かった気がしたのはそのせいだろう。)
正直死んでも良かった。
なんて、親不孝な事を考えてしまう。
親には見捨てられたけどね。
…
「ただ、生きているのだ、俺にはやることがある。」
そう、就活!
ではなくニーである。
気分は落ち込んでいるが、俺のアレは別だ。
なぜだかわからないが、とても元気である。詳しいことはわからないが、アドレナリンが放出されて、血液が循環したのだろうか。バキバキだ。
とりあえず近くのコンビニのトイレに行こうと思う。
トイレを借りると言っただけなのに、嫌な顔をされた。店員さんの顔を見て少しニヤついたのが原因か、それともスボン越しでもわかるこの陰部が原因か。
あぁ...可愛い子にあんな顔をされることが、この世で最も辛いことだ。
俺も昔、あれくらいの年齢の子に恋をしてしまった時期がある。ショートの髪型で、ダンスを習っていた。俺にはあの子しかいない。
なんて思っていた…もちろん今も変わらず。
だけど、その頃の俺は普通にフラれた。
理由は「高校生で恋愛したいから」なんて、ありきたりな理由である。そんなの嘘に決まっている。
断り方として一番都合が良かったのだろう。勇気を出した俺には拍手を送りたいが、あれ以来恋愛が怖くなって苦手意識が芽生えている。
そんな事を考えていたら、なおさらトイレに行きたくなってくる。
俺はトイレに入り鍵をしっかりと閉めた。
俺は死ぬところだったんだ、命に感謝して、床オナをやろうと思う。
おぉ…
擦れば擦るほどに、「気持ちいい」と言う感覚が頭に残る。もう少しスピードを上げようと思った…
なのに、
「ドンドン!ドンッドン」
さっきからずっとドアを叩いてくるやつがいる。
俺は今、とても忙しいんだ。尿なら女性用トイレにでも入れよ!ゲイ野郎!なんて怖いので言えないが、トイレは今俺が使っているんだ。せいぜい我慢しやがれ。
ところで、なぜかさっきから意識が遠のく。興奮しすぎたのだろうか。目の前に広がる視界がズレたり、ボヤけたりする。
熱中症や酔っぱらいに近い感覚だ。1度目を瞑ろう。
ごめん、トイレに行きたい人。
…
どうやら俺は失禁したらしい。
失禁して、呼吸困難、心臓停止多分何らかの原因で気を失ったんだろう。いわゆる死亡だ。
トイレに精子をぶちまけながら、全裸で死体が見つかった。
人間は死んでも少しの時間は意識を保てる。という話は本当だった。
聞こえる言葉から推測する限り、ドアを開けようとしたやつが、俺の長期滞在にキレて店員さんを呼んで開けたらしい。
俺が死んだ事はまずとても心配な事だが、ドアを叩いてきた、そいつも気になる、あれほど必死だったということは、本当に危なかったんだろう。
そこからは覚えてないが、正直、最悪な死に方である。まさか全裸でしかも精子をぶちまけて死ぬとは。
なんとか保っていた意識も、体が全体が冷たくなっていく感覚も、失禁中にたぶん漏らしたう○こが倒れている床に流れる感覚も、消えようとしている。
「これで良いんだ。」
そして俺は静かに目を瞑った。




