無翼の鳥
【ヌフフフ……ヌフフ…】
「嫉妬…?」
『賢斗……追跡者は、受刑者の最も弱い部分を辿って来る。』
僕の……弱い部分?
「……あ…ぁ…」
体内に、一筋の風が吹いたように…
その言葉の意味が分かった。
「僕は………」
お母さんには、僕の知らない大切な人がいた。
その事実に耐えきれず…
お母さんに裏切られたと…思い込んで…
…嫉妬していた。
「…馬鹿だ。」
吉岡さんにも…酷いことを言ってしまった。
でも…
お母さんを…奪られたくなかったんだ。
「…どうしたら…いいの?」
嫉妬を無くすことなんて…できるの?
『君は…これから先の未来を…どう生きていくか…考えているかい?』
「未来…?」
『そう…生かされた君が、どう生きていくのか。何を目指すのか…考えなさい。』
どう、生きていきたいか……?
何を……目指すのか?
あやちゃんから命の尊さを…
おじいさんから、立ち向かう勇気を教わった…
でも…
僕は…生かされたことに精一杯で、未来のことを…
考えていなかった………
そして、過去に縛られて…嫉妬して。
また…お母さんに辛い思いをさせている。
僕の……未来。
僕は…
「僕は、お母さんと幸せに暮らしたい。」
そう…
今まで出来なかったこと全てに、挑戦したい。
『では、母親の幸せとは…何だと思うかい?』
「お母さんの幸せ?」
─── バキッ ─────────
『あぁ……!』
「お……じさん?!」
翼が……
もう片方の翼が……!
「…やめて!!」
【うるさいんだよ!……余計なことを…でも、翼が無い鳥なんて…何の役にも立たないでしょ?…ヌフフ…】
「おじさん…ごめんなさい。僕………」
『……私のことは…気にしなくていい。母親の幸せをどう思うのか…考えなさい。』
「それは………」
お母さんは…
僕と、一緒に暮らすことをどう思っているんだろう。
吉岡さんのことが好きって…言っていた。
結婚…したいんだろうか…
「…考えたくない。」
『何故?』
なぜって……
それは……
『母親の幸せが、君の幸せに…繋がらないとでも?』
お母さんの幸せが…僕の幸せに………?
繋がるなんて…
「…思えない。」
『向き合いも…しないで?』
向き合う……?
────────────────
【……うるさい!!】
ああ……
やめて…………
【もう…何も話すな!……このまま、踏み潰してやる。】
「…やめて。僕がいなくなればいいんだから…その方が、お母さんの幸せになるんだから!」
『違う!!』
【ヌフフ…いいよ。その通り…お前さえいなければ…全てが上手く行くんだよ。】
そうだよ…最初から、そうだったんだ。
僕さえいなければ…お母さんは、幸せだったんだ。
お父さんと離婚して、吉岡さんと再婚して…
それが、お母さんの幸せじゃないか!
『違う!賢斗……向き合え!!』
向き合うって……
どうやって?
『ぅあああ……!』
──── ドクンッ…
【……次、話したら…足も無くなるよ?】
──── ドクンッ…
向き合う……
僕は、また…逃げようとしている?
自分の思い通りにいかない現実から…
吉岡さんのこと、何も知らないのに…
知ろうともしないで、嫉妬して…
『あああぁぁ………』
この…鋭い眼の…
誇り高き武人が、僕の為に…身を犠牲にしてまで伝えようとしているのに…
──── ドクンッ…
待って……
これが、向き合うってこと……?
傷ついても…傷ついても…
逃げない精神。
向き合えることができれば…
未来を……変えられる?
おじさんは、それを僕に…伝えたいのでは?
──── ドクンッ…
そういえば…向き合うという言葉の後から、この悪魔の様子が変わった。
明らかに動揺しているような…
もしかしたら、そこに…
──── ドクンッ…
分かったかもしれない……………
「……レヴィアタンよ。」
【ヌフフ……何だ?】
「僕は、お前のその…見苦しい狼狽ぶりを見て、気がついたよ。」
【…何だと?……負け惜しみか?】
「僕は、お母さんの笑顔が見たい。」
【ヌ?…お前……まさか…?】
「だから…吉岡さんが、お母さんを笑顔にできる人か…確かめたい。」
【やめろ……こちらを終わらせたら…次は、お前の番だ。その…緋色の瞳から抉ってやるよ!】
「構わないさ。僕は誓うよ…お母さんが笑顔になれるなら……」
【やめろ!!】
「…二人を祝福すると。」
──────────────────
─────── フワッ ───────
『…賢斗、ありがとう。その言葉を待っていた。』




