-202-:あまり自慢できた能力ではないのだがな
鶏冠井道場では―。
高砂・飛遊午と草間・涼馬の二人掛かりで金星のハギトに挑むも、やはり人間と魔者では勝負にならない。
霊力そのものか、もしくは霊力を帯びた武器による攻撃が通れば魔者にさえダメージを与えらえるというのに…。
ハギトが振り下ろした短槍斧が道場の床を割る。
飛び退いてこれを避けた二人が一斉に剣撃を繰り出すも、リョーマの剣は手甲で防がれてしまい、ヒューゴの剣は避けることもせずに、あえて受けている。
それなのに。
攻撃が通らない!!
二人は一斉に引き下がり体勢を整えた。
「何をやっている!?高砂・飛遊午!ヤツの体にヒットさせたのなら、そのまま霊力を流し込めば倒せるだろ!」
リョーマからの叱責。だけど。
「お前こそ!ヤツの細腕一本まともに斬り落とせないのかよ!」
敵を前に醜態を晒す。
リョーマは信じられないと、我が手を見つめた。
「どうしてだ?何故、高砂・飛遊午の言う通り、ハギトの腕を斬り落とせない!?」
遠く離れた地で、コールブランドの攻撃を煽りを防ぐために、ダナが魔法障壁を展開させて周囲への被害を抑えた最中の出来事であった。
リョーマ本人の霊力が、本人の与り知らぬところで大量消費されていたのだ。
ハギトがハルバートの石突を床に叩きつける。
「我らに身体を捧げたクレイモアの連中とは比較にならぬ程に、貴様ら弱いな」
二人して否定は致しません。
両者とも、この危機的状況よりも、方々に逃げた魔者たちの事が心配でならなかった。
彼らが黒玉教会へと逃げ延びるまでは、何としても生き残らなければならない。途中で彼らが消えて無くなる事だけは避けなければと。
ハギトが道場内の時計を確認すると。
「ここに来て10分経つか…。未だ兵士の連中から報せも来ないし、もう少しだけギアを上げてコイツらをなぶり者にして時間を潰すとするか」
呟くと、気だるそうにハルバートを一度振り切ると、真っ直ぐ刃を二人に向けて構えて見せた。
来る!直感を信じて両者は剣を構える。
「ふん!」
ハギトの不敵な笑み。
瞬間!
リョーマの隣に立つヒューゴが、体を矩形にして後ろへと飛ばされていた。
まるで、長柄の殴打を腹に受けたかのような体勢。
「な、何が起きた!?」
理解できない状況下リョーマは、それでもハギトから目を逸らす事はできない。
「種明かしだ、小僧ども!」
最中、ヒューゴが腹を押さえながら立ち上がった。
「一体、何をやられた!?高砂・飛遊午」
リョーマが訊ねた。
「解らんが、棒みたいなものに思いっ切り殴られたような感覚だった」
告げて、口から出た血を手で拭う。
ガツンッ!
ハルバートの石突が鳴らされる音。
「貴様ら!私が答えを教えてやると言っているだろうがぁ!」
またもや蚊帳の外にされたのが、気に障ったようだ。
「どうせ時間潰しするなら、少しは俺たちに考える時間くらい与えてくれよ」
交渉に入るも、ハギトは即刻首を横に振ってみせた。
時間的余裕が有るのか、無いのやら?ハギトは咳払い一つすると。
「あまり自慢できた能力ではないのだがな」
前置きを入れる彼女の表情は少し照れ臭そう。
「遅効作用。私の行った攻撃が遅れてお前たちに襲い掛かるのだ」
タネを明かしてくれたのだが、二人にはまるで理解できない。
首を傾げる二人に。
「ならば、分かり易く、その体で存分に理解すると良い!」
告げて、ハギトは反復横跳びを繰り返してハルバートをブンブンと振り回す。
「何をやっているんだ?アイツーッ!はッ!?」
リョーマの右肩に、強烈な衝撃が走り、身体がのけ反った。
まるで棒か何かで叩かれた感覚。
ヤバい!!
「散るぞ!高砂・飛遊午!」
回避を促すまでもなく、ヒューゴは横へと飛び退いていた。が、そんな彼が盛大に倒れた。
すでに広範囲に攻撃を行っていた模様。足払いまで放っていた。
「逃がすものか」
ハギトは、その場から動くことなく、さらにブンブンとハルバートを振り回す。
見えないハギトの残像が次々とヒューゴたちに襲い掛かる。
これでは“分身”と何ら変わりないではないか。
道場の至る所に打撃音が響き渡り、そしてついに、床までブチ抜いて。
逃げる場所が徐々にではあるが、狭められつつある。
ハギトの言う通り、確かに自慢できる能力ではないが、これを刃で行われてしまえばひとたまりも無い事くらい、二人には容易く想像できた。




