-233-:随分と手厚い歓迎だな
叫霊のツウラが光の粒となって完全消滅した後も、クレハは敬礼をしたまま、その場に立ち尽くしていた。
「あの、クレハさぁん。早くロボたちを追わないと…」
ガンランチャーが声を掛ける。
「あ、ごめん」
ようやく気付いて、敬礼を解く。
白側の通信回線を開いた。
「タツローくん、オトギちゃん。そっちは大丈夫?」
マップ画面を縮小させて空域全体の情報を拾う。
現在、コールブランドとグラムがいる空域には、敵の数が4騎存在している。ロボの手下たちだ。
二人は現在、クレハからの呼びかけに応えられないくらいに忙しいのだろう。何の応答も無い。
単純に2対4の構図。だけど、二人が乗っているのは、カタチはどうであれ僧正騎だ。
何をチンタラ手こずっているのだろう。
木乃伊のアルルカンのチート化を何としてでも阻止したいところだけど、二人を放っておく訳にもいかない。
重要度としては、圧倒的にアルルカンにあるが、こっちの方は草間・涼馬が対応しているので、まずは大丈夫だろう。
絶対の信頼を寄せているというワケではないけれど、彼が負ける気がしないのも事実。
願わくば相討ちしてくれると、後々とても都合が良い。
取り敢えず、タツローたちの援護に向かおう。
ガンランチャーを発進させた。
今までいた区域を後にする。
クレハはふと振り返った。
叫霊のツウラ…津浦・アンジェリーナ…。
彼女が覚悟を示してくれなかったら、あそこまで割り切って敵を討つ事なんて出来なかった。
彼女には感謝している。
お墓を建てる気はサラサラ無いけれど。
ライクを通して“よろしく”と伝えたい。
高砂・飛遊午には。
彼に伝えるのは、世間に伝えられる情報だけに留めておこう。
それが、ツウラにしてやれる、せめてもの恩返し。彼女が魔者だった事は、胸の内に秘めておこう。
再び敬礼。
「さようなら、津浦さん」
巨大な繭と化したアルルカンの周りを回りながら、リョーマは様々な機器を介して情報を集めていた。
しかし、繭はあらゆる測定機器をもってしても、中の様子を探る事ができない。
一体、中で何が起こっているのか?ナゾだ。
アルルカンをすっぽりと覆っている繭は、ヒューゴ駆るクィックフォワードを捕えた“剣の檻”と同様に、包帯そのものを硬質化させて、完全防御を図っている。
現在、魔力の消耗が激しいダナでは、野太刀で斬り付けても、繭は破れないだろうし、逆に野太刀が折れてしまう可能性がある。
幸い民家などは近くに無いので、火器装備を召喚して攻撃するか…。だけど、この強固な防御力を破るのは骨が折れそうだ。
繭の周囲に、幾つか魔方陣が浮かび上がった。
ある者は魔方陣から浮き出て来て、ある者は魔方陣から降り立って、姿を現した。
ダナを取り囲むようにして現れた、敵の数は7騎。
それぞれ機動隊が装備しているライオットシールドを左手に防備を固めて、各々違う武器を装備している。
どれも、姿は似たようなものではあるが、すべて異なるイヌの頭をしている。
「7騎か…随分と手厚い歓迎だな」
田園地域には避難勧告は布かれていない。無暗に戦火を広げる訳にはいかず、不本意ではあるが、ここは一旦、繭は放っておいて、このイヌ共に対処しなくては。
「ダナ!武器召喚だ。殲滅戦兵装を頼む」
リョーマの指示と同時に、ダナの体の至る所に青色の魔方陣が展開、回転を終えると、両腕にガトリングガン、背中と両脚に追加ブースターを装備。
1分間に7000発を発射するガトリングガン×2丁で敵の殲滅に取り掛かる。
御陵・御伽はグラムを低空飛行させて、ビル林を縫うようにして、迫りくるイヌ頭たちを振り切っていた。
だけど、次々と現れる敵に、徐々にではあるが、逃げ場を狭められつつあった。
「オトギ!次の交差点で、さっき振り切った敵と出くわしてしまうぞ。交差点には行かずに、ここらで上昇した方が」
グラムが助言するも、オトギは左手の鎌で地面を削りながら180ターン&急停止。そして即、追ってくるチワワに向かって砲撃を加える。
グラムのキャロネード砲をライオットシールドで防ぐチワワであったが、瞬く間にカマによって両足を断たれてしまい、地面に落下した。
チワワは追撃不可能に陥った。
「畏れ入ったな…オトギ。お前がここま武闘派だったとは」
オトギはグラムの助言を聞く事無く、反撃する事で敵の追撃をかわしていた。
「褒めても何も出ないわよ、グラム。それよりも敵の位置情報を」
情報を求めながら、オトギはパイロットスーツの胸元を少しだけ開いた。
激しい戦闘が続いて、パイロットスーツの中が蒸れてきたのだ。
「それと、もう少しだけ冷房を強くして頂けるかしら?もう暑くて」
開いた襟元を引っ張って、冷えた空気を服中へと取り入れる。
「な、なぁオトギ。もう少しだけスーツのファスナーを上げてくれないか」のグラムの言葉に、「ん?」オトギは不思議そうに天井を見やった。
「胸の谷間が眩しいんだよ」
グラムの言葉に、思わず体を捻って、どこからとも分からない視線を遮る。




