-224-:クソ女のお返しよ
ロボの両腰に装備されている回塔式機関砲が火を吹く。
2列に地面を削り、立ち上る土煙がガンランチャーに迫る。
「危ね!」
咄嗟に側転して、ビルの影へと隠れる。
「ランちゃん、ダメージは?」
訊ねながらダメージゲージを確認する。幸いな事に、一発も被弾していない。
クレハは今頃ようやく回転ボルトアクション方式の狙撃銃の排莢を済ませて、薬室に銃弾を装填した。
敵の機関砲が止んだ。
と、ビルの影から飛び出すと、狙撃銃を脇に抱えて応射!そして、すぐさまビルの影へと隠れた。
「何やってんだろう、私。狙撃銃をこんな激しい動作をしながら撃つなんて」
ボヤきつつ、排莢→再び薬室に銃弾の装填を行う。
狙撃銃で銃撃戦なんて、どの映画でも見た事が無い。つまりは非常識。
「あっ、そうだった!」
ロボのいる方向に、狙撃銃をビルへと突き刺して発射!
ビルの向こうで爆発音がした。直視していないものの、うまい具合に命中しようだ。
「やった?」
身を乗り出して着弾したかを確かめる。
だが、ロボの姿は見当たらない。
「どこ?」
辺りを見回す。敵はビルの側面を這い回って接近してきたのだから、上も警戒しなければ。
なんだか空から2個ほど緑色のボールが落ちてくるのが見えた。
「あのクソ女!」
クレハは飛び込むようにして、向かいのビルの隙間へとガンランチャーを避難させた。
後方で巻き起こる爆発&爆発、そして続けざまに起こる爆風に押されて転がる。
「さっきの爆発は、どうやら敵に着弾したのではなく、私たちをおびき出すために手榴弾を爆発させたようですね。何とも小賢しいマネを」
ガンランチャーの見解には同感だ。だけど。
何かオカシイのよね…。
僧正の割には攻撃がショボいと言うか。やはりツウラがビショップなのだろうか?ダナを圧倒していたし。
バキバキバキと何かを薙ぎ倒すような音が背後から。
「クレハさん!後ろからです!」
ガンランチャーからの警告に、またもや飛び込むようにして、これを回避。その間にも体をひねって無理やりではあるが、射撃体勢に入る。
ブーメランでビルを上下真っ二つに割った後、姿を現したロボに目がけて狙撃銃を発射。
やはり、無茶な体勢からでは外してしまう。かろうじて至近弾。
着地は肩から。火花が散らせながら地面を滑る。
そんなガンランチャーに、さらなるロボの追撃!
地面を割りながら迫り来るブーメランを、クレハは狙撃銃で受け止めた!だけどそのまま狙撃銃は真っ二つ。
そして、さらなる攻撃がガンランチャーに襲い掛かる。
「クソ女のお返しよ」
意外と根に持つシンジュであった。
容赦なくブーメランがガンランチャーに打ち下される!
「やかましいわッ!」
左掌からデリンジャー小型銃がギュルルルルッ!と高速ネジ回転をしながら現れて、左手に握ると狙いはロボの鼻っ面。即射撃!!
ロボの顔面に、小さいけれど爆発が起きた。
その間にガンランチャーを全力で離脱させる。高度を取れば魔導書のレーダーに引っ掛かってしまう。なので、ひたすら道路沿いに低空飛行で、尻尾を巻いて逃げる。
ついでに煙幕も撒いて、とにかく敵をまく。
ある程度距離を稼いだところでビルの影へと隠れた。
魔力ゲージの消費が著しい。この慌ただしい状況、息も切れる。ブラウスの襟をはだけた。
ここらで休憩を取ろう。抜かりなくステルスシートを張る。
これで、ひとまずは安心だ。
やっと一息ついた所でタツローに通信を入れた。
「タツローくん。そっちは大丈夫?」
今更ながらクレハから通信が入った。
「ようやく敵をまいて、パチンコ屋の立体駐車場で身を潜めているところです」
トンボ姿の盤上戦騎は、意外と狭い所へと身を潜めることが可能な事に、クレハは驚いた。
コールブランドは4tトラックか!?それともゴキブリか?
「だけど、光学迷彩で身を隠していたのに、どうして見つかってしまったんだろう?やっぱりコンビニの駐車場だと見晴らしが良すぎて見つかってしまったのかな?」
反省を述べるタツローはツッコミどころ満載。
見晴らしが良すぎる場所ほど光学迷彩は効果を発揮するものではないのか?
コールブランドが隠れているパチンコ屋の後方では立て続けに爆発が発生していた。
「見つかってしまったのかい?コールブランド」
発進すべくスティックを握りしめる。
「いえ、私たちが見つかった訳ではありません。どうやらグラムたちがヘマをやらかして発見されてしまったようですね」
今度はオトギたちが窮地に立たされている。
「オトギさんたちを助けないと」
飛ぶのは無理でも、脚で歩く分には問題無さそうだ。6本の脚で駐車場から歩いて出よう。
「待って下さい!マスター」
コールブランドが制止した。
「こんな時に!彼らが気に入らないからって、僕を止めないでくれないか!」
この状況で感情を優先するコールブランドの制止を振り切る。が。
「動かないで下さいと言っているのです。敵はまだ、この駐車場の外にいます」
告げて、ソナー探知画像を正面ディスプレイに移動させた。
彼らの通信を聞くココミは混乱していた。
「一体、どういう事?アルルカンは繭の中。ツウラは市役所前から動いていないのに、クレハさん、タツローさん、オトギさんの前にそれぞれ盤上戦騎が出現している。えぇぇぇ?どうして数が増えている?」
一方のオトギたちは。
光学迷彩を見破られた原因を検証していた。
「私たちが見つかった理由は、ガラス窓などに映る風景と相違が生じていたから?それとも、エンジン音が外に漏れていた…だけど、それは絶対に有り得ないわね。じゃあ、一体、どうして」
考えならがら、オトギは体の重心を左へと傾けて、グラムを左折させた。
バイク型コクピットは半ば感覚で操作できて、とても扱い易い。加えて2輪ではないので転倒する心配も無い。
ただ。
挙動によりコクピット内も大きく傾く。そして胸もしっかりと揺れている。
これでは操作中に画像付き通信は控えないといけない。
グラムの武装は両手の鎌と背部に装備する2連装キャロネード砲(75mm砲/発射間隔4秒)のみ。ビショップ騎の割には貧弱に思えてならない。
先程から、追跡者の攻撃をすべて、騎体の周囲に浮遊しているビットシールドが防いでくれている。これが割り振りポイントの多くを占めていると諦めるしかない。
「タツローくん守ると誓ったのに、敵に追われてるばかりだなんて」
一向に援護に向かえない状況に、オトギは唇を噛んだ。




