-210-:敵騎が市松市街地に侵入しました
中長距離戦特化仕様騎ガンランチャー。
尻尾を投石器代わりにして石を投げる投石大蜥蜴が彼女の正体。
龍>竜>大蜥蜴>蜥蜴とドラゴン種の中でも下位に位置しながら、今回の魔導書チェスの駒に選ばれた理由は彼女の年齢にある。
ルーティはドラゴン種のなかでも最強と謳われるレッド・ドラゴンなのだが、幼生だったために今回はアークマスターの護衛役に甘んじている。
事あるごとにルーティが、ガンランチャー見下す発言を繰り返していた理由はこれなんだと、クレハは納得。考えるまでも無く、それはどうでもよい事。
クレハはタブレット端末を操作してガンランチャーの仕様を確認した。
標準武装には背中に収納しているハンドガン×2丁と掌にスッポリと収まっている弾数それぞれ1発ずつのデリンジャー小型拳銃×2丁。
あとは召喚武装として、スナイパーライフル×1丁。てか、すでに所持しているし。
他に、近接戦闘用にナイフ1本。以上。
「ミサイルとかの関節射撃武器は無いのね…」
これの、どこが中長距離戦特化と言うのか?
騎体シルエットを確認してみて、ガンランチャーの評価を改めた。
中長距離戦特化仕様騎と名乗る割には武器総数は少ない気もしたのだが…これだと、むしろ多く感じてならない。
腰部からスカート状に広がる並列レールには、ハンドガンのマガジンがズラリと並んでいる。
カートリッジひとつに15発装填されているとして、総弾数は優に300発はあるだろう。
ついでに特殊装備として、尻尾の先にラッピングのケース状のものがついている。これはステルスシートと言って、ロールスクリーンカーテンのように広げたシートが光学式迷彩を発揮して透明になれるという代物。
しかし、異なる方向から見れば、バッチリ姿を晒してしまう、パチもんみたいなステルス機能でしかない。
「さすがは兵士ね…。リーズナブルを謳っておいて、必要な装備まで削って値段を安くしている自動車やパソコンみたいだわ…」
いわゆる廉価版というヤツ。
「いやぁ、それほどでも」
ガンランチャーが照れ臭そうに返すも、別に褒めている訳ではないのよ。
「ココミちゃん、相手の駒は分かる?」
正体は分からないまでも、どんな駒がアンデスィデに参戦しているかぐらいは把握しておきたい。
「敵の駒は僧正、騎士、兵士それぞれ1騎ずつ。ナイトは前回アンデスィデに参戦していた木乃伊のアルルカンです」
と、いう事は、また、あの包帯攻撃を相手にする訳だ。
情報が少ないとはいえ、幾分か気が楽になった。
何せこちらの駒は。
僧正が2騎、騎士のダナ、そして兵士のガンランチャーと駒の強さも然ることながら、敵よりも1騎多く数の面でも優位に立っている。
どーんと構えて、片っ端からリョーマに撃破して頂こう。
「これはどういう事なの!?」
開始早々オトギが不満をたれている。
「どうしたの?」
訊ねようとするまでもなく、タブレット画面に映る僚騎情報を目にして、騒ぎの内容がおおよそ理解できた。
グラムの騎体は。
両手が鎌のバッタではないか。
「人型じゃないのかよ…」
思わず絶句。さらに。
コールブランドの騎体は。
尻尾が薙刀のトンボかよ…。もはや何も言う事は無い。
そもそも彼らはライフの時点で体に障害を抱えていた。
まさか、それが盤上戦騎の姿に反映されていようとは。
マテリアルアドバンテージや数で敵を上回っていたとしても、肝心の戦闘能力で劣っていては意味が無い。
「コイツらはアテには出来ねぇ…」
草間・涼馬の健闘を祈るほかに手立てはない。
「敵騎が市松市街地に侵入しました」
ココミから通信が入った。
そして、すぐさま、リョーマ駆るダナが発進、すぐさまガウォーク形態となって姿勢を低くすると、滑るようにして基幹道路沿いに敵騎へと接近。
「ったく、もう!これじゃあ貧乏くじもイイところだわ」
クレハはガンランチャーを、ビルを背にしゃがみ込ませると、ステルスシートを張って姿を隠した。
「タカサゴのヤツ…こんな時に何をやってるんだろう?」
思わずグチがこぼれる。
その頃、高砂・飛遊午は。
居残り補習を命ぜられて否応なしに出席を求められ、やむなく出席。授業中にスマホ操作をしていたツケが今になって回ってきた訳だ。
しかも現在、スマホを取り上げられた状態にある。
なので、誰とも連絡が着かない状態にあた。




