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-193-:我はオリンピアの天使のひとり、金星のハギト

 せっかく守ってあげたというのに、お礼どころかセクハラ発言を受けて、ミサキは沸々と湧き上がる怒りのあまり、こめかみがピクピク脈打つのを感じた。


「どうせ私の事なんか、“せんたく板”とか言って馬鹿にしていなさい!」

 挙句、ヘソを曲げてしまう始末。


 鼻を手で覆って跪くミスターサムライの手の隙間から、止どめも無く血が流れ落ちて行く。


 尋常じゃない出血量。


 あれでは呼吸もままならないだろう。完全に沈黙している。


 それにしても。


 竜崎・海咲という少女剣士の、何とも勇敢なこと…。


 回避も攻撃も、ほとんど寸分の差で行われていた。どんな訓練をすれば、あんな一歩間違えば命を落としかねない剣技を身に着ける事ができるのだろうか?


 感嘆する外ない。


「さぁ、観念して刀を捨てなさい」

 警告を発してから一歩踏み出す。


 瞬間!


 ミスターサムライはまだ戦意を喪失していなかった。いきなり刀の横一閃を走らせる。


 だが、ミサキは用心を欠く事無く、これを後ろへと跳んで難なく回避。



 だけど。



 信じられない事に、すでにミスターサムライは立ち上がっており、ミサキの首を掴んでいた。


 そして、またもや信じられない事に、そのままブゥン!とミサキを壁へと投げつけ、彼女は壁に叩きつけられて気を失ってしまった。


 恐るべきミスターサムライは、復活と反撃を、相手に悲鳴を上げさせる間を与えずに瞬時にやってのけたのだった。


「コイツ!人間じゃねぇ」

 ようやく事の異常さに気付いたヒューゴに。


「だったら、ベルタとクィックフォワードを呼べ!」

 指図するリョーマの眼前に、レイピアを手にしたダナが天井に描かれた魔方陣から降臨。


 着地と同時に舞い上がったスカートの裾から、ストッキングがガーターベルトで留められているのが確認された。


 メイド衣装の上に軽装甲冑をまとっており、ベルタと同じく防御に難があると思いきや、小さな皿状の小型盾(バックラー)を左腕に装備している。


 ヒューゴは現れたダナの姿にリョーマの全開された趣味(シュミ)に呆れながらも、道場の少年に壁際に置いてあるスマホを投げさせて、2人の魔者を召喚。


 ガン!


 刀による剣撃をダナはバックラーで弾き返す。


 突然現れた、ゲームに登場するようなビジュアル重視な甲冑姿のダナを目にして、少年少女たちから歓喜の声が湧き起こる。そして嬉しい事に、応援までしてくれている。


(登場シーンからして格好良すぎるよな…ダナさん。眼鏡美人な上に巨乳で、しかも、まんま女騎士やないけ)

 思わず見とれる。そんな中。


「高砂・飛遊午」リョーマの声。


「敵はこうなる事を見越して僕たちを襲ってきたに違いない。ここは敵の戦力を分散させるぞ」

 作戦を指示してきた。


 彼の見解は正しい。敵は、今は一人でも、絶対に複数存在するはず。


 そうなると、考えなければならないのは、どう戦力を分けるかだ。しかも、ここには人質となりかねない人たちが多すぎる。


 リョーマは策を練ってはくれたが、手持ちの駒は自分の方が多い。なので、指示はヒューゴにゆだねられた。


「わかった。俺とお前で引き続きミスターサムライを引き受ける。それで子供たちと撮影スタッフの人たちはダナとベルタに任せて、後は―」

 クィックフォワードへと向いた。


「お前たち、正気か?相手は魔者なのだぞ。人間のお前たちに敵う訳が無いだろう」

 彼はここに留まるつもりでいる。だけど。


「ベルタたちに動けないミサキ先輩まで任せる訳にはいかない。負担が大きすぎる。クィックフォワード、お前に先輩を託す。お前なら、先輩を守り切れると俺は信じている」


「私の話を聞け。お前たちが殺されてしまえば、我々はこの姿を失ってしまうのだぞ」

 信じると言われても、素直に命令を聞き入れてくれない。


「心配無い。木刀だって当てれば霊力が通るし、奴にダメージだって与えられる」

 リョーマも退く気は無いようだ。そして。


「ベルタ!ダナさん!みんなを黒玉教会へ!あそこならみんなを保護してくれるはずだ」

 ヒューゴの指示に、ダナは一瞬リョーマへ目をやり、彼が頷くのを確認した。


「了解しました。ですが、マスター。くれぐれも油断なさらぬ様願います」

 バックラーで刀を押し返すと、リョーマ&ヒューゴの二人と入れ替わり(スイッチ)


「ダ、ダナ!君は承知なのか?マスターを危険に晒すのだぞ」

 クィックフォワードは彼女を呼び止める。


「マスターの命ずるままに。それが私たちチェス・マンの役目と認識しております」

 見た目通りのクールビューティー。すると、ベルタも彼女に従い、撮影スタッフと少年少女たちを引き連れて道場から退避した。


「さて、クィックフォワード。早くしないと、他の敵がやって来るぞ。君は彼女を連れて別の場所へと向かって逃げてくれ。なるべく敵の戦力を方々に分散させたい」

 理由を述べられても、クィックフォワードは素直に聞き入れてくれない。


「き、君たちは何故、敵が根城にしている黒玉教会へとダナたちを向かわせたのだ?」

 訊ねた。


「ヤツはライクのところの魔者じゃない。ライクは俺をアンデスィデで倒したがっていた。なのに直接狙ってくるとなると、アイツはアルマンダルの天使と見て間違い無い」

 ヒューゴは、立ち上がったミスターサムライを見据える。


 もうひとつ加えれば、あそこにはコールブラントが控えている。この際、背に腹は代えられないが、彼女ならベルタたちよりも強力な戦力となる。


 すると、ミスターサムライが肩を震わせて笑い始めた。


 男性の声の含み笑い。それが次第に、女性の声へと変化してゆく。


「オッサン、気色悪いぞ」

 ヒューゴが木刀を構えて言い放つ。


「まさか、我の正体を見破るとは。しかし、やはりこの体は重過ぎる。ハンデと軽く見ていたが甘かったようだ」

 バタリとミスターサムライが床に倒れ伏す。


 彼を足元に立つ女性の姿。


 関節部分をチェーンメイルで覆われた軽装甲冑をまとった、ややクセのある、毛先が炎のような赤色を帯びた金髪女性が立っていた。


 彼女の紺碧色の瞳が怪しく光ると、魔方陣から短槍斧(ハルバート)を取り出した。


「お察しの通り、我はオリンピアの天使のひとり、金星のハギト。僧正(ビショップ)金星(ハギト)

 名乗りを上げて、ゆっくりと一歩を踏み出すと、スリットの深いスカートがふわりと舞い上がった。




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