大人の決意
結局、初詣には行かなかった。美央には申し訳ないことをしたが、普通の神経をしていたらいけるはずもない。無駄に時間だけが過ぎて行く。陽子が前日から一生懸命作ったおせちも手付かずのまま。
そんな時、一本の電話が入った。陽子はゆっくりと立ち上がり、ゆっくりと受話器を握り、ゆっくりと
「もしもし、村上です。」と言った。
電話は正次郎からだった。
今回の真西軍の件でしばらく帰れそうにないというけとと、一太と雫の様子を心配する内容だった。
正次郎が帰宅したのは、それから三日後だった。
正次郎は帰宅するとすぐに、家族全員をリビングに集めた。
「みんなもテレビで見たとは思うけど、真西軍というテロ集団が、鹿児島と大阪を乗っ取ってしまった。やつらは一人一人がバケモノみたいに強くて、普通の人間じゃあ敵わない。この事態を重く見た政府が、警察、消防、自衛隊、海保から人材を選んで真西軍と戦う新しい組織、チームジャパンを作ることを決めたんだ。ちょっとスポーツの日本代表みたいな名前だけど。選ばれた人たちは、格闘技や武道の全国経験者や、中には日本一になったことのある人もいる。そんな人たちの中に俺も選ばれたんだ。任務につけばいつ帰って来れるかわからない。もしかしたら命を落とすかもしれない。」
そう言うと、正次郎は話を止めて、家族を見つめてた。
その様子を見て、陽子はすべて察した。
「お父さん!凄いよ!そんな人たちの中に選ばれたんでしょ?私たちのことは気にしなくていい!日本を平和にしてください。」
と言い、すぐに立ち上がり晩ご飯を作り始めた。陽子は、少しでも悲しい顔をすれば、正次郎の決心が揺らいでしまうのがわかっていた。ホントはそんな危険な任務をして欲しくはない。でも、今の日本には正次郎の力が必要なこともわかっていたのだ。
陽子の後ろ姿を見て、正次郎は一言
「ありがとう。」と言った。
そんな二人を見て、一太と健と雫は生まれて初めて決心をした大人の凄さを感じた。
家族みんなで食べる最後になるかもしれない晩餐は、野菜たっぷりのカレーだった。
翌日、正次郎は本部のある東京に旅立った。
冬休み中は部活は真西軍の事件のこともあり休みだった。一太は美央との約束を破ってしまったことも気にしていた。三学期になったたら謝ろう。
そう決めていたのだが、美央は二度と学校に来ることは無かった。家庭の事情で鎌倉に引っ越したのだった。




