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25 フランツ王子

「まだ薬を飲んで1時間しか経っていないのに…もうすっかり良くなったように感じます」


夜会の翌日、私は早速アスピリンとアセトアミノフェンを王宮に持参し、高熱と関節痛に苦しむ従者の一人に使わせてみた。

その従者はフランツ王子とほぼ同時期に熱を出し、恐らく隣国を出国する前後に感染した。

まだ年齢も15歳と若く、この世界では15歳を成人年齢とされているが、前世生活した日本では15歳はまだ小児患者という扱いである。

念の為、私はアセトアミノフェンを処方し、投与後間も無くして効果が見られた。


「すごいです、治癒魔法と同じ、いや、それ以上に効果があるように感じます!」


従者は感動して、解熱剤の効果を訴え、今すぐにでも起き上がり元気さをアピールしたい様子だ。


「それは良かったです、しかしまだ気を抜いてはならないわ、この薬は症状を抑えるに効果覿面だが、実際はまだ治癒していないものだから、これから5時間ごとに薬を服用し、さらに3日間は安静にしていてください」

「また、症状がなくても感染力はあるので、あまり人と密接に接触しないで、やむ得ない場合は口と鼻をハンカチを覆うようにして、こまめに手洗いをして下さい」


「すごいわ…まさかこれほどに効力が高いとは…」

解熱剤の効き目の速さに瞠目し、ディアーヌ王妃は思わず言葉を失ってしまった。


「王妃殿下、従者で効能を確かめられたようなら、フランツ殿下にもお使いになりますか?」

ディアーヌ王妃の女官の一人が今もなお高熱に苦しむフランツ王子を案じ、解熱剤の使用を勧めた。


「そうね…フランツに今すぐ使いたいものだが…」

「リリアーヌ嬢、そなたの商団ではすでにこの薬の治験を済ませているとお聞きしたわ、その資料をお持ちかしら」


母親であり、一国の国母でもあるディアーヌ王妃は、まだ新しい薬を自国の第一王子に使うことに慎重である。


「はい、持参しております」

そうなることを想定した私はデイビットに解熱鎮静剤の治験結果を持たせ、ディアーヌ王妃に手渡した。


「解熱鎮静剤は二種類あるの?」

「はい、成人以降に使用する、効力が強く製造が安価なアスピリンと、高齢者や未成年に使用する、効力が少し弱く製造も複雑だが、副作用の可能性が少ないアセトアミノフェンがございます」

「従者に使ったのは後者かしら」

「はい、初めて使用する病気に加え、15歳はまだ若いご年齢のため、大事をとって後者を使用しました」


ディアーヌ王妃は念入りに調査資料を読み込み、ついに決断した。


「では、12時間ほど従者の様子を見よう、問題がなければ、フランツにその副作用の少ない解熱鎮静剤を使わせてもらおう」


ーーーーーーーー


「あなたが僕の病気を治したリリアーヌ嬢でいらっしゃるね」

数日後、すっかり回復したフランツ王子とディアーヌ王妃は、リリアーヌを王宮に招待した。


「お初にお目にかかります、デュフォール侯爵家の長女、リリアーヌと申します」

リリアーヌはお二人に挨拶し、促されて席に着く。


回復したフランツ王子はキャラメルに近い濃い目の茶髪に、ヴァルザシス王室によく見られる黄金色の瞳をしている。

リリアーヌより2歳年下で10歳のフランツ王子は、北方出身ということもあり、すでにリリアーヌと同じくらいの身長がある。

体格は大人びているが、その性格はどちらかというと大らかで天真爛漫な部分がある。


「僕、薬飲んでびっくりしたよ、こんなすぐに調子良くなるなんて、リリアーヌ嬢のことを、リアお姉様とお呼びしてもいいでしょうか?」

天然犬系男子とはこういう人を言うのね、距離の詰め方がうま過ぎて、弟がいるリリアーヌはそのお願いを断れるわけがない。


「い…」いですよ

「ダメだ」

リリアーヌが許可する前に、背後からルイ王子が横槍を入れた。


「フランツ、この国では親しい関係や親族にしか愛称で呼び合うことを許さない、度を過ぎた真似を控えてくれ」

顔はニコニコしているのに、言葉はかなり刺々しいルイ王子は、厳しくフランツ王子の申し出を却下した。


「ごきげんよう、ルイ殿下」

「ごきげんよう、リリアーヌ、今日は水色のドレスだね、似合っているよ」

夜会で藤色のドレスを着用して以来、父様に藤色のドレスで登城することを頑なに反対された。

確かに王室メンバーからの贈り物ならまだしも、自ら選んで着用すると良くないかもしれないと、リリアーヌは勝手に納得した。


「リアお姉様がダメならリリアーヌお姉様と呼ぶよ!」

「………………リリアーヌはすでに弟がいるから、フランツ、そう呼ばれるとリリアーヌの弟君はヤキモチを妬くよ」

「アルベールはそんなことでヤキモチ妬きませんよ殿下、ふふ」

妬きます。

後日別の男がリリアーヌをお姉様と呼んでいることを知り、狂ったようにヤキモチを妬いたアルベールを、リリアーヌはまだ知らないである。


「やった!じゃこれからはリリアーヌお姉様だね!僕弟しかいないから嬉しいよ!」

そう話し、フランツ王子は嬉しそうにリリアーヌの手を握った。


「パキパキパキッ」

「………………」


いつも以上派手に雷の魔法をもらし、ざっと皿5、6枚を一気に割ってしまったルイ王子に、3人一同ポカーンとなった。


「……失礼…僕は魔力制御が得意じゃなくてね…」

何事もなかったかのように、ルイ王子は清々しい顔で言い訳をした。

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