-189-:どんな人なのかな~
「丁度良い機会だから、皆に話しておくぜ」
ぬいぐるみ姿のグラムが話し始めた。
と、タツローがコールブラントへと向いて。
「彼が話すけど、構わないね?」
了承を得る。
意外と大人しく、コールブラントは頷いて見せた。
「じゃあ、話すぜ。俺たちは元々同じ種のドラゴン。受ける光によって体色が変化する蒼輝龍だったんだ。だけど、俺は生まれてすぐに魔界樹の森へと住処を移して、ほとんど地表に光の届かない場所をねぐらにしていたので、あっという間に体中真っ黒よ」
カメレオンみたいな龍がクレハの印象。
そもそも、RPGゲームのブルードラゴンだって、住む場所は定かではない。レッドドラゴンが火山だったり、グリーンドラゴンが森の奥深くだったりするのに対して。
いつも適当な設定が組まれている不憫な龍だ。
「そちらのグリッタードラゴン様は、白夜のある地域で野晒しで暮らしていたので、全身が光を反射する真珠のような体表をしている」
こちらはこちらで、また適当な生活を送っていた模様。野晒しで生活って、知性のある生物から遠ざかっているようにも思える。
「そして、俺達がこれほどまでに仲が悪い理由は―」
ココミが頭を悩ませている中、他の者の注意が、ぬいぐるみグラムへと向く。
「お互いに本来の姿から変わり過ぎていて、同族なのを認識できずに、捕食行動に移ってしまったの」
いきなりコールブラントが理由を述べてくれた。
つまり、互いをエサだと勘違いして襲ってしまったという事。
「もはや住んでいた地域が離れ過ぎていたせいで、お互いに言葉が通じず、俺の左翼をコイツが食いちぎりやがったのさ」
「で、このアホは、仕返しに私の両脚を、口から炎を吐いて骨まで焼いたのよ!」
怪獣映画も真っ青な、壮絶極まる戦い。
話を聞くに。
クレハは、ココミへと向いて。
もうちょっとマシな龍はいなかったのか?と問いたい思いに駆られた。
人間の世界でも、文化や風習の違いで争いが生じる事が多々あるが、これほどまでにマヌケな争いは聞いたことがない。
「ココミちゃん…」
クレハの訴えるような眼差し。
「で、でも、彼らは能力的にはとても優れた、何と言っても、僧正として登録された龍たちなんですから」
もはや言い訳にしか聞こえない。
オトギはいぶかしむ目をグラムに向けてしまう。
タツローも、この地雷女の早とちりが、今に始まったものではないと認識した。
各々ガックリと肩を落として、4手に分かれると、それぞれの帰路に着いた。
独り夜道を歩いていると、クレハは突然不安になり、周囲をうかがった。
以前、TVで夜道を歩く時に、電話をしているフリをしたら犯罪に巻き込まれにくいと放送していたのを思い出した。
さて。
誰に電話をしたものか…。
ヒューゴは今、バイトでまかないを作っている頃だろうし、キョウコやフラウとは学校で話すものの、電話やメールのやり取りをしたことが無い。
トラミは…止めておこう。
やはり、“フリ”だけして帰ろうか。
そう思った矢先。
電話帳に追加された“ボンバートン”の名前が目に入った。
試しに掛けてみよう。発信音がなり…………相手が電話に出た。
だけど、無言。
「もしもし?」
声を掛けてみる。
「もしもし」相手の声。名前から想像しなかった女性の声。しかも声の与える印象は、とてもおしとやか。
「もしもし、私、鈴木・クレハと申します。夜分に申し訳ありません」
「ああ、私のマスターを引き受けて下さった方ですね。よろしくお願いします」
やけに丁寧な口調の人だ。だけど、何を話そうか?
「ごめんなさい。すでに盤上戦騎とライフの姿を失ってしまったので、何のお役にも立てずに」
いきなり謝ってきたボンバートンに恐縮してしまう。
「いえいえ、こちらこそ、よろしくです」
すでに形を失った相手に、頭を下げる。自身でも、それは滑稽だと認識していても。
「で、ご用件は何でしょう?」
やはりと言うか、用件を聞いてきた。
考えるも、結局何も答えられない。そもそも、用事を考えることも無く、ただ確認のために電話を掛けただけなのだから。
「い、いえ、大した用事じゃないんです。ただ、どんな人なのかな~って思って」
ここは下手に取り繕うとせずに、素直に答えた方が印象が良い。
「そうでしたか。では、長話しは電話代が高くつきますので、これで」
クレハは思わぬ事実を突き付けらえた。
これって電話代が発生しているの!?
何て事だろう…。
盤上戦騎を召喚するのに、電話代が発生するのか。
大した額ではないと想像に難しくないけど、それはそれで思わぬ負担だ。
「あっ、そうでした」
電話の向こうでボンバートンが何かを思い出した模様。
「弟のクィックフォワードに、よろしくと伝えて下さい」「え?」
驚く最中、向こうから電話を切られてしまった。
同郷同士に、遠い種族同士と来て、今度は姉弟かよ…。
ココミの召喚した龍たちとは、何て世間の狭い参戦者たちなのだろう。




