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27 ワーズ家の子供達

「ご招待いただき感謝するよ、リリアーヌ・デュフォール嬢」

そう気軽にリリアーヌに声かけたのは、ジョセフ・ワーズ小公爵。

本日は今後展開したい遠路航海の事業のため、ジョセフ・ワーズ小公爵とその妹君のマリエッテ・ワーズ公爵令嬢を、リリアーヌが住むアトラント湖地区に招待した。


ワーズ領はセレスタンの一番西南部にあり、広い海に面している。

また、ワーズ領は特殊な地理をしており、一つの大きな本島を中心に、複数の群島が囲む形をしている。

その理由は、現在ワーズ領に当たる領土は代々公国として独立していたが、約80年前に起きた流行り病の大流行によって人口が激減し、先先代王弟陛下を当時唯一の公女の配偶者に迎えると同時、セレスタンの一部に加わったという経緯がある。

そのため、陸続きの本土より、航海技術への依存度が高く、港の数も多い。


「お初にお目にかかります、ワーズ小公爵殿下、ワーズ公爵令嬢、本日は私のことを気遣って、遠路はるばるご足労いただき、心より感謝申し上げます」

本来ならば、格下の侯爵令嬢であるリリアーヌが、首都にあるワーズ家の屋敷を訪ねるべきだが、体調が悪化したリリアーヌにとって、その移動は恐らく休息と療養を挟みながら往復1ヶ月以上かかるため、礼儀に沿わないものの、お二人をアトラント湖地区へ招待した。


「いえいえ、リリアーヌ嬢と会えるならこのくらいの距離ならどうってことないよ、ははは」

「……兄様、私たち遊びに来たわけではないです」

ジョセフとマリエッテは二人とも燃える炎のような鮮やか赤髪とスティールグレイの瞳を持ち、誰から見ても目を引くような美男美女の兄妹だ。

しかし、容姿は似ているものの、二人が纏う空気感はかなり違っていた。

兄のジョセフはよく言えば親しみやすいが、悪く言えばチャラい印象に対し、妹のマリエッテは一糸の抜かりもない鋭い雰囲気の人だ。


軽くお茶を一口飲み、マリエッテは少々吊り気味の目をきらりと光らせ、今日の本題に切り込んだ。

「リリアーヌ様、単刀直入にお聞きしますが、お手紙にあったエルフ島との遠洋航海事業に関するご提案というのは、どういうことですか」


どうやらワーズ家の事業担当は小公爵の兄ジョセフではなく、妹のマリエッテの方が興味を持っているようだ。


「ええ、実は私、本でエルフの国の話を読み、ぜひ両国間の交流をより盛んになってくれれば、国民にとって利益が高いと考えましたの」


マリエッテは眉を顰め、内心リリアーヌのことを御伽話に踊ろされた世間知らずと見下した。

確かに、エルフの国は我々と文化も歴史も異なり、交流が盛んになれば国益に繋がるのは自明ですが、現実問題、エルフ島までの遠洋航海はコストが高すぎて、地理的に唯一エルフ島との航路を持っているワーズ領でも、数年に一度くらいしか出航できていない。

抗生物質や解熱鎮静剤など、多くの功績を挙げていると噂されているリリアーヌ・デュフォールなら、もしかしたら何か画期的な策を持っているのではと、疑いながらも微かに期待してきたのに、やはり噂は噂でしかない。

マリエッテは心の中で、リリアーヌの功績は全て娘命のデュフォール侯爵が作り出したカモフラージュと決めつけた。


「…それはそうですが、現実的にエルフ島との航路はコストが高すぎて、増やすことは経済的に不可能です。」

マリエッテは内心呆れながら答えた。


「え、エルフ島にいく船ってそんなに高いの?」

そう素っ頓狂に発言したのは、他でもないワーズ領の次期領主、ジョセフ小公爵。

どうやら、次期領主でありながら、彼は自領の航海事業や経済について、全くもって無知のようだ。


「…………兄様は黙ってて」

マリエッテは額に怒りマークを浮かべながら、兄であるジョセフに箝口令を出した。

やはり、見込み通り、ワーズ領の事業に一番詳しいのは、妹のマリエッテ様のようだ。


「ええ、マリエッテ様のおっしゃる通り、エルフ島との航路は非常にコストが高い」

「本日二人をお招きした理由はまさに、そのコストを劇的に下げる方法をお伝えしたいためです」


エルフ島との航路を劇的に安くする可能性を聞き、マリエッテは一瞬息を呑んだ。

「…リリアーヌ様、その話は誠ですか?」


「ええ、少々専門性の高い話ですが、今からお二人に「壊血病」という病気を説明させていただきたいですわ」

「デイビッド、例の資料をお二人に渡してちょうだい」


そばで控えていたデイビッドが素早くワーズ公爵兄妹に資料を渡し、そこには「壊血病」という重度のビタミンC欠乏症に関する説明と研究成果が詳しくまとめてあった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…詰まるとこと、遠洋航海で船員たちが病気になるのは、新鮮な果物や野菜を長期間食べていないから、ということですか?」

初めて聞く専門性の高い説明にもかかわらず、マリエッテは飲み込みが早かった。


「その通りです、新鮮な果物や野菜にはビタミンという人体に不可欠な栄養素が含まれており、遠洋航海の船上にはこれらの栄養素を長期間摂取できないため、歯茎や腸管などの粘膜が機能障害を起こし、出血して壊死してしまいます」


「…………てっきり海の呪いかと思っておりました」

長年航海事業を悩ませてきた謎の怪病は、まさかただの栄養の偏りとは、なんとも呆気ない理由だった。

この話は金になる、そして経営不振のワーズ家を救う一筋の光になるに違いないと、マリエッテは確信した。


「リリアーヌ様、先程あなたを疑うような態度を取り、申し訳ございません」

「改めて、この新規な遠洋航海事業、ぜひ我がワーズ家にも参加させてもらいたいです」


先ほどの態度とは打って変わり、真剣に新規事業への意欲を見せたマリエッテを見て、リリアーヌは安堵した。

壊死病の話を信用してもらえなかったら、新たに自らエルフ島への航路を見つけ出さなければならない。

デュフォール領は王都から西部にあり、港がないわけではないが、エルフ島への航海距離はワーズ領と比べて圧倒的に長くなってしまう。

さらに、エルフ島への航海経験がないことから、ワーズ領からの経由なしエルフ島にたどり着くことはかなり困難となる。


「そう言っていただけて心より嬉しく思います、マリエッテ様」

「この事業をデュフォール家とワーズ家の共同事業として、必ず成功させましょう」


「ええ、ワーズ家の家名をかけて、必ず成功させますとも」

マリエッテは不敵な笑を魅せ、リリアーヌとの協力を誓い合った。


「あの…」

ほぼ二人に忘れ去られていたジョセフ小公爵が弱々しく手を挙げた。

「よくわからない話は済んだそうだし、マカロンのお代わりをもらってもいいですかね?」

雲一つない爽やかな笑顔を浮かべながら、マカロンの追加を要求するジョセフを見て、マリエッテは一瞬にして顔を暗くした。


なんというか、ワーズ小公爵がこの人で本当に大丈夫でしょうか…?

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