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-203-:お天道様が俺たちに味方してくれたのさ

 ハギトが繰り出す見えない攻撃により、鶏冠井道場の床部分がことごとく叩き潰され、穴だらけとなってゆく。


 立ち止まった時点で攻撃を受ける中、脚を止めることすらできずに、ヒューゴはただ呟く。

「どうすんだよ、コレ」

 床に空いた穴の心配が、頭から離れない。


「今はそんな心配をしている場合じゃないぞ。それよりも、あの攻撃が刃で行われたら、僕たちはひとたまりもない」

 リョーマが告げた瞬間、ヒューゴが「バカ!」すかさず注意を差し込んだ。


 案の定、ハギトは一旦攻撃を止めて、手にする短槍斧(ハルバート)の刃部分に目を移した。


 そして、人差し指で刃をなぞりながらニヤリと笑う。


「そろそろ、こっち側で楽しませてもらおうかな」

 どういう訳か、リョーマは余計な事を口走ってしまう性質らしい。


 本人はそんな事すら気づかずに、ただ舌打ちを鳴らしている始末。


「いやいや、冗談だよ。冗談。そんな事をすれば、あっと言う間にお前たちを殺してしまうじゃないか」

 顔の前で手を振って否定したのを確認して、二人は気持ち少し楽になった。


 だからと言って、気を抜いた訳ではない。敵はいたぶり足りないと言っているのだから。


「来るぞ!高砂・飛遊午」

 警告をくれるが、二重三重に余計なお世話だ。


 こうなれば、ハルバートの動きに全神経を集中して、全力で回避するしかない。


 が。


 ヒューゴ顔が突然連続で頬を叩かれたかのように左右に振ったかと思えば、彼の体が後ろへと跳んで行ってしまった。


 一瞬だけヒューゴに目を移してしまったリョーマは、再び視線をハギトへと戻す。


 そして自らの甘さを嘆いた。


 ハルバートだけを警戒していてはダメなのだ。


 このハギトの挙動全てを注視していないと、何らかの攻撃を食らってしまう。


 迂闊に会話などしている場合ではない。


 思った矢先!すでにハギトがリョーマに向けて指を差しているではないか!


「ぐっ!」

 呻き声が漏れたかと思えば、右胸に強烈な圧迫感を覚え、体が押される。


「まずは貴様の脚から封じさせてもらおう」

 ハギトは宣言して、立て続けにリョーマへと向けて指を差す。


 今度は圧迫感だけでは済まされない。両脚の太腿に刺されたような傷が出来て、血を吹き出した。


 強烈な痛みに脚がグラつくも、何とか踏み止まり倒れる事だけは阻止して見せた。


 それでも。


 ハギトは、なおも指差し攻撃を仕掛けてくる。


 避けるにしても、ハギトはフェイントに無駄な挙動も差し込んでおり、どれが本当の攻撃なのか?予測できない。


 いつ攻撃が襲ってくる?判断が付かない。


 リョーマはすっかりと逃げるタイミングを失っていた。


「危ない!」

 ヒューゴがリョーマにタックルを仕掛けて押し倒す。と、ドン!と音を立てて壁に穴が空いた。


 壁に空いた穴を見やり「どうして今の攻撃が解った?高砂・飛遊午」訊ねた。


「お天道様が俺たちに味方してくれたのさ」

 ヒューゴの言葉に、リョーマはなるほどと理解を示した。


 そんな二人に、ハギトは容赦することなく、なおも攻撃を繰り出す。が。


 二人は転がりながらも、ハギトの攻撃を難なく回避。


 タネを明かしたとしても躱す事は容易ではないと、ハギトは自負している。それなのに、リョーマたちは難なくそれを躱して見せた。


「何故だ!お前たち!何故、私の攻撃が躱せるのだ」

 血相を変えて、思わず問うた。


 二人はハギトの問いに答えない。

(まさか、コイツら。私の攻撃を見切っていると言うのか!?)

 動揺を隠せない。


「ならば、この一撃で仕留めて見せる!」

 ついにハギトはハルバートの刃の部分を使って、タイムラグ攻撃を放った。


 しかも渾身の一撃!


 二人は咄嗟に左右に分かれて、これを躱す。


 激しい破壊音と轟かせて道場の壁が破壊されてしまった。にも係わらずに、二人は無傷。


 完全に軌道を読まれてしまっている。ハギトのタイムラグは、もはや二人に通用しない。


「何なんだ?貴様らは!」

 焦るあまり、ハギトは声を荒げてしまった。


 と、その時、目の前に舞い散る埃が、西日に照らされてキラキラと光放つのを目にした。


「まさか…こんな事で…私の攻撃を見破ったというのか…?」

 目の前で掌を広げて舞い落ちる埃を手に取る。


 ハギトの両肩が大きく波打つ。


 そして、ハギトが高らかに笑った。


「面白い!お前たち。本当に面白いヤツらだな」

 再びハルバートを回したかと思えば。


 一瞬にしてハギトの体は、ヒューゴの横を掠めて二人を通り過ごしていた。


 ゴトン…。


 重い、何かの落ちる音。


 リョーマ、ヒューゴ、二人は顔を見合わせてお互いの姿を確認する。


 と、リョーマの眼が大きく見開かれた。


「マジかよ…」

 ヒューゴは呟いて、左腕を押さえた。が、すでに、そこには彼の腕は存在していなかった。


 床に転がっているのは、たった今斬り落とされたヒューゴの左腕だった。


「お遊びの時間はお終いだ」

 それは二人への死刑宣告でもある。

 



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