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1話




「ヤバい! 急がないと!」



 4月5日の朝。

 朝比奈楓は焦っていた。



 なぜなら今日が高校の入学式だからだ。目覚まし時計のセットを忘れた彼女は、入学初日から遅刻するわけにはいかないと、急いでパジャマから制服に着替がえていく。



「あーもう! 本当に時間ないじゃん! 入学初日からなんでこんなことに!」




 準備を終えた楓は家から駅までの間を全力で走る。結果として楓は何とか入学式に間に合う時間帯の電車に乗ることができた。




(雪のように白い肌、艶のある腰まである黒髪、まるで人形のように整った容姿……やっぱり私って可愛いな)



 電車の窓ガラスに映る自分の容姿を見て、彼女は改めてそう思った。



 そう、なんといってもこの少女はナルシストでなのある。

 すれ違っていく異性がこちらを見てくることに快感を見いだすレベルの筋金入りだ。



 最寄り駅に着いた彼女は、新しい通学路を少しワクワクしながら歩いていく。

 


「あの子、可愛いくね。アイドルみたい」



「本当だ。超絶美少女じゃん」



「彼氏とかいんのかな?」



「俺だぜ」



「ふざけんな! ぶっ飛ばすぞ!」



「やめろよ! 柔道部で体重150キロのお前が言うと怖いから!」



(あー! 気持ちいい! これだよ! これ!)



 同じ制服を着た男子高校生たちが、明らかに自分のことを指して言っているのを聞いて彼女は密かに愉悦していた。



(ま、しょうがないよなー。私ってば美少女だし! もっと我を崇めよ! なんつって)



 それから学校に到着した楓は下駄箱で上履きに履き替えて教室に向かう。

 その間も彼女はすれ違う男子生徒たちがチラチラと送ってくる視線に案の定歓喜していた。



 承認欲求が満たされた楓はルンルンな気持ちで歩いていた。

 そのせいで前が見えていなかった彼女は目の前から迫りくる人物に気がつかずにぶつかってしまう。



「いったぁ……」



「ごめん、大丈夫?」



 楓がスカートについた埃を払いながら立ち上がると、頭上から男の謝る声が聞こえてきた。



 その声に反応して彼女も脊髄反射で謝罪の言葉を伝える。



「いえ、私の方こそごめんなさい」

 


 表向きでは謝りながらも、内心ではぶつかってきてんじゃねぇと楓は思った。

 もちろん言葉に出してしまったら問題になるので、本人には直接は言わないが。



 ぶつかってきた相手の顔を見てやろと思い楓は顔を上げる。

 相手の身長が彼女よりも高いため、どうしても見上げる形になってしまうのだ。



「……」



 そして目の前の人物の顔を見た彼女は絶句した。



(とんでもないイケメン……)



「どうかした? 僕の顔に何かついてる?」



「いえ、随分と背が高いんだなと思いまして…」



「あー、よく言われる」



 数多の女性が堕ちてしまいそうな笑顔でそう言う超美形男子を見て彼女は思った。





(イケメン爆発しろ!!)



 普通の女子高生なら優しく微笑まれただけで惚れてしまうようなイケメンが相手でも朝比奈楓が靡くことはない。



 なぜなら彼女はつい先日まで男子中学生だったtsっ娘だからだ。

 女子生徒にモテるイケメンに嫉妬することはあれど、惚れることはないのだ。




 これが彼女の運命を変えることになる浅倉渚との出会いだった。

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