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盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[26]闇を貪る者
298/351

-289-:年寄りが出しゃばれば、周りが迷惑を被るだけよ

 それは意識しない間の出来事。


 突如現れた敵の不意打ちを、オトギが破ったのだ。


「今のは何じゃ?」

 常識では考えられない事が起こっていた。


 コントロールを譲渡した覚えも無いのに、何故だかオトギがコントロールを握っている。


「わ、私…」

 オトギは信じられないと、動揺のあまり、両掌を見つめる目が左右に揺れ動いていた。


 そんな彼女らに影を落とす者が。


 真上から、ハギトのシャドーが斬りかかってきた。そして、その真後ろには、真のハギトが同じく斬りかかってくる。


「え?」

 オトギが気付くも、力なく鉾を下した状態からでは、もはや間に合わない。


 クロックアップでもないのに、世界がスローモーションに映る。


 脳内のアドレナリンが大量に分泌されているのだろう。


 指一本動かす事すら出来ない状態の中、不思議な事に思考能力だけは健在に働いていた。



 ガンッ!!



 シャドーのハギトが何かにぶつかり、飛ばされてゆく。


 続いて、真のハギトも同じように、何かにぶつかり飛ばされてゆく。



 一体、何が起きたのか?



 とたん、至るところで起きている破壊音が耳に届いてきた。


「戦の場で呆けておるな!妲己」

 老婆の声。


「婆様に言われたくは無いわ!」

 言い返す妲己。


 二人のやりとりに、ようやく自我を取り戻したオトギは、蛇のようなものが引き揚げてゆく先へと目をやった。


 九頭龍(ナインヘッド)のオロチの、龍の頭をした左肩、それに左腕が、それぞれ戻ってゆく様であった。


 広がる白髪をなびかせ、妲己の傍らに立つその姿は。


 頭部はもちろん、両肩・両腕・両腰・両膝に、それぞれ龍の頭部を備えている。


 手には七支剣を携え、盾を持たない。


「貴様が倒されてしまえば、このアンデスィデが終わってしまうどころか、この地が彼奴(きゃつ)らに蹂躙されてしまうのだぞ。心せい!」

 オロチの叱咤は妲己ばかりでは無く、オトギにも向けられた。


「言わせておけば、ババァが・・。それは貴様とて同じであろう」

 1対1のアンデスィデでは、条件は全く同じ。


 そんな二人のやりとりに、ココミはただただ困惑するばかり。

(ババァって…。妲己さんも千年以上生きているではありませんか…)


 もはや、目くそ鼻くそ。


「それよりもオロチ!貴様はアークマスターから『控えよ』と命ぜられておろう!大人しく引っ込んでおれ!」


「できれば、そうさせてもらいたいが、何せ前線が不甲斐無いのでのぉ」


 二人が互いに火花を散らせて言い争っている中、復活した2騎のハギトが、オロチたちに同時攻撃を仕掛けてきた。


「食らえ!我らのファイアーボール!」

 2騎のハギトは共に、オロチと妲己目がけて口から火炎の玉を発射した。


「オトギ!回避だ!」

 妲己が即座に指示を送るも、「動かない!」「何!」


 微動もしない妲己の前に、オロチが躍り出た。


「盾も持たぬトカゲ風情よ!まずは貴様から木端微塵に吹き飛ばしてくれる!」

 有難い事に、ハギトはファイアーボールの特性をご丁寧に説明してくれた。


 着弾すると、大爆発を起こすらしい。


 ところが、オロチは避けるどころか、防御もしない。


 迫りくるファイアーボールに対して、何のアクションも起こさない。


 ただ。


 オロチの右膝と右肩のドラゴンヘッドが口を開けただけ。


「何をやっているの!?イオリ!回避するのよ!」

 身を挺して守りにはいってくれたオロチの騎体に回避するよう指示したオトギであったが、自身の言動に、ふと違和感を感じずにはいられなかった。


(どうして、この女に『避けろ』となんて言っているのかしら?)


 ファイアーボールがオロチに着弾する。



 ゴォォォォーッ!!


 驚いた事に、口を開いたドラゴンヘッドが、ファイアーボールを吸い込んでいるではないか!


自動防御機能(オートカウンター)よ。9つの頭は、それぞれ攻撃そのものを食らい―」

 とうとうファイアーボールそのものを吸い込んでしまった。


「そままキッチリ、お返しするの」

 イオリの説明通り、左膝、左肩のドラゴンヘッドが口を開くと、2騎のハギトへ向けてファイアーボールを発射!


「バ、バカなぁーッ!」

 大爆発と共に、2騎のハギトは爆散!消滅した。


 何たるチート能力!

