52 エルフの人たち(ルイ視点)
隠れ場所の近くにいたイヴァンナさんに近づき、音を立てずにサッと背後から短剣をイヴァンナさんの喉に当て人質にした。
「質問に答えろ」
「っ!誰だ!」
目の前で娘を取られ、アドルフさんたちは慌てて武器らしいものを手に取った。武器といっても、鍬やスコップのような農作業の道具ばかりで、きちんとした剣や槍を持つものはいなかった。やはり彼らは一般人なのだろう。
「我の名はルイ・スレスタン、ルカの偽名で汝の宿屋に滞在していたが、婚約者とともに拉致された、イヴァンナの命が惜しければ質問に答えろ」
「!ルカさん!た、確かに、髪と瞳の色が違うが、ルカさんだ!逃げ出せたのね!」
名乗ると、先まで怯えていたイヴァンナさんは感激そうに短剣を持つ僕に話しかけた。
「……汝らはなぜここにいる?神殿の奴らと関係は?」
「あ…あ、そうだよね、こんなことあったら、信用できないよね」
僕の警戒マックスの態度に少ししょんぼりんしたが、イヴァンナさんは納得して、説明を始めた。
「二人が連れ去られる前、神官たちが宿屋に来たの、許可なく医術を行なった罪で逮捕って言ってね」
「でも、エルフ島に医師なんていないし、今までも民間で薬学を独自で行なってきて、許可が必要なことなんてなかったのに、そんなことで貴族の人間を逮捕したら戦争になると思って、みんなで反抗したの」
「そのせいで、何人か無理やり神殿に逮捕されたりもしたけど、これ以上は全員捕まりそうだから、私たち残った人たちだけ、ここに逃げてきたの」
「そうさ、ルカさん、ワシらは二人を助けたかったけど、何せワシら一般人は魔力が弱くてね…エルフ島では昔から、魔力が高い子供はすぐさま神殿に取り上げられて、親兄弟も会えなくなるから、ワシらもまさか人間の二人にまで手を出すと思わなかったじゃの…」
付け加えるように、アドルフさんも説明に加わった。
「…シモンという男は誰だ?透明魔鉱石について知ってることを話せ」
「あ!シモンというのはイヴァンナの旦那じゃ」
身重の娘が人質にされているからか、アドルフさんは食い気味に質問に即答した。
「透明魔鉱石は…ワシらもよく分からんが、シモンは子供の時に神殿に取り上げられて神官にされたはずだが、14年前に突然森で発見されてね…しかも神殿にいた十数年の記憶が全くなくて、子供のまま時間だけ過ぎて神隠しのようじゃったよ」
「彼がね、なぜか透明魔鉱石というものだけ覚えてて、それを探さないといけないってずっと話していたのよ、ワシら一般人は魔鉱石なんてみたことないし、透明なものがあるかも知らないけど、神殿にいた頃の微かな記憶みたいなもんで、彼はそれを探しにセレスタンに向かったじゃ」
「セレスタンの騎士らは街にいるのか?」
「おお、おるじゃ、ルカさんは騎士らの方に戻りたいだろ!ワシらも人間さんと話したいから、ぜひ一緒にさせてもらいたいじゃ」
ここまで言うなら、おそらく彼らは敵ではないだろう…僕の目は嘘を見抜く、少なくともアドルフさんとイヴァンナさんは嘘をついている自覚はないうようだ。ただし、言葉を発していない周囲の人たち全員が同じとは言い切れないため、やはり騎士らと合流できるまで気が抜けない。
「良いだろ、今からここにいる数人で街の方に行こう、無事騎士らと合流できたら、汝らの話をセレスタン側に伝えよう」
「ああ、そうしよ!あの…娘は身重の身で、ワシを人質にしてもいいか…」
やはりイヴァンナさんが心配なようで、アドルフさんは自分が人質になることを申し出た。
しかし、短剣はただ脅し用のものであり、実際雷魔法の方が殺傷力もスピードも高いため、別に短剣で人質を取る必要はなかった。
僕はイヴァンナを解放し、短剣を鞘に収めた。もし本当に僕を襲うつもりのある人間がいるなら、むしろ隙を見せた方が得策だ。
「人質はいらん、今すぐ神官をくくり抜けて街に行ける道を案内しろ」
「おお!今すぐに!」
娘を解放されて安心したか、アドルフさんは安堵した笑顔で僕に道を案内した。




