1.はじまりの朝
……ジリリリリリリ……
「……うぅー……」
ベットから細く白い手が伸びて、目覚ましをとめる。
あたしはまだ眠い目を擦りながら起きる。
「朝かぁ…もう起きなきゃ…フワァァ…」
眠い目を擦りながら、のそのそとベットから起き上がる私は、今日から高校生になる。
―――望月 唯
「ゆいーー!ごはんーーー!」
下の階からお姉ちゃんの呼ぶ声が聞こえる。
「……はーい、今いくぅ…。」
真新しい制服に袖を通して、色素の薄いふわふわの茶色の髪を軽く梳かしていく。
そして、私のチャームポイントとも言える、この分厚くてだっさい眼鏡を装着して顔を隠した。
最後に鏡をチェックする。そこにはださい眼鏡のあたしがいる。
うん、これで完成。
1階におりるとお姉ちゃんの待つリビングに向かった。
リビングの扉を開けると、既に会社に行く準備のできたスーツ姿のお姉ちゃんが、コーヒーを飲みながらニュースを見ていた。
そして起きてきたあたしをチラリと見ると
「あら、おはよ〜。さっさと食べちゃってよ〜」
そう言いながらニコニコ微笑んでるのはあたしとは真逆の真っ黒なサラサラストレートの髪の毛でスタイル抜群なしっかり者の社会人のお姉ちゃん。
―――望月 凛
あたしは自分の席につくと
「うん。おはよお姉ちゃん。いただきます。」
挨拶をしてトーストをかじりる。
するとあたしの顔をジーっと見るお姉ちゃん。
「てか唯…、そのやぼったい眼鏡いつまでかけてるつもりよ〜?華の女子高生がそんなんでいいわけ〜?」
とコーヒーを飲みながらあたしの格好を上から下まで見る。
そんなお姉ちゃんに
「はぁ…だってあたしブサイクなんだもん…。顔見せらんないよ。」
そう言ってあたしはため息をつく。
あたしと違って、すごく綺麗な顔立ちをしたお姉ちゃんは綺麗な顔を歪ませながらウンザリとした顔で
「はぁーーーーーー……」
と、深いため息をついた。
そんなお姉ちゃんをチラリと見ながら
「お姉ちゃん、美人が台無しだよ」
と、トーストをかじる。
すると、コーヒーをテーブルに置くと
「それはこっちのセリフよ?自覚無さすぎなのよ!唯がブサイクなわけないじゃない」
とお姉ちゃんが言ってくれる。
「……」
そんなわけない....。
あたしは、小学生の時この顔のせいで女の子たちにいじめられたんだから。
ある日いきなり女友達に、ゆいの顔のせいだって言われたんだハッキリと。ゆいの顔なんて見たくない。顔を見せるな。と…。
なにがなんだかわからないままあたしは一人ぼっちになった。
男の子とはそもそも恥ずかしくてあんまり話せなかったけど、たまに目が合っても顔をガン見された挙句無視されて逃げられてたし。
不愉快にさせる顔なんだと思う…。うん。
それからかな?
なんだか人前で顔をあげれなくなって、分厚いださい眼鏡をかけて顔を隠してただただ静かに本を読んで過ごした。そしたら、みんな何も言わなくなったの。
顔を隠したら丸くおさまったんだもん。そゆことなんだよ。
暗くなっちゃったけど、お陰様で中学時代は、とっても平和に過ごせたんだよ?悪いことばかりじゃないよ?
このださださ眼鏡に感謝だよ!
高校でも平和に過ごすんだ!あたしは!
昔を少し思い出しぼんやりしていたら
お姉ちゃんが目の前で慌てている。
「ところで、時間やばいわよ!あたしそろそろ仕事行くわね。戸締りよろしくね〜?いってきまぁ〜す」
と、お姉ちゃんはバタバタと会社に行ってしまった。
あたしもリビングの時計に視線を移すと…
「やばい!!!入学式!!!間に合わない!やばいやばい!!!まってよお姉ちゃーーーーん!!!」
急いで残りの朝食を平らげた。
そしてバタバタと玄関に向かうと、玄関で綺麗な笑顔で微笑む両親の写真にむかって
「お父さんお母さん、いってきます」
挨拶をして、バタバタと家を出た。
────────校門前
めちゃめちゃ急いで学校に着いた。
「ハァハァハァ……、つ、ついた!!」
キョロキョロ周りを見渡すけど、誰ももういない…。ガックシ…。
もう入学式はじまってんじゃん。
うー…最悪ぅぅー…。
どうしようかと考えるが、逆に今行ったら目立っちゃうよね…?入学式終わる頃に紛れて教室に行こうかな…。
そう決めると少しだけ心に余裕が出てきた。
ふと視線をあげるとあたしの目の前にはピンクの桜が満開に咲き乱れていた。
「桜…すっごく綺麗!」
誰もいないし眼鏡外していいかな……?
