-216-:狙撃銃は肩に担いで構えちゃダメですよ
草間・涼馬という人間を、正直クレハは好きになれないが、接近さえしてしまえば、彼に倒せない相手はいないだろう。それはそれとして、とても頼りになるヤツだ。
なので。
索敵を再開した。
フラッシュ計算のように、コロコロと変わるモニター映像の数々。
凝視していたら、眼はともかく頭もおかしくなりそうなので、のんびりと映像HITを待つ。
だけど、一向に監視カメラには何も映っては来ない。
「見つからないね。ガンランチャー…」
肩が凝った訳でもないのに、クレハは首をコキッと鳴らした。
「まさか敵が、街中の監視カメラを警戒しているとは思えませんし、ホバリングされると映像に映らないかもデスです」
可能性を示唆された。
どこかへと姿を消したアルルカンも気になるけれど。そんな事よりも。
今更ではあるけれど。
“ガンランチャー”て名前、呼びにくね?
しかも彼女、女の子だし。
「ねえ、ガンランチャー。ひとつ提案なんだけど」
「いた!いましたよ、マスター!いやいや、クレハさん」
ガンランチャーが敵を発見した。
監視カメラの映像をピックアップして表示してくれる。けれども、何も映っていないじゃない!
「ガンランチャー…」
唸るようにしてガンランチャーの名を呼ぶ。
「まぁ、怒らないで下さいよぉ~。ガセをつかませた訳じゃないんですからぁ。まっ、クレハさんの目が節穴じゃない証拠を今から提示しますから」
ピックアップ画面を部分拡大させて表示した。すると。
「カーブミラーに盤上戦騎と思われる騎影が映っていますよね。場所はここから東に4キロメートルにある保育園の入り口監視カメラに映っています」
言われるも、小さく映っているものを鮮明化させても、かろうじてロボットらしきものが映っているだけで、どのようなシルエットなのか?まるで把握できない。
「4キロか…思ったよりも近いね。一応戦闘態勢に入っておいた方が良さそうね」
クレハの指示にガンランチャーは「ラジャー」の返事と共に、天井からコードが接続されたライフル銃のようなモノが下りてきた。危うく頭頂部に当たりそうになる。
先ほどインストールされた、ガンランチャーの操縦方法はしっかりと頭の中に入っている。
だけど、合図も無く、いきなり天井から落ちるようにして現れると、正直心臓が止まりそうでカラダに悪い。
クレハは降りてきたライフル型端末を手に取った。
「クレハさんは、私の操縦法は脳へ直にインプットされてご存じでしょうけれど、銃の扱いはズブの素人でございましょう?」
人を小馬鹿にしたような態度で、腹立たしいけれど、彼女の言う通りなので、あえて不服そうな態度を取りながら頷いて見せた。
「狙撃銃は肩に担いで構えちゃダメですよ。さらに『チョロいぜ』なんてほざいたら、私が後でブッ飛ばしてさしあげますからねぇ~」
んな事は教えてもらわなくても、狙撃銃の構造上、担ぐなんて考えられない。銃床を胸に密着させて撃たなきゃ反動で外してしまうのが目に見えている。
「とりあえずは今は引鉄に指を掛けないで下さいね。うっかり引いちゃって暴発させてしまったら敵に居場所を教えるだけですから」
言われて、クレハは慌てて引鉄から指を離した。
それにしても…結構重い…。
「照準器を覗き込む時は決して片方の目を閉じたりしない事。目の筋肉が緊張して照準がズレてしまいます。だから、両方の目を開けた状態で照準器を覗き込んで下さい」
指導を受けるも、意識しないと、片目を閉じてしまいそうだ。
理屈では解っているのだが。今の内に慣れておこう。
「なお、スポッターは私ガンランチャーが勤めさせて頂きます」
彼女の名前を聞いて、先程言おうとした提案を思い出した。
「ねぇ、ガンランチャー。貴女のその名前、ちょっと長いって言うか、その…呼びにくいんだよね」
加えて女の子の彼女に対して、“ガンランチャー”が、ライフル砲弾&ミサイルの両方を使い分けて発射できる戦車砲の名前だとも言えない。
それは言ってはダメだと本能で理解している。
「まぁね、愛称とかで呼びたいんだけど良い?」
こういうのは本人も気にしているかも知れないので、あらかじめお伺いを立てた方が波風を立てなくて済む。
「まぁ、良いデスけどォ」
少々不満気。
「クレハさんとは、そこまで親密な仲ってワケでも無いですけど、どうしてもと仰るなら愛称で呼んで頂いても構いませんヨ」
ナニこの呼びにくい方向へと続く道のりは?
それは、まるで茨の道のり。
わざわざ折れてもらって、愛称で呼ぶ事になろうとは…。思うも、どういう呼び方をすれば少しは機嫌を取り戻してくれるのか?色々と面倒くさい。
「“ランちゃん”なんてのは、どう?」
安直ではあるが、濁音だけ取り除いてみました。
「それで呼びやすいのなら構いませんが…。あっ!別のカメラにも敵影らしきものが!」
新たな敵の映像を捉えたようだ。
「ど、どこ!ガンランチャー!」
咄嗟に出てしまった名前に、クレハはハッと慌てて手で口を塞いだ。
「ねぇねぇクラハさぁん。呼びやすい名前で呼ぶんじゃなかったのデスか?」
責めを受けている訳ではないのだが、クレハは小さくなった。
とりあえず、この件に関しては、じっくりと時間をかけて慣れさせて頂けませんか?




