51 目覚め(ルイ視点)
僕は確か…大神官の雷撃に撃たれたはず…本来なら生きている方がおかしいのに、僕は生きてる。
衝撃から目が覚めて、時間感覚が分からない…どれくらいの時間が経っただろう…
打撲のせいか、節々に筋肉痛的な感覚は残るが、意外にも大きな傷や痛みは残らなかった。意識無くす直前に見た、リリアーヌから発せられた眩しい魔力の光、あれはおそらく純粋な治癒魔力だ。状況を掴めないが、僕は多分生死ギリギリのところ、リリアーヌの魔力に助けられた。
筋肉痛をする体を起こし、周囲を見渡す。リリアーヌはいない…
「クソ!」
悔しさで床を叩きつけた。
大神官は明らかにリリアーヌを目掛けて襲撃を企んだ。
理由は分からないが、少なくともリリアーヌの命を取ろうとしていなかった。しかし…逆に言うと何が目的か全く分からない、今現在リリアーヌがどこにいるかも分からない。
僕は完全にしくじったのだ。
本人の意思を無視して、十分な防備措置を取らずに、対立国じゃないし、身分隠せばいいしと、たかを括ってエルフ島に彼女を連れてきた、僕の完全なる落ち度だ。過保護で僕にリリアーヌを合わせてくれないデュフォール侯を歯痒く思っていたが、僕なんか…僕のような頭花畑な若造に娘を合わせたくないのは、父親として当たり前の行動だった…デュフォール侯に合わせる顔もない…
僕らが拉致された瞬間、騎士たちは目撃している。地上にいた襲撃者もおそらく騎士たち捕獲されているはず、ならば今時、最速でセレスタンに知らせが行っているはずだ。今の僕にできることは、一刻も早くリリアーヌの居場所を探し出し、フェルナン大神官の情報を騎士たちに伝えることだ。
土魔法で作られたトンネルは塞がれたが、この空間にたいまつが灯せると言うことは、外部と空気の交換ができることを意味する。ならば空気の流れを辿れば、きっと外につながるはずだ。
巡回する看守がいるかもしれないため、僕は細心の注意を払いながら、静かに空気の流れを辿った。王子として生を受けていれば、いかなる時も最低限自分の身を守れるようにと、ありのあらゆる「救生術」を学ばされた。母上の教育方針に感謝しながら、僕は地下神殿から地上に繋がる換気口を見つけ、換気口を通って、森の中に脱出した。意外にも看守らしき人はおらず、もしかしたら、フェルナン大神官に仕える神官はそれほど多くはないかもしれない。
エルフ島の地形には全く土地勘はないが、港は北にあるはずだ。夜空に輝く星の形を頼りに、ひたすら北に向かった。
ササッ、衣類が葉っぱに擦れる音がした。近くに人がいる!しかも複数だ!
僕は直ちに木々に身を隠し、様子を伺った。
「アドルフさん、水はこのくらいで足りるかね」
「ふむ、人数が多いし、あと一往復くらいしとくか」
居たのは水汲みするアドルフさんと見かけたことあった近所の男たちだ。
追手の神官じゃないことに安堵したが、まだ彼らも完全に信用できるわけではない。
しかし、土地勘もなく森で彷徨うのも危ないため、一応彼らの跡をつけることにした。
アドルフさんたちが戻ったのは、大きな洞窟のような場所だった。ここにはアドルフさんたちを含み、多くのエルフの人たちが隠れ住んでいた。宿屋で宿泊していた時に面識のある人たちも多く、もしかしたら村一つ分ここにいるかもしれない。
「パパ、街の方は相変わらずかしら」
豆腐を食べてから体調がかなり良くなったイヴァンナさんは、アドルフさんを出迎えた。
「街は遠目しか見てないからよくは分からないが、神官たちが人間の騎士らといまだに対峙してるよ」
「そうなのか…人間たちと協力できるといいんだけど、私たち、信用されないでしょうね」
「そりゃ厳しいの…リリーさんとルカさんをあんな勝手な理由で連れ去っちゃ、人間も怒るじゃ…」
「許可なしに医術を行なった罪だなんて、リリーさんはただ、妊婦に良い食べ物を紹介しただけなのに…」
リリアーヌのことを思い出したからか、イヴァンナさんは涙を浮かべた。
泣いたイヴァンナさんの背中をさすりながら、アドルフさんはため息を付けた。
「は…どうせまた神殿のこぎつけさ…今までエルフの子供たちも、魔力が高ければすぐ連れ去られていたじゃないか…まさか外国からの、しかも貴族の人間まで連れ去るなんて…」
「せめてシモンが戻ってくれていれば…」
イヴァンナさんはお腹をさすりながら、男の名前を口にした、おそらく子供の父親の名前だろう。
「シモンは頼れる男だが…神殿にいた頃の記憶がないじゃの…」
「そうね…シモンは、人間の国で元気かしら…この間の手紙で、ピンクローズ商団に雇って貰えて、透明魔鉱石を探す仕事についたと言っていたが…」
透明魔鉱石!イヴァンナさんの旦那は透明魔鉱石を探すべく、大陸に向かい、しかもピンクローズ商団に就職したなんて…もっと情報が欲しい!
彼らは神殿と同じ立場じゃなそうだし、何より数日食事も水も取れなかった自分の体力もそろそろ厳しくなってきた。
僕は短剣を取り、彼らを詰問することにした。




