26 壊血病
ディアーヌ王妃とフランツ王子は数週間滞在し、アスピリンとアセトアミノフェンの今後の製造と提供についてピンクローズ商団と契約を結び、帰国した。
その数週間で、二人は毎日のようにデュフォール家を訪問し、商談を取りまとめてきたが、なぜか毎度のことのようにルイ王子もついてきていた。
「デュフォール侯、あなたは僕の事が気に入らないのはわかるが、ここは僕を使わないと、大事なリリアーヌがヴァルザシスのフランツに取り入られるかもしれないよ?」
「っっ………くそ!」
背に腹はかえられぬ父様に圧力をかけ、ルイ王子はしばらくデュフォール家の出入り権をもぎ取った。
もちろん、それも二人が帰国してすぐ父様によって取り消され、いつも通りルイ王子は文通と年に数回の茶会招待でしかリリアーヌと接触できなくなった。
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13歳になったリリアーヌの体調は徐々に悪化し始めた。
ヴァルザシスの魔道具を付け始めてから、しばらくは抑えられていた発作も頻繁になってきて、一日中微熱のような倦怠感が続くようになった。
「いよいよ呑気に待ってはならなくなったわ…」
体調の悪化に危機感を感じたリリアーヌは、透明魔鉱石の発見を待たずに、エルフ国との交流を増やすべく、航海技術の向上に乗り出た。
航海技術の研究には水路がないと成り立たない。
それに体調が悪化したことも踏まえ、リリアーヌは何かと喧騒な首都を離れ、以前褒賞で授けたアトラント湖地区に住まいを移した。
リリアーヌが引っ越すと聞き、アルベールも絶対一緒に行くと屋敷で大騒ぎしてしまったが、そのわがままを宥めるだけで倒れそうなリリアーヌを見て、さすがのアルベールもしゅんと静かになった。
その結果、王宮で仕事のある父様と、首都でしか受けられない後継者教育があるアルベールは、数週に一回、首都とアトラント湖地区を行き来する結果となった。
また、ピンクローズ商団の本部も、商団が大きくなったことで、デュフォール屋敷の別館から、メインストリートに新しい建物を構えたが、事業の展開上、依然と首都に業務が多い。
リリアーヌの転居を受け、デイビットとアンナはほぼ毎週のように、首都とアトラント湖地区を行き来するようになった。
幸いアトラント湖地区は首都から馬車で3日ほど、休まず進路を進めば丸1日ほどで着く距離である。
周りに迷惑かけてしまうのは本当に心苦しいが、どうしても今すぐ航海技術の研究を始めなければ手遅れになってしまいそうだ。
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「詰まるとこと、船を大きく建設すること自体はさほど難しくないのね」
デイビットはカレッジから、船舶専門の研究者であるランドール・トリファン子爵令息を私に紹介した。
その話によれば、船の建設自体は難しいことではないが、この世界の遠路航海技術を拒んでいるのは別の理由だった。
「数ヶ月船上で生活する水夫は高い割合で全身から腐るような病気になってしまいます、そうなってしまっては手の施しようもございませんので、遠距離の航路には必ず治療師を2人以上配置しなければならず、金額的に遠路航海を発展させるのは難しい状況です」
「その具体的な症状はご存知かしら?」
「全身にあざができ、歯ぐきが真っ黒になり、歯が抜け、また貧血が起こります」
長期間の船上生活から来る出血性の病気、前世でいう壊血病で間違いないようね。
「その病気を解決すれば、エルフ島まで続く遠路航海は簡単に可能となるのか?」
「っ!もし解決できれば、船舶の技術的にはすぐにも可能かと存じます」
「そう、ならやるしかないわね」
船舶の知識は前世から数えてもほぼゼロに近い私だったが、壊血病ならその糸口が分かる。
思っていたよりも順調に遠路航海技術を可能にできそうなので、とりあえず一安心した。