周りをキョロキョロしてみるけど、誰もいる様子はない。
……カチャリ…。
あたしは眼鏡を外した。
眼鏡を外すと、視界いっぱいに広がる桜。
ふんわりと優しい風が吹くと、花びらが散ってゆく。
桜が風で揺れる度に
「ふふふ…。なんだか歓迎されてるみたい。学校でこんな心地のいい気持ちなの久しぶりな気がするな〜。」
あたしは桜のおかげで気持ちいい気分になった。
ひらりひらりと散る花びらを追うように両手を伸ばした。
手のひらにふわりと花びらが1つ着地した。
「ふふふ!いいことありそう!」
────その頃、屋上付近
入学式…めんどくせぇな。…サボるか。
そう決めるとすぐに屋上へ足を向ける俺。
―――椎名 颯斗
すると、後ろから声がかかる
「はーやと!」
ニコニコしながら愛想のいい笑顔で話しかけてくるこいつは
―――三井 蓮
この笑顔と愛想の良さでモテる。
こいつとは幼馴染で腐れ縁。俺ら2人とも3年だ。
そんな蓮の声に振り返ると
「…なに。」
と蓮を見る。
「なにって!つっめたいなぁ〜。入学式行かないのかよ〜、可愛い1年生いるかもしんないじゃん!」
ニコニコと俺を誘ってくるが、俺はそんな事まったく興味が無い。
「はぁ……んなの興味ねぇ。俺はパス。じゃ〜な」
ヒラリと軽く手をあげ、俺は屋上に続く階段を再び歩き出した。
────ギギィ…
屋上の扉をあけるとふわっと、気持ちのいい風が入ってきた。俺はフェンスの前まで行くと、景色をぼんやりと見ながら欠伸を1つした。
「フワァァ…。ねみぃ…。」
風気持ちよすぎ…、眠くなる…。
ふと視線を下げると、校門前の桜の木の下にいる真新しい制服を着た1人の女。
あれ、新入生か?入学式もうはじまってんのに呑気なやつ。ま、どーでもいいけど。
それぐらいの認識だった。
俺は寝転がれそうな場所を探す為、足を返そうとした時だった。
暖かい春の風がふわりと吹く…。
そして俺の視界の端に、その女がまた映る。
華奢な白い両手を桜に向けて広げた。
そして、ふわりと優しく微笑む可愛いらしい姿が目に入った。
「……。」
俺はそんな姿に目を奪われた…。
マジマジと改めてその女を見た。
ふわふわの柔らかそうな長い髪と華奢で白い手足。そしてなんと言っても、人形のように整った可愛い顔で優しい顔して微笑んでる姿だ。
……破壊力、やばい…。
俺の視線をあっという間に奪う女に興味が湧いた。
それと同時に、さっき蓮に言った言葉を思い出して笑いが出る。
「ハハッ…俺女に興味なかったんじゃねーのかよ…。」
そして俺は足を返しながら考える。
あんなに整った顔してりゃあ、すぐ誰かわかるだろ。あとで蓮にきーてみっか。
この時、すぐに会いに行けばよかったと後悔することになるとは思ってなかった…。
―――桜の下でのんびり、過ごしてた唯。
……ガヤガヤ。
音が聞こえてきたので、体育館の方に目をやるとチラホラと人が出てきた。
あたしは最後に桜をチラリと見る…離れ難い…。
「…入学式終わったみたい…」
ちょっと離れ難いけどクラスをチェックしてあたしも教室行くかぁー…。
そそくさと眼鏡を付けて、みんなの波に私も乗って、教室に向かった。
あたしのクラスは1-A
「えぇと…あたしの席は……」
黒板に貼り付けられてる、座席表をチェックした。
わぁあ!ラッキー!!1番後ろ!
