-239-:遅いぞ!ガンランチャー。何を手間取っていた!
「守りを固めたからといって、あっさりと味方の救援に向かうとはね…」
シンジュはヘッドレストに頭を預けながら、去り行くコールブランドを見送った。
彼女が駆る人狼のロボの周りには、5騎ものイヌ頭が円陣を組んで、鉄壁の防御を布いている。
「それにしても」
コクピット内に響く、ロボの激しい息遣い。
相当苦しそうだ。
外傷だと、あっという間に治癒回復してしまうのに、やはり毒だと回復に時間が掛かってしまうのか。
「私たちを倒せば、アンデスィデが終了するというのに、目先の味方の危機に気を取られるなんて、やっぱり彼はトラの弟ね。肝心な時に視野が狭くなってしまう」
行動不能に陥っているロボの中で、シンジュは慌てても仕方ないと、シートに深く身を預けるのだった。
そして、ふと可笑しく感じられて、クスッと笑ってしまった。
複数騎を相手に苦戦を強いられているオトギの元へ、タツローとクレハが合流した。
「遅いぞ!ガンランチャー。何を手間取っていた!」
合流するなり、いきなりのコールブランドからの叱責。
「あ、あの・・コールブランド。あの騎体には、先輩のクレハさんが搭乗しているんだけど・・」
駒の位はタツローが上位ではあるものの、やはり先輩は敬い立てるもの。クレハの機嫌を損ないかねない発言は慎んでほしい。
あいにくクレハはそれどころではなく、粘る敵騎を相手に苦戦している。とにかく、イヌ頭たちが手にするライオットシールドは厄介でならない。
それに、ガンランチャーは元々、中長距離戦特化仕様騎。こんな派手に銃撃戦をするような騎体ではない。後方支援が本来の運用法なのに。
「タツローくん!道を作るから、早くオトギちゃんたちの元へ」
ガンランチャーの両手のハンドガンが唸りを上げる。
敵が一斉に防御に入ったと同時に、敵の頭上をコールブランドが飛び越えて行った。
すかさず振り返るイヌ頭たち。
だけど、クレハは援護射撃を続けて敵の追撃を阻止する。
そして、再び繰り返される銃撃戦。
クレハはガンランチャーをビルの影へと隠れさせて、ハンドガンをリロード。
「ハードモードが過ぎるわ。こんな事なら、アルルカンを先に仕留めに行った方が楽だったな…」
今頃になって後悔。だけど、それだとリョーマの援護に回る事になる。
それはそれで、まったく気が乗らない。
ところで。
クレハは今になって、ふと疑問に感じた事がある。
この手下イヌたちに、パイロットは搭乗しているのだろうか?
先ほどから、パイロットが搭乗している前提で応戦を続けている。
盤上戦騎と同じく、総ダメージ60パーセント以上を与えて消滅させていたけれど。
もしも、このイヌ頭たちにパイロットが搭乗していなければ、気兼ねなく胴体を撃ち抜いて、瞬く間に破壊できる、はず。
それを判断できる方法は無いものか…?
と。
身を隠しているビルの影から、突然柴犬頭が顔を覗かせた。
ガツン!柴犬頭の眉間に銃口を押し当てる。
が、クレハは一向に引き金を引こうとしない。
「クレハさぁん。何をやっているんです!?さっさと撃ち抜かないと、その柴犬に反撃されてしまいますよ」
ガンランチャーがヘッドショットを催促。だけど、クレハはまだ撃たない。
「それに、コイツの仲間がやってきますよぉ。早いコト、そいつを始末しちまって下さい」
言っている傍から、柴犬頭がショットガンの銃口をガンランチャーに向けた!
クレハはすかさず、空いているハンドガンの銃身でショットガンの銃身を絡めるように払い、ショットガンの銃撃を阻止。お互いの足元に散弾をぶちまける。
その最中でも、ハンドガンの銃口は、なおも柴犬頭の眉間に押し当てられたまま。
-レベル4の敵騎体の情報を獲得しました-
瞬間、クレハは柴犬頭の頭を撃ち抜いた。
「みんな、聞いて!」
クレハが白側回線を開いた。
「この手下イヌたちには、パイロットは搭乗していないよ!みんな、思う存分、敵を蹴散らせて!」
檄を飛ばした。
「そう言われても…」
オトギはトリガーをためらった。
倒すべき敵とはいえ、愛玩犬の頭をした敵を完全破壊するなんて、気が引ける。
先ほどまでと同じく、総ダメージ60パーセント以上を目指して敵の耐久力を削ってゆく。
ただし!
プードル、お前は容赦しない。
グラムのキャロネード砲がプードル頭の胴体に風穴を開けた。
プードル(ドイプードルではない)が爆散した。
1騎倒したというのに。
また敵が増えた。
白側3騎の周りに、敵の数は優に20を超えていた。
まさに!
戦いは数だよ(敢えて“兄貴”とは言わない)。




