57 再会“エミリア”(アルベール視点)
意外にも、エミリアを探し出すのは簡単ではなかった。
僕と同じくらい歳の少女で、鮮やかな金髪にエメラルドグリーンな瞳、平民の中では珍しい色合いだ。僕が住んでいた別館まで子供一人徒歩で来れる距離なら、すぐに見つかると思っていたのに、なかなか情報はなかった。
「アルベール様、別館から徒歩3キロ範囲圏は全て調査済みとなりました、次調査範囲を5キロ圏内に広げますか?」
「うーん…5キロか…子供が一人でその距離を行き来するとはあまり思えないが…見つからなかったにしても、何か気になる情報なかったのか?」
「ええ…そうですね…お目当ての少女とは無関係とは思いますが、町で噂話を聞きました」
「言ってみろ」
「あの…レンブルク男爵が駆け落ちした娘の産んだ孫娘を探して回っているそうです」
「…レンブルク男爵?あの娘売りで有名な?」
後継者教育の一環として、首都にいる貴族名簿はある程度頭に叩き込まれた。
レンブルク男爵は首都では曲者の一人として有名で、領地はかなり地方にあるにも関わらず、頑なに首都に住み続け、中央で職務につくわけでもなく、領地をほったらかして税金だけ徴収する。おまけに娘たちを高齢な金持ち爺さんに嫁がせて、結納金をがっぽりもらう娘売り男爵としても有名だ。
「はい、レンブルク男爵には5人の娘がいて、末の娘は10年前、騎士アカデミーを卒業したばかりの平民と駆け落ちをしました」
「噂によると、その駆け落ちした二人に娘が生まれたそうですが、最近お金に困るようになったレンブルク男爵は末娘の産んだ孫娘を養女にして、また結納金を稼ごうとしているそうです」
よくもこんな外道な祖父がいるもんだ…
でもこの話、どうも引っかかるところがある。
10年前に駆け落ちした二人の娘なら、年齢的に僕と近い可能性がある。ましてはエミリアは平民の中でかなり目立つ鮮やかな髪色をしていて、貴族の血が混ざっていてもおかしくない。何より、エミリアは自身の出自に関して、「訳あって話せない」と言っていた。
もしかしたら…僕が知っているエミリアは彼女の本当の姿で、普段は祖父の追跡から逃げるために偽装しているかもしれない。
首都で実権のない地方男爵とはいえ、貴族の追跡を10年もかわしてきたなら、かなり厳重な偽装をしている可能性が高い。もしかしたら年齢以外に、僕が知る全ての彼女の情報は当てにならないかもしれない。
「…男女問わず、3キロ圏内にいる全ての6-14歳の子供を集めてくれ、僕が一人一人顔を見る」
「っ!恐れながら、それは流石に強引過ぎて…王家から処罰がくだされるかと…」
部下の言葉が逆鱗に触れ、僕は彼に魔法の氷柱を投げかけた。
「王家如きに何を恐れる、そちらの王子の僕の姉様が攫われたのに、文句があるなら戦争だ」
ギリギリのところで表柱を避け、顔に切り傷を残した部下は、冷や汗をかきながらすぐさま頭を下げた。
「はっ仰せのままに!」
広い区域に兵を置き、強引に子供たちを集めたことで、案の定、デュフォール侯爵家が反逆するのではと、首都で騒ぎとなった。王家の衛兵も出動し、一触即発の緊迫した状況だったが、僕はお構いなしに集められた子供の顔を一人一人見た。
そして、見つかった。
エメラルドグリーンの瞳が恐怖と困惑で震え、男装を身に纏い、深い帽子をかぶっていた。「エドリック」と名乗り、いかにも下働きの少年のような風貌だが、僕はこの瞳を見間違えるはずはない。孤独で黒白だった僕の世界だ出会った最初の色、脳内に焼き付けて忘れることのない鮮明さ、 “彼”は僕の最初の友人、エミリアだ。
楽しみにしてくださっている方々には大変恐縮ですが、先週風邪で寝込んでいたため、これからはストックなしの随時更新になってしまいました。( ノ;_ _)ノ
基本は今まで通り、毎日0時に更新をして行きますが、風邪で寝込んだ分、本業の仕事も滞ってしまい、時々不定期にお休みするかもしれません。
一身上の都合で恐れ入りますが、完結までの道筋はできているので、何卒ご容赦頂き、引き続きお付き合い頂けますと幸いです。