窓際では無かったけどついてる♪
スキップしたいところだが、ダメダメ!目立ったらあたしの高校生活も終わっちゃうから目立たないようにゆっくり!
と、自分に言い聞かせながら、ゆっくりと自分の席へ向かった。
席について、一息。
「ふぅ…。」
今日からこの席で静かに過ごす日々が、はじまるのかぁ〜…。少し寂しく思う。
───すると
「…ねぇ」
「ねぇってば…」
……ん????あたし????
あたしが話しかけられるわけないよね。
だって、こんなだっさい眼鏡の女、話しかけたくないよね…?
声のする方を、恐る恐るチラリと見てみると
「ねぇってば…ちょっとあなた聞こえてる?」
すんごい美人な女の子と目が合った……。
「え…えと、あたしですか?」
恐る恐る聞いてみると
「そうに、決まってるじゃない。」
当然のように答えてきた。
「え…えと、あたしなにかしちゃいましたか?ごめんなさい…。」
とおどおどするあたしに
顔を傾け綺麗な黒髪をサラリと揺らして、大きい目を更に大きくして不思議そうな顔をしながら
「なんで謝るの?桜の花びら頭についてるわよ?」
とあたしの頭の上を指さした。
あたしは自分の頭を急いで触ってみると…ひらりと桜の花びらが落ちてきた。
「へっ…!わわ…本当だ!ありがとうございます!」
急いで頭を下げるとお礼を言った。
美人なのになんて親切な人なの!感動で目がウルウルする…。学校で人と喋ったのいつぶりだろう…。
そんなことを考えながら感動していたら
「あたし藤崎 愛ってゆーの。あなたは?」
え……じ、自己紹介されてしまった!
「えっ…えと、望月 唯です…。」
久々に他人と喋るあたしはしどろもどろしてしまう。そんなあたしを気にする様子はなく
「ふ〜ん。そう。唯、1年間よろしくね?」
と、挨拶をしてくれた。
「は、はい!よろしくおねがいします。藤崎さん」
嬉しくて頭をペコリと下げるあたしに
「ちょっとぉ〜!同い年なんだから敬語やめてよぉ〜。愛でいいわよ。仲良くしましょう」
そう言って手を差し伸べてくれる愛ちゃん。
すごい笑顔だ!…美人が笑うと眩しい…。
「愛ちゃん…よ、よろしく!」
そして担任がきて一旦話は中断となり、明日からのことを説明してくれて、あっとゆう間に1日目の学校生活が終わった。
その日の学校帰り、あたしはスーパーに寄って帰宅した。
「お母さん、お父さん、ただいま。」
写真に向かって、挨拶をすまして眼鏡をはずした。
あたしの家は、あたしが小学生の頃に両親が亡くなった。それからは、お姉ちゃんがお母さんみたいなものだった。
両親は、有名なピアニストとバイオリニストだった。小さい頃から海外を飛び回っていたみたいで、その時の事故だった。
家は裕福だったから沢山の遺産が残った。
親戚の家に預けられたけど、学費等の金銭的な負担はかけずにすんだ。
でも、やっぱり家族以外と住むってのは居心地が悪かった。
あたしとお姉ちゃんは、お姉ちゃんが大学に進学したタイミングで大好きな両親と住んでた家に帰ってきた。
お姉ちゃんは、8歳年上の23歳だ。
まだまだ社会人なりたてのお姉ちゃんは、仕事が忙しくて夜はいつも遅いから夜ご飯を作るのは、あたしの仕事なのだ。
でも、そんなことぜーんぜん苦じゃない。唯一の家族のためにできることはなんだってしたいもん。あたしだってお姉ちゃんを支えたいんだ。
そんなことを考えていると
ピコンッ
スマホにお姉ちゃんからメッセージがきた。
『帰り遅くなります。
先にご飯食べちゃってね。
戸締りはしっかりすること。』
『了解♪』
っと…。
さーてと、着替えて夕飯と明日のお弁当のおかずまで作っちゃおっと…。
そして、一人でご飯を済まし夜は更けていった。




