第一話 俺って‥‥‥
「ウェーイwwwみんな飲んでるぅ?」
「キャハハハ、ほらイッキイッキ!」
「うはっ!カミやん、ヤバすぎぃ!」
家内守護人22歳。
中学から引きこもり高校受験を失敗した俺。
同世代から4年も遅れて、親からも見放されて勘当された俺だけど今日、晴れて高校を卒業した。
4つも歳の離れていた俺には当然友達などおらず、一人寂しくファミレスで卒業パーティを開いていた。
テーブルに並ぶのはハンバークやサラダ、パフェなど。
「いただきます」
両手を合わせて一礼する。
ではまずはパフェから。
アイス溶けちゃうもんね。
ニコニコでスプーンでアイスを掬い口に運ぼうとしたとき───聞こえた。
「うわっ、あれ見て。ガーディアンがいる」
「おほっ、あいつ一人でパーティしてやがるぜ。友達いねーのかよ(笑)」
「誘ってみる?」
「冗談だろ?雰囲気悪くなるって」
ケラケラと笑って通り過ぎていくのはクラスメイトだった奴らだ。
ガーディアン。
それは俺のあだ名だ。
家内守護人という名前から『自宅警備員』『ニート』を連想し、そのままだとひねりがないから『ガーディアン』になった。
悪口なのだ。
俺はスプーンを置いた。
食事どころではなかった。
スプーンを口に運ぶ。
アイスが溶けるのは看過できなかったのだ。
パフェを完食してから再びスプーンを置く。
俺が何をしたというのだろうか。
運動会でクラスを最下位に導いたのがいけなかったのか?文化祭の出し物で食品の発注を面倒くさがっておじゃんにしたのがいけなかったのか?
どいつもこいつも俺のことをバカにしやがって……。
悔しくて涙が出てきた。
「か、カミやん!しっかりしろ!ヤバい、顔が真っ赤だ!救急車、救急車を呼べぇ!!」
「カミやん!だからあれほどイッキしちゃいかんよって言ったのに!」
横のテーブルがやかましい。
「うるせー!!ファミレスで騒ぐなや!黙って食事出来んのか!!」
俺は高校3年間の恨みを上乗せして叫んだ。
因縁をつけているだけだ。
いけないことくらいわかっていた。
しかし、俺は人に当たることでしか解消出来なかったのだ。
全力で叫び、目を開けると目の前にはビール瓶を振りかぶったカミやんが。
カミやん、無事だったのか‥‥‥。
俺の頭はビール瓶とともに砕けた。
───
気が付けば白い部屋にいた。
「ここは‥‥‥」
見渡しても何もない。
いや、あることにはあるのだが。
真っ白なキャンバスを中心から描き始めたかのように、そこにだけ二枚の畳とちゃぶ台が。
明らかな異常だ。
引き返す場所はあるのだろうか?
ないな。
俺は畳へとあがり、座る。
ちゃぶ台の上の湯呑みにはお茶が。
あっ、茶柱立ってる。
ズズっと一息つく。
湯呑みに一瞬視界を覆われてから正面を向き直すと、先ほどまではなかったテレビが設置してあった。
頭にV字のアンテナのようなものが取り付けられている。
アニメでしか見たことないような古いタイプのものだ。
動くのかな?
画面を覗き込むと、ジジジと明転する。
『はじめまして家内くん。ワイは神や』
「か、カミやん!?」
『違う、神や』
「そうですか」
神を自称する謎の声はゴホンと咳払いを一つすると居直る様子でもぞもぞしだした。
布の擦れる音がテレビから流れている。
『私はね、ずっと君を見ていたのだよ。
パチンカスの父と酒カスの母に半ばネグレクトのように育てられた君は、劣悪な環境でも自分の力で高校を卒業した。ようやく君の人生が始まろうとしていたんだ。そんな矢先、君はウェーイ系の大学生に頭をかち割られてしまった。
あまりにあんまりじゃないか。
だから、あまりにも哀れすぎる君に私は新たな人生をプレゼントしてあげたい。
受け取ってくれるかい?』
俺、死んだんだ。
まぁ、ええわ。
「ええ‥‥‥怪しいなぁ。どうせ新しい人生でも同じような展開になりそうだしなぁ〜」
『うん?何か勘違いしているが、君が行くのは現代日本ではなく異世界だよ。でもそうだな、今世が最悪だったから来世はうんと楽しいものにしてやりたいな。
よし、いいだろう!君の転生先は、魔獣の王フェンリルと人間の間に生まれる子どもにしよう。そろそろフェンリルも代替わりの時期だしね』
「おお!フェンリル!北欧神話だっけ?神殺しの魔獣のフェンリル!いいね!獣人ってもの点数高いよ。四足歩行の獣になるのはなんか抵抗あるからね!
そうと決まればちゃちゃっとお願いしますよ神様!」
『任せとき!じゃあ目をつむってな。いくで』
瞬間、さっきも味わったような感触が頭に直撃する。
頭と共にぶつかる何かが砕けると、俺の意識は暗転した。
最後に。
『いってらっしゃい。次は頑張れよ』
という神様の声が聞こえたような気がした。
───
「あ、うあぁ。んばぁ?」
ボヨンボヨンと身体が細かく、そして激しく上下に揺れている。
薄目を開くと景色が高速で塗り替わっていく。
「んきゃあ!?」
多分森の中だ。
視界は常に薄暗く、木々が絶え間なく生え並んでいる。
な、何が起きてる!?
そ、それに‥‥‥か、身体が動か‥‥‥ん。
視線を下に向けると、布か何かに体が包まれていた。
動かないわけだ。
‥‥‥‥って体ちっさ!!
なに!?なぜ!?
‥‥‥‥あ、ああ転生したって言ってたわ、そういえば。
上を覗く。
俺は何に運ばれているのかを確認するためだ。
何だろ?黒い点のようなものが見える。
もじゃもじゃの何か。
それにどこか獣臭いような‥‥‥。
途端、ふわりと身体が宙に浮いた。
瞬時に何が起きたのか理解できた。
小さい頃から父親によく投げ飛ばされていたから。
反転する視界の端、俺は誰が俺を投げ飛ばさしたのかを視認した。
3メートルはあろう体躯。
神々しさを醸す、銀に輝く体毛。
闘争心に満ちたいかつい顔面。
こいつが、俺のパパか!
‥‥‥なぜ俺を投げ飛ばすのだ?
俺は小さい体でも反射的に受け身をとりパパへと視線を戻すと彼は俺を一瞥することなく来た道を引き返していく。
「あえ!あえ!あえ!!」
待て待て待て!!
なんで捨てる!?
まずい、同じだ。
前世と同じになる。
いや、それより絶望的だ。
赤ん坊ではこの森を生きていけない。
非常にまずい!!
───パキッ
枯れ枝が折れる音がした。
「ケケケ」
「ケキケキケ。ケケ!!」
「キキキキィ!!」
ハァハァハァ───。
拍動が加速する。
グルンと後ろを見ると、そいつらはいた。
低身長にハゲた頭にデカっ鼻。
鋭い目元に餓鬼みたいな細腕、膨らんだ腹。
そして、全身が緑。
ゴブリンだ。
ファンタジーにおける最弱モンスターであるゴブリン。
ゴブリンは俺の頭を掴むとどこかへ引きずっていく。
た、助けてくれ!!




