-240―:そんなバカな連中の言う事なんか無視して、二人で力を合わせて、この危機を乗り越えよう
勝敗を決するのは、やはり数。
『質より量』と言うように、数に勝る戦力は無い。
白側:僧正騎×2騎、兵士騎×1騎に対して、敵は準兵士騎を20騎で押し寄せてくる。
さらに、兵士に準ずる騎体とはいえ、彼らの防御力はあなどれない。
オトギのグラムの主兵装であるキャロネード砲は、攻撃力は高いが、発射間隔が4秒と、敵を確実に仕留めるには、接近を求められる。
タツローのコールブランドは決定力に欠け、敵を確実に仕留められる兵装を持ち合わせていない(あっても、体当たり同然の攻撃を余儀なくされている)。
クレハは手にするハンドガンを見つめる…。
これで圧しきるしか手立てはない。
アクション系ロボゲーでさえ、これほどまでのハードモードを体験したことは無い。
スゥ~と長く息を吐くと。
「行くよ!オトギちゃん、タツローくん!」
もはや作戦など立てていられない。
各々が乱戦に突入した。
魔導書から実況を眺めるココミは地図画面を開くも、至るところに点在する敵騎の数に圧倒されてしまい、クレハたちに指示を送れずにいた。
もう、何が何だか。
そもそも、どうしてこのような状況に陥ってしまったのか?
「はっ!」
ココミは気付いた。
「皆さん!本体の人狼を探し出して、叩いて下さい!そうすれば、この状況を打破する事が可能です!」
指示を送るも。
ロボの周囲は厳重に守りを固められている。
城門を破るのは困難を極める。
さらに輪を掛けて。
「どうして先に本体を叩かねえんだよッ!」
グラムの怒鳴り声。
「貴様の火力なら、この程度のイヌ共、敵ではなかろう!」
早速コールブランドとグラムがやり合っている。
今はそんな場合では無いのに。
まったく気楽なものだ。
激しい銃撃戦を繰り広げながら、クレハは呆れ返っていた。
横から口を出す事しか出来ない魔者など、今は邪魔以外の何者でもない。
「クレハさん、3時の方向から敵が降ってきます」
ガンランチャーは的確に仕事をこなしている。
しかし。
敵が降ってくるったって、アレは跳躍した敵が自由落下をしているだけじゃん。
落ちてくる敵は狙い辛いんだよね…。
しかも、あのイヌときたら、サーフボードのようにライオットシールドに乗って降下しているものだから、こちらからの攻撃は全部防御してくれるのよ。
下っ端のくせに知恵が回る事。
あのイヌは着地させてから叩こう。今は他の敵に当たる。
市街地を巨大なチェス盤に例えるならば、敵は僚騎を援護しながら駒を進めてくる。
クレハが身を隠していたビルが、激しい銃撃により削られてしまい、とうとう場所を移さなければならなくなった。
援護を求めたい…。
だけど、コールブランドとグラムは。
「ちょ、ちょっと待って!あなた達何をしようとしているの!?」
二人揃ってロボのいる方角へ向かっている。
状況を打破したい一心で、二人して本体のロボを叩くつもりでいるのだ。
だけど、お互いに援護し合ってではなく、オトギが突出してしまい、すでに敵に囲まれた状態にあった。
「オトギちゃん!どこか大きな立体駐車場に隠れてタツローくんと合流を図って。貴女の防御ビットでも、その数の敵を抑えられるのは限界があるよ」
今は突出し過ぎている事を攻めている状況ではない。彼女に退場されてしまえば後が無い。
それと。
「タツローくん。貴方もいつまでも低空で敵に追われていないで、一度高高度に離脱して。オトギちゃんを助けたいのなら、急降下急襲とか戦術を変えて敵をかき回して」
一度会った時も、コールブランドは交差路を通り過ぎていた。
どうして、同じ高度で戦おうとする?何のための高機動なのか?騎体の特性を活かせ。
二人はそれぞれクレハの指示に従った。
さて。
人の事に気を取られている場合では無い。
弾を撃ち尽くす前に、隙があればマガジン交換をして、即応射。
着実に敵の数を減らせてはいるけれど。
あまりにもペースが遅すぎるぞ。
残弾数は問題無いけれど。
オトギとタツローの二人でロボを戦闘不能に追いやって欲しいと願うのは、酷というもの。
だけど。
「オトギさん。君の力を貸してほしい」
タツローがオトギに助けを乞うた。
「何を言っていやがる。助けて欲しいのは、こっちの方だ。立体駐車場に逃げ込んだのは良いが、周りから集中砲撃を食らって、いつ建物が崩壊するか、分かったもんじゃねぇ!」
グラムは即答で拒否。
「貴様は黙っていろ!マスターが助力を求めたのは、貴様のアバズレマスターだろうがぁ!」
「何ですってぇッ!!」
一言発しようものなら暴発しまくり。挙句、オトギまで言い争いに加わる始末。
「いいから聞いて下さい!オトギさん!このままではジリ貧でいつか皆敵に倒されてしまいます。だから!二つの騎体を融合合体のカードを使って一つになろう」
タツローからの提案であったが。
「テメェはバカか!」「マスター、正気ですか?」「一つになるって、敵に的を絞らせるだけよ」
各々反対意見を述べた。…述べたのはオトギただ独りだった…。
「確かに的は一つになるけれど、今より強くなるのなら、敵の防御を突き破って、本体を叩けるかもしれない」
あくまでも希望的観測の域を超えてはいないが。
「いいんじゃない」
クレハはタツローのアイデアを全面的に支持した。
「やりなよ、タツローくん、オトギちゃん。そんなバカな連中の言う事なんか無視して、二人で力を合わせて、この危機を乗り越えよう」
「兵士のマスターの分際で!」「誰がバカだ!テメェ!」
歯軋りしながら罵声を浴びせる事しか出来ない連中の声など、右から左へ。
「いっけぇーッ!」
二人の背中を押した。
「僕は!」「私は!」
「効果魔法!融合合体のカードの効果を発動!コールブランドとグラムを融合合体させる!」
双騎が飛び立ち、各々の行く手に幾つもの魔方陣が一列に並ぶ。
その魔方陣を突き抜けて―。