 

 恐ろしいまでの能力を、まざまざと見せつけられた妲己は、それでも引かない。


「妾は、これを借りとは認めぬぞ。今のは、ただ呼吸を整えておっただけ。余計な手出しは無用!」

 蛇鉾を、はるか遠くに陣取る太陽のオクに向けて構えて見せる。


 妲己自身、いつの間にかコントロールが戻っている事に戸惑いを感じた。が。


「オロチよ。アークマスターの指示通り、これより後は大人しく控えられよ。年寄りが出しゃばれば、周りが迷惑を被るだけよ」


 まだ言ってるわ…。


 この年寄り共に注意などしてたまるか、と、心に誓うココミであった。


「マスターがマスターなら、魔者も魔者。助けてもらいながら、お礼の一つも言えないなんて。ふふふ。親の顔を見てみたいものですわ」

 この期に及んでイオリが割り込んできた。


 こうなれば、火に油を注ぐだけ。


「何ですってぇ」

 オトギの声が、やたらと低い。


 本人としては、抑えているつもりなのだろうけれど、すっかりと怒りという名の具がハミ出している。


「では、お手並み拝見といこうか!」

 オロチが七支剣をグサッと地面に突き刺して柄頭に両手を添えて、高見の見物と洒落込んだ。


「妾の戦いぶり、しかとその目に焼き付けよ!」

 蛇鉾を構えて、太陽のオクめがけての音速突撃!


 対するオクは、大鎌を振りかざして妲己を迎え撃つ。


 オクの背後に、幾つもの魔法陣が描かれ、中から一斉に鎖が飛び出してきた。


 妲己を拘束するつもりだ。


「拘束とは、随分と悪趣味ね」

 呟くとオトギは、タブレットを操作して火器管制を引き受けると、大腿部の外側に並ぶ超小型(マイクロ)ミサイルを一斉射撃。


 捕えんとする鎖共をことごとく撃ち墜としてゆく。


 その隙に接近を果たしたオクが、妲己の命を刈り取るべく大鎌を振り上げていた。


「来たか!死神!」

 妲己は隙を見せない。すでに、いつでも斬りかかれる体勢に入っている。


 そんな2騎の間に、シャドーのアーマーテイカーが割り込んできた。


「邪魔をするなぁ!オロチ!」

 思わぬ横槍に、声を荒げる妲己。しかし。


 オクから伸びた影から、針山の如く、数えきれないほどの刀剣が突き出てきた。


 ドスッ!ドスッ!ドスッ!と、次々と刀剣がアーマーテイカーの騎体を貫いてゆく。


「コイツで奴の鎌に対処して。妲己」

 オトギの指示を受けて、妲己はアーマーテイカーから切り離された後部スカートを掴んでは上方へと投げ飛ばした。


 投げ飛ばされた後部スカートが、人型へと変型を遂げて真アーマーテイカーへと姿を変えた。


 そして、落下してきた真アーマーテイカーを掴むと、それを盾にオクを迎え撃つ。


 オクが振り下りした大鎌が、真アーマーテイカーに突き刺さり、大鎌の攻撃は封じられた。


 が、突き抜けた大鎌の切っ先が妲己の左手の小指を切断。


 それでもなお妲己が有利。今、オクの胴は完全にガラ空きとなった。


「ミサイル全弾発射!妲己、タイミングを合わせて!」

 超小型ミサイルの一斉射にオクは爆炎に包まれ、その中で損傷回復(リペア)を行うも、最中に蛇鉾による斬撃を連続で受けて、ダメージ回復は叶わないばかりか、五肢を斬り飛ばされてしまった。


 まさに畳み掛けであった。


 光の粒となって消滅してゆくオクを見つめ、オトギは祖父の仇を討てたのだと、高揚感に包まれていた。



  ― 太陽のオク消滅 ―




 3軍共闘によるアンデスィデは、ミュッセ軍の勝利に終わった。


「ありがとう。龍の騎士たち。それに不死の者たちよ」

 戦いを終えたフェネクスも光の粒となって消え去ってゆく。


 これでラーナ軍は壊滅的な被害を被り、形勢は逆転した。


 アドバンテージマテリアルでラーナを上回ったミュッセは、よほどのヘマをしない限りは負ける事はないだろう。


 あとは、うまくラーナの(キング)を、ミュッセがチェックメイトしてくれれば、ゲームは彼の勝ち上がりとなる。



「さてさて。あとは貴様が尻尾を巻いて逃げ遂せば、めでたくコチラのアンデスィデも終了じゃな」

 犬を追い払うかのように手を振って、オロチを送り出す。


「フンッ!アタシとしちゃあ、このまま決着をつけても良いんだけどねぇ」

 捨て台詞を吐いて、オロチが妲己に背を向けた。


 オトギが、飛び立つオロチの背を眺めていると。


「行っちゃうよ。いいのかい?オトギ」

 またもやジョーカーの声。


 妲己が反応を示していないことから、今回は音声では無く、心に届く声なのか?


「彼女、キミの秘密を握ったままだよ。このまま逃がしてしまったら、今夜もキミの恥ずかしい姿を楽しく鑑賞しちゃうよ」

 その瞬間!オトギのオロチを見送る目が険しさを増した。


「ん?」

 オロチは異常接近する妲己に気付いた。


 妲己は、すでにオロチの背後に迫っていた。そしてその距離、すでに近接戦距離!


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