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56 記憶の透明魔鉱石(アルベール視点)

 姉様は喧騒な首都を離れ、静かなアトラント湖地区に移住した。

 月に数回しか姉様に会えなくなり、デュフォール侯爵との二人暮らしは簡単に言えば苦痛だった。でも姉様と会うときにいつも勉強のこと聞かれるから、僕は心配かけまいと努力した。

 なんとか姉様の役に立ちたい。

 しかし僕は無力だった。いくら魔法の勉強をしても、姉様の病気を治すヒントは全く見えてこない。

 このまま姉様を亡くしてしまうくらいなら、一層僕も……いや、それは姉様がきっと悲しむことになるから、僕は姉様を悲しませることをしたくない。


 無力な僕は、何もできないまま歳をとり、反対に、体の弱い姉様の方が、またもや新しい事業を成功させた。

 遠い御伽話のように思っていたエルフ島と大陸を繋ぐ遠洋航海事業、姉様の最新な研究結果によって可能となった。

 本当に、姉様にはいつもびっくりさせられる。

誰もが想像できなかったような奇跡的な発明を次々と作り出すんだもの、姉様はセレスタン国内だけでなく、近隣諸国にまで名を馳せた。


 僕の9歳の誕生日のため、久々に首都の本家に戻った姉様が、家族でワーズ領に遊びに行くと話した。

 姉様と旅行!!!!!(デュフォール侯もついてくるのは癪だが)とっても楽しみだ!!!!!

 生まれて初めてみる海というものにも興味が大いにあるし、何より姉様と長くずっと一緒にいられる!(おまけに、しばらく勉強を休んでいいのも素晴らしい)

 僕はうきうきとしながら、姉様との旅行に出かけた。


 せっかくの姉弟旅行に、あのしつこい第一王子も一緒にワーズ領にくると聞いた時、流石の僕も内心引いてしまった。

 僕もなかなかの粘着質だと自負しているが、この王子は僕をも凌駕する凄まじい執拗さだ…何も姉様が家から出るたびにくっついてこなくてもいいのではないか…

 しつこい男は嫌われるのに、肝心の姉様は鈍感すぎて、王子の下心にすら気が付かない。

 もちろん、姉様の鈍感さに振り回される王子を見て、内心ざまぁと思っているのはここだけの話だ。


 呑気に王子のことを内心嘲笑っていたら、事件が発生した。

 あのねちねち王子、まさか姉様を誘拐した。

 妙に胸騒ぎして、いつもより早く目が覚めたら、姉様の泊まる寝室はもう抜けのからとなった。

 ワーズ公爵に迫るデュフォール侯は魔力ただ漏れで大暴れだが、僕もショック頭が真っ白になった。

 本当にふざけた男だ、なんてことをしやがる…姉様は無事か??いや、あのねちねち王子は姉様を危ない目に遭わせることはないはず…でもまず最大な危険人物は王子本人じゃないか!!

 僕はまだ子供だから防げなかったにしろ、デュフォール侯は何をしてた!!

 怒りの矛先をデュフォール侯に向け、僕は静かにブチギレた。


 どうやらねちねち王子は単独犯ではないようだ。それもそうか、他人の屋敷で気づかれずに令嬢を誘拐するなんて、例え王子であろうと不可能だ。

 姉様の友人だと思って信用していたのに、ワーズ令嬢には心底失望した。

 でも、話を聞いてみれば、僕もデュフォール侯も思いもよらない内幕が隠されていた。


 姉様の病気を治す手掛かりがエルフ島にある!?

 姉様はそれを目的にワーズ家と事業の協力を始めた!?

 何より、透明魔鉱石!!?姉様を助けるかもしれない重要な品物、透明な魔鉱石、それ、僕見たことあるんですけど??!

 咄嗟に思い出させられた。


 昔々、姉様と出会う前に、僕は孤独の日々を過ごしていた。

 食事は週に二回来る使用人が持ってきた保存食で、それ以外は誰もいない屋敷で一人ぼっちだった僕を、時々気にかけて遊びにきてくれる平民の女の子がいた。

 名はエミリア。彼女は僕の最初の友人だった。

 本家に受け入れられた後も、彼女を探そうとしたが、いつも彼女の方から僕の住む別館に来てくれていたため、僕は彼女の名前以外、彼女をほとんど知らなかった。

 エミリアもエミリアで、どうやら事情があり、僕に出自をあまり語りたがらなかったもので、いつか僕がデュフォール家で力を持つようになったら、使いの人を出そうと思っていた。

 彼女と遊んでいた時に、一度だけ迷い込んだことがある。

 透明な宝石がキラキラ輝く洞窟に。

 当時の僕には、その宝石たちがなんだったか分からなかったが、ただ奇妙な力を感じていた。今ならわかる、あれは魔力だった。

 あの洞窟に含まれているのは透明な魔鉱石だった!!


 姉様を助けるかもしれない!この無力の僕にも姉様の役に立てる!!!

 全身に鳥肌が立つ感覚で、僕は興奮した。

 デュフォール侯が僕の襟ぐりを掴んで睨んできても、全く動じなかった。

 僕が、姉様のために透明魔鉱石を探し出す!必ずだ!

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