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-281-:さすが綺麗な女の子は良い香りをさせているね

 冷たい雨が降りしきる中…。


 雨に濡れる御陵・御伽(みささぎ・おとぎ)に、姉の(しるべ)がそっと傘を差し出した。


「傘を差さぬと風邪をひいてしまうぞ」

 告げるも、オトギは手にする傘を差そうとはしなかった。


 美しい髪も濡れたまま、オトギは顔に貼り付く髪すら払おうとはしない。


 ただ、出てきたばかりの葬儀場を振り返るだけ。



 ▼  ▼  ▼  ▼



 買い物帰りにタツローと出会い、その後別れてからしばらく経っての事だった。



 オトギのスマホに、姉のシルベから一本の電話が入った。



 御陵家の現当主にして、財閥の総帥を務めるオトギの祖父が、飛行機事故に巻き込まれたとの報せが入った。


 国際テロ組織による爆破テロで、乗客、乗務員の生存は絶望的と知らされた。


 テロ組織による犯行声明が出されたものの、実際は依頼を受けたクレイモアによって成された犯行である事を、後から連絡をしてきたライク・スティール・ドラコーンによって聞かされた。


 敵である黒側が、惑わせる目的で揺さぶりをかけてきたものと最初は取り合わなかったが、クレイモアが現在はただの暗殺やテロ行為の請負組織だと聞かされると、信じざるを得なかった。


 現在クレイモアは、ココミの姉、ラーナ・ファント・ドラコットと繋がっている。それに彼女が率いるアルマンダルの天使たちとも。


 財界のトップを担う者は、常に命の危険と隣り合わせにある。それはオトギの祖父も承知していた。だから、常にボディーガードに身辺を警護させていた。


 なのに。


 まさか、大勢の乗客までも巻き込んで、大規模なテロで暗殺するなんて。


 許さない…。


 オトギは唇を噛んだ。


 叶うなら、この手で復讐を果たしたい。


 自身でも極論に達しているのは重々理解している。


 だけど、敬愛する祖父を、努力を認めてくれた祖父を殺めた者たちを生かしておけない気持ちが抑えられない。


 遺体すら帰ってこない祖父が、あまりにも不憫でならない。


 絶対に許さない…。


 その時、オトギの脳裏にミュッセとの共闘アンデスィデの話がよぎった。


 確か、アルマンダルの天使を倒すため3対1の共闘を組むとの事。


 願ってもない、この手でクレイモアの手の者に正義の鉄槌を下せるチャンスだ。


 だけど。


 彼らはテロを行った張本人ではない。


 オトギは高鳴る想いが、まるで浜辺に打ち寄せる波のように引いてゆく感覚を覚えた。


 これではただの八つ当たりだわ…。



 家に戻ると、オトギは喪服姿のまま一人外に出た。


 雨はもう、シトシトと小降りなので傘を差す必要は無い。


 だけど、濡れた体のまま出てきてしまったので、髪も濡れたままだった。



 近くの公園へとやって来た。


 地面のあちこちに水溜りが出来ている。


 その中を歩けば足元が泥だらけになるのは分かり切っている。だけど、オトギは公園へと足を踏み入れた。


 ぼんやりと、ただぼんやりと。


 まるで、ぽっかりと胸に穴が空いたような気分だ。


「どうしたの?オトギ」

 女の子の声がした。


 声が聞こえたのは、滑り台の上から。


 オトギは滑り台へと向き直った。


 滑り台の上に、道化師のような衣裳をまとった少女が座っていた。


 この雨で濡れた滑り台を滑ろうというのだろうか?


「泣いているの?オトギ」

 少女が訊ねた。だけど、オトギにとって、彼女は初めて見る存在。


「貴女は誰?」

 身構えるなり訊ねた。


「ジョーカーだよ」「ジョーカー?」

 顔全体で笑って見せるジョーカーに、オトギは彼女が人間では無く魔者だと察した。


 咄嗟にスマホを取り出し、グラムを召喚!


「ダメだよぅ、オトギ。ボクは君に危害を加えるつもりなんて、ゼンゼン無いヨ」

 隣に立っていると思えば、すでにスマホを取り上げられてしまっている。


 さらに、彼女の足元を見ても、泥をはねた形跡は見られない。


 ジョーカーがオトギに顔を寄せて、何やら匂いを嗅ぐ仕種を見せている。


「ん~、良い香りがする。さすが綺麗な女の子は良い香りをさせているね」

 反射的にオトギはジョーカーから飛び退いて距離を離す。


 ピチャンッ!靴が泥水で汚れてしまった。


「何が目的?危害を加えないと言うのなら、何が目的で私に近づいたの?教えて!」

 魔者の身体的能力には人間では敵わない。それにスマホは現在、彼女の手の中にある。


 抗うどころか、身を守る術すら持ち合わせていない。


 不敵に笑いながら、ジョーカーが歩み寄ってくる。


「オトギ。お爺様の仇を討ちたいんだろう?だったら、妲己の申し出を受けるべきだよ」

 どうしてそれを!?オトギは驚きを隠せないでいた。


「貴女!ライクの手下ね!?茶番だわ!遠回しに私を引き入れるつもりなのね?」

 危害を加えるつもりは無いと言っていても、返答次第で何をされるか、分かったものではない。


 オトギは警戒を解くことなく、後ろへと下がる。


「ボクは、今回の魔導書(グリモワール)の戦いとは一切無関係の者さ。ただね、折角のチャンスを棒に振る事も無いと思ってね。キミに声を掛けたのさ」


「チャンス?」


「そう。大好きなお爺様を殺した連中を嬲り殺しにできるチャンス。それとね」

 ジョーカーは立てた人差し指をオトギに向けた。


「キミが男たちのオモチャにされた事実を知る、ただ一人の女の子を始末できる絶好のチャンスじゃないか」

 一体、彼女は何の事を言っているのか?


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