－218－：果たして、そう思い通りに行くかしら？
攻撃した側のダナが膝を折っている!？
「どうした？ダナ！どこか不具合でも生じたのか？」
天井へと向かって叫ぶ。
「騎体ダメージポイントは算出されていません。ただ、骨格に掛かるストレスが危険度を示しています」
ダメージには至っていないけれど、このままでは戦闘の続行は不可能という事。
「一旦離脱する」
リョーマはダナを後退させた。だが。
「マスター。現在のフレーム強度では可変に耐えられません」
可変さえも不可能。この姿で逃げるしかない。
「逃がしはしないぜぇ」
ツウラが釘バットを振りかぶりながら接近してきた。
「オゥラ、オゥラァ！オラァッ！」
立て続けに振り下ろされる釘バット。それらを全て野太刀で受けて凌ぎ切る。
が。
一撃を受ける度に、ダナの全ての関節にダメージが計上される。
ついにダナのコクピット内に赤色灯点滅のアラートが鳴り出した。
このままではダナがバラバラにされてしまう。
それに。
ダナは悲鳴こそ上げないが、彼女が被る痛みは相当なもの。すべての関節が悲鳴を上げているのだから。
リョーマは効果魔法カードをホルダーから取り出すと、カードリーダーに読み取らせた。
「僕は効果魔法、損傷回復のカードを発動する！」
すると、体のあちこちに緑色に光る魔方陣が展開し、グルグルと回転を始めた。
たちまちにして赤色灯アラートは解除されて平常へと戻った。
「仕切り直しというワケね。フフッ。果たして、そう思い通りに行くかしら？」
ダメージ回復を果たしたダナに、ツウラは恐れる様子も無い。
「何が起きたかは知らないが、お返しをさせてもらうぞ！ツウラ！」
一歩退いてからのリーチを生かした野太刀の片手での振り下ろし。
当然、相手からは攻撃が届くことはない。
だが、敵は何を考えているのか？野球のバット振りで振り下される野太刀を迎え撃つ。
ガギィィィーィィンッ！
奇妙な音を立てて野太刀と釘バットがぶつかり合った。
ガギッ！
歯車が噛んだような音が鳴り響いたかと思えば、ダナの右腕の肘から先が崩れるように落ちて行く様が正面ィスプレイに映し出された。
「バカな!?」
驚く最中、今度は右腕が肩関節から崩れ落ちる。
「一体…一体何が起こっているんだ!?」
理解を超えた現象を推理する間さえも与えずに、なおもツウラの釘バット攻撃は続行される。
ふざけているのか？ゴルフのスィングで繰り出される釘バットをピンポイントバリアを張った左腕でガード。
しかし、ガードした腕ごと千切れてダナの後方へと飛び去ってゆく。
ガトリングガンで応射しつつ、ホバリング移動で後方へ離脱を図る。
ツウラもホバリング移動を開始、ダナを叩き潰すべく追跡を始めた。
その一部始終を魔導書を通して眺めていたココミは、信じられないと力なく首を横に振るしか出来ない。
「リョーマさんが倒されてしまったら…今出撃している皆さんが殺されてしまう」
極端な発想とは解っていても、つい口に出してしまう。
「ココミちゃん！」
本から聞こえる声に、ココミは我を取り戻した。
「な、何です？クレハさん」
本のページをめくってクレハとの通信画面へと切り替える。
「なんて格好をされいるのですか？これは遊びじゃないんですよ」
クレハの姿を見るなり、いきなりの叱責。だけど。
「人の趣味に文句をつけている場合じゃないでしょ！私も出るわ。リョーマくん、堅物だから私が援護しようとしても聞いてくれないと思うから、ココミちゃんから、それとなく市役所前に行くように指示して」
作戦を告げる。
「え？市役所へと向かってもらって、どうするのですか？」
クレハの言っている内容が理解できない。
「狙撃して相手の頭を撃ち抜くのよ。後の事は、それから考える」
ステルスシートで身を守っている以上、身動きは取れない。だから、敵をおびき寄せてもらうしか手立ては無い。
「狙撃するって…。クレハさん、貴女にそれができるのですか？」
今一つクレハの腕を信用できない。どうも、追い詰められてヤケを起こしているようにしか思えてならない。
「とても都合の良い事に、私は、それが出来る騎体に乗っちゃっているのよね」
告げてカシャン！とライフルの薬室に銃弾を装填した。
