やっと会えたね
返却された数学のテストの点数を見て、高校2年生の瀧野冬鳳はガックリと肩を落とす。
そこに書かれた数字は63。
平均は63点。
つまりピッタリ同じである。
すると、隣の席に座っている若葉 蒼乃が答案用紙を覗き込んできた。
「冬鳳、平均と一緒じゃーん!せっかく勉強会したのによー。」
そう言って口を尖らせた。
彼女の机の上に置かれた紙には、97と書かれていた。
蒼乃とは高校1年生の時に仲良くなった。
明るくて気さくな彼女は、引っ込み思案な冬鳳でも話しやすかった。
それに顔も綺麗で頭も良い。
「蒼ちゃんごめんねー。たくさん勉強教えてくれたのに。」
机に突っ伏しながら冬鳳は言った。
それを見た蒼乃は項垂れる冬鳳の頭をよしよしと撫でる。
「今回はしょうがない!冬鳳はよく頑張ったよ。だから次も私とたっくさんお勉強しようねー。」
そう言っていつもの企み顔で笑った。
冬鳳はその表情が好きだった。
この顔を見ると元気になれるのだ。
次こそは!っと心の中で気合を入れ、冬鳳はテストを引き出しにしまった。
冬鳳はフラフラとした足取りで家路を歩いていた。
その姿には覇気が無く、今にも風に飛ばされそうだった。
あの後のテストも散々だった。
殆どが平均点とほぼ同じか、少し上くらい。
蒼乃は優しく慰めてくれたが、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ダメだ。思い出すと泣きそうになってしまう。
今日も自己嫌悪に陥りながら、彼女は覚束ない足取りで歩を進めた。
家に着くと、鍵を開けて中に入る。
父親は事故で他界、母親はこの春から転勤になり隣の県に住んでいる。
ここから通えないこともなかったらしいが、流石に往復4時間はキツかったのだろう。
冬鳳にこの家を任せると出て行ってしまった。
つまり今、彼女は一人暮らしだ。
冬鳳は大きな溜息を吐くと、スーパーで買ってきた食材を取り出し夕飯を作り始めた。
今日の夕飯は肉じゃがだ。
彼女が好きな献立。
下準備をを終えると、冬鳳は2階にある自分の部屋へ行った。
そして宝物であるギターを取り出すと、弦に優しく触れた。
彼女は音楽が大好きだった。
ギターだけでなくピアノも弾くことができ、頻繁に自分で作曲もしていた。
だがそれを誰かに話したことはない。
母にも、もちろん友達にも。
自信がなかったから。
否定されるのが怖かったから。
ただ好きというだけで、こんな自分が音楽をしているなんて。
きっと赦してもらえない。
だから今日も、1人でメロディを奏でるのだ。
すると、冬鳳はスマホを取り出して録音をはじめた。
練習の参考にするため、毎回こうやって記録しているのだ。
曲を全て通し終えると、彼女は録音停止ボタンを押した。
この曲は春休みに作ったものだ。
今まで作ったものの中では結構な自信作なのでよく弾いている。
そして確認のためにスマホを操作し始めた。
だがここでやらかしてしまった。
間違えてSNS に投稿するボタンをクリックしてしまったのだ!
「やばいやばい!早く消さないと!!」
そう慌てれば慌てるほど、手元が狂って上手く削除ボタンを押せなくなる。
彼女があたふたしていると、最悪なことに誰かが既に投稿を見ていた。
「あっ。終わった。」
彼女は、逆に冷静になった。
もういいや。
そう思いながらポチッと削除ボタンを押した。
まあまあたったの1人だし。
まだ間に合ってよかったと思うか‥‥。
そう心の中で呟くとやる気を失い、その場に倒れ込み眠りに落ちてしまった。
窓の外はまだ明るかった。
昨夜のことを思い出しながら、冬鳳は電車に揺られていた。
今日はやらかさないようにしないと。
流石に同じことを繰り返してはいけない。
そう誓い、我が家へと急ぐ。
だが、家に着くと知らない少女がぼうっと立っていた。
その後ろ姿を見て冬鳳は驚く。
蜂蜜色の髪をしていた。
とても綺麗な。
しかもおそらく地毛だ。
染めているような形跡は全くない。
そのハニーブラウンの少女が、気配を感じたのか振り返った。
それを見て今度は声を上げそうになる。
とても綺麗な顔立ちだった。
しかもエメラルド色の瞳をしている。
どこかあどけなさが残っていたが、おそらく冬鳳と同い年くらいだろう。
どこかで会ったことがあるのだろうか。
初対面ではない気がしたのだ。
なぜか分からないが懐かしさを感じる。
どうしてこんな子がうちの家の前に‥‥。
そう思いながら動けないでいると、彼女は目をぱあっと輝かせて冬鳳に近づいてきた。
その圧に押され、さささっと後退りする。
だが彼女はそんな冬鳳のことなど気にもせず、パッと勢いよく手を取ると言った。
「初めまして!わたしの名前は此野 侑!」
そこまで一気に言うと、冬鳳が口を挟む間もなく続けた。
「わたし、冬鳳の音楽好き!わたしと一緒にユニット組んでミュージシャンになろう!!」
その言葉を理解するのに、何秒か掛かった。
意味がわかった瞬間、思わず叫んだ。
「はぁぁぁぁぁぁあぁあ!!??」
冬鳳の絶叫が、その場に響き渡った。




