砂漠の町 そのさん
太陽が西に傾いてきた頃三人がたどり着いたのは、小さな町だった。日干しレンガで建てられた家がまばらに立ち並んでいる。クルマが通れる程度には道は整備されていて、広さも十分ある。タイヤで通った跡がないのでラクダを使った移動や行商が行われているものだと推測できた。
宿を探すために、近くの日陰に座っていた男に声をかける。
「すみません、この町で宿はどこにありますか」
「…………」
男は顔をあげると何も言わずに一方向を指さした。
「あっちにあるんだね。あ、おっちゃん、ついでにハッカを売ってるところない?」
「…………」
男はただ無言でパセリを見つめるのみ。
「おっちゃん? 聞いてますかー。おーい」
「……」
目の前で手を振ってみても反応なし。
「パセリさん、失礼ですよ」
エスタシアが軽くたしなめるとパセリはおとなしく従った。
「失礼ついでにもうひとつ教えてもらえませんか。あなたの顔のその模様は、この町の風習なんですか?」
ドリガルが指摘したのは、男の両目の下から伸びる三本の黒い線のことだ。この男以外にも目に付く人間すべてに――三、四人程しかいないが――模様がある。長さ太さに若干の違いがあるものの、皆一様に計六本のラインを持っている。刺青だろうか。
ドリガルは過去に、既婚の男性は右目の下にナイフを刺して傷跡を残す風習のある民族に出会ったことがある。そうすることで男性は淫魔から身を守り、淫行に走ることがなくなると考えられていた。実際に傷を入れる瞬間にも立ち会ったが、あの絶叫と痛々しく生々しい傷跡はしばらくの間ドリガルの頭に残り続けた。
ここの人たちにもそういった因習があるのだろうと思ったが、
「…………」
やはり男は何も語らない。
「駄目だね。全然反応ないや。違う人に聞いてみようよ」
「そうだな。……失礼しました。それでは私たちは宿に向かってみます」
男に頭を下げ、クルマを走らせる。排気ガスと砂埃が舞い上がった。男はクルマが見えなくなるまで見つめ続けていた。
男が指し示した方向へと向かっていると、道の真ん中に白いものが転がっていて進路をふさいでいた。その手前でクルマを停めて降りる。パセリとドリガルは近づいて白い物体が何なのかをよく見てみることにした。
近づくことで確認できたのは、異臭が鼻をつくということ。肉が腐ったかのような臭い。パセリは鼻をつまみ、ドリガルは顔をしかめる。車内に残ったエスタシアまでもその臭いに不快感を表す。
そして白いものは布で作られたものだということがわかった。袖やボタンがあることから、衣服であることがわかる。
薄汚れた服は黒ずんだ何かを包んでいた。さらによく近づいて観察すると、その正体が判明した。
人間だ。
仰向けになって倒れている男だった。




