砂漠の町 そのよん
眼は腐り落ちてがらんどうになっていて、頬は窪んで歯茎が剥き出し。手足の末端器官は腐敗が進んでいてもはや原型をとどめていない。
「これは、どういう冗談なんだろうね」
パセリは説明を求めるかのようにドリガルへ話しかけるが、ドリガルは何も言えずに死体をじっと見ている。
「まずは…………警察を呼ぼう。誰か、警察に連絡してください! 人が死んでいます!」
ドリガルは大声で周りにいる人に呼び掛けた。気付くと彼女らを取り巻くように人が集まっている。買い物帰りらしき母親と子供、パイプをくゆらせた老人、ぼろをまとった乞食、拳銃を腰に吊った行商人。
ドリガルは何の前触れもなく現れたかのような人々に内心驚きつつも、一番近くにいた老女に官憲への連絡を求めた。
「……何のご用でしょう」
「だから、警察へ連絡してください」
「……なぜでしょうか」
「だから、人が死んでるんです。警察へ連絡するのが市民の義務でしょう?」
「……そうですか。人が死んでいるのですか。それで、私にどうしろと」
「だからぁ……」
根気よく説明を繰り返すことで老女はようやくドリガルの要求を聞き入れ、警察への連絡を行った。数分待った後、黒い帽子と揃いの制服を着た数人の男がやってきた。男たちは無言で死体を囲み、淡々と作業を開始する。
「ねえねえ、事情聴取はしないの? あたしたち第一発見者なんだけど。そもそも、ここは人の往来のあるのに誰もこのホトケさんに気付かなかったのかなぁ? ちょっと不自然じゃない?」
見かねたパセリがそのうちの一人の肩を叩いて声をかける。その男は緩慢な動作でパセリに向き直り、ぽつりと声を漏らした。
「ああ……、ここはもういいですから、あなたたちは行っていいですよ。……ご協力ありがとうございました」
そう言うと男は再び作業へと戻って行った。ゆっくりと、しかしぴしゃりと言い切られてはパセリも引き下がるしかない。
「むう。どうしようか。これ以上ここにいても仕方ないね」
「宿に向かおう。なんだかこの町は気味が悪いな。こんなことが起きても誰ひとり騒いでいない。ちょっと異常だよ」
それとなく辺りを見回すと、町の人たちが織りなす人垣は死体を中心にドーナツめいた形を作っている。その誰もが無表情で、哀れな肉塊を見下ろすのみ。目の下には当然のように一人残らず三本の黒いライン。
視線を背中に感じつつクルマに乗り込み、野次馬を避けてアクセルを踏んだ。




