-236-:あなたがトラの弟だとしても、私はためらいなどしない
また、スゴいのが現れた…。
ココミは、ノブナガのその姿を目の当たりにし、思わず絶句。
そして、そろぉ~と静かにカメラの付いているページを開いて、彼の出で立ちをこっそり撮影。白側全員に公開した。
そして、ノブナガの姿を見た者たちすべてが言葉を失った。
コスプレ?そうとしか判断できない。
そんな中、オトギは何故かノブナガの姿に既視感を覚えた。
「オトギ、どうした?お前、まさか!」
顔見知りでは?と察したグラムではあったが。
「冗談を言わないで!どうして私が、あんな珍妙な格好をした人と知り合いだと言うの!?」
一瞬でも、そう思われたのが不愉快でならない。
7騎のイヌ頭を相手に、激しい立ち回りを演じているリョーマは、送られてきた画像を思わず二度見してしまった。
「あ、あんな男が、僕たちが戦っている連中の長だというのか…?」
もはや言葉にもならない。
人は見かけによらぬもの。
それは教訓として胸に刻んでいる。
しかし。
それでも、アレは無いだろう…。何かの冗談か?
「敵の声に惑わされてはならぬ!トモエェッ!!」
颯爽と現れたノブナガが、シンジュに喝を入れる。
「やめて!!そんな恥ずかしい呼び名を、人前で大きな声で呼ばないで!」
それには同感できる。貝塚・真珠が不憫でならない。
不憫でならないのは、それだけじゃない!
「おい!ノブナガ。シンジュさんを騙して利用するな!」
タツローが声を震わせてノブナガを恫喝した。
「シンジュさんのお兄さんのケガには、ゼッタイお前が絡んでいるはずだ。証拠は無いけれど、ゼッタイそうに決まっている」
子供じみた、無茶苦茶な言い分を並べ立てる。
当然のごとく、ノブナガはそんなタツローを鼻で笑って見せた。
「光のドラゴンの騎士!貴様は何か勘違いをしているようだな」
“光のドラゴンの騎士”。そんな呼ばれ方は、龍たちを従えるココミからでさえ、された事は一度も無い。
ノブナガが続ける。
「それに関して私は、紛れも無く真っ白白助だ!私がトモエの兄を負傷させた犯人を探せると申したのは!」
この男は普通に喋ってもツッコミどころ満載だ。けど、この場は、黙ってこのまま続けさせよう。
「魔者たちよ。彼らのすべてが“亜世界”からやって来た者ではない。元々こちらの世界に住み着いている土着魔者たちの存在。その者たちの協力を得て犯人のニオイなり、その場に残る記憶、すなわちサイコメトラーの能力を使って必ず犯人を突き止める。それがワシがトモエに協力を求めた交換条件よ!」
彼は、超難解な障害事件を、オカルトを駆使して解決するつもりなのだ。
「だからトモエよ。そやつらを倒せ。そして兄の無念を晴らすのだ!」
どういうつもりか?こっそりと向けられていたココミの魔導書へと指差して、ノブナガはシンジュに命令した。
「倒せって、結局はシンジュさんの手を血で染めるって事でしょう!」
あえて殺人という言葉は使わない。いきなり穏やかでない言葉を使ってしまえば、人はその言葉に対して感覚がマヒしてしまい、意味そのものを軽く感じてしまう。
それは“殺人”という超穏やかでない言葉ではなくて、タツローたち高校生が日常的に、相手を脅す時に使ってしまう“ブッ殺す”なる言葉の意味が、あまりにも頻繁に使われてしまっている事により、本来の意味から想像もつかないくらいマイルドになっているから。
国語は苦手でも、そういった知恵や感覚は身に着くものだったりする。
ノブナガがクククと小さく笑った。
「な、何がおかしいんです?僕が言っている事に何か間違っている所がありますか?」
得体の知れないノブナガに、タツローは弱みを見せまいと強く出る。
「光のドラゴンの騎士よ。貴様の言っている事は実に正しい。その通り、障害犯を見つけるために殺人を犯すのは間違っている。だが!」
ノブナガの言葉を訊き終えるまでもなく、シンジュはタツローに背を向けた。
「トモエは!彼女は、兄の未来を奪った者を決して許しはしない。それすなわち!彼女は犯人を殺害するつもりなのだ。だから、その過程で生じる殺人も厭わない」
それは、あまりにも馬鹿げていると、タツローは何度も首を横に振った。
「ダメだ!シンジュさん!そんな事をしても、貴女のお兄さんは喜んだりはしない。だから!」
だから、ここで何としても彼女を止めなければ。
タツローは去り行こうとするロボの背をロックオンした。
ロックオン・アラートが鳴り響く中、シンジュは後部ディスプレイを見据えて。
「撃ってもいいのよ。あなたがトラの弟だとしても、私はためらいなどしない」
コールブランドに背を見せるロボの周囲に、幾つか魔方陣が展開されて、次から次へとイヌ頭の手下が姿を現した。
交渉は決裂した。
彼女とはもう、戦うしか道は無いのか?




