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盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[18]女王の掌の上で
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-182-:怖い目で見ないで

 ったく…、次から次へと訳の分からぬ事を…。


 クレハは訊ねるイオリを前に、腕時計で時間を確認すると。


「オトギちゃんも見つかった事だし、あんまり遅くなると親が心配するから、これで失礼させてもらうわ」

 目を合わさず告げる。


 この際、“次郎”の事など、どうでもよい。


「行くわよ、タツローくん、オトギちゃん」

 オトギの肩にそっと手を回して3人で病室を出ようとした、その時。


「待ちな」

 3人を呼び止めて、病室の入り口から市松の母が姿を現した。


「い、市松の母!」「さん付して呼ばんかいッ!」

 出逢い頭に驚くクレハを叱りつける。


「最近の若いモンは礼儀が成っちゃいないねぇ」

 こぼしつつ。


 腕を組んでクレハたちの行く手を阻んだ。


「お前さんたち!目撃者となった以上、ここからタダで帰す訳にはいかないねぇ」

 予想はしていたが、大人しく帰してくれそうにない。クレハはオトギの肩に添えていた手を下して、いつでも相手の動きに対応できるように体勢を整えた。


「遅いぞ、オロチ!」

 背後から聞こえてきたイオリの声に、3人ははたと振り向いた。


 市松の母の本名が、人名名鑑に載っているのかさえ定かでない非常に珍しい大蛇(おろち)さんだった事にも驚いたが、高校生になったばかりの小娘が高齢者を呼び捨てしている事に、大いに驚いた。


「アナタねぇ、お婆さんに何て口を聞くの…」

 注意するでもなくクレハは呟く。


 しかし、当のオロチは面目無さそうに頭を掻いて。


「すまないねぇ。そこの小娘らが破りまくった結界を、張り直していたのに手間取ってねぇ」

 だから、それはこの病院の工事を請け負った業者の手抜き工事なんだってば!


 そもそも自動ドアを手で開けただけなのに、あちこち(・・・・)ガタが来ているなんて解せないわ。


「私たちをどうする気なの?貴女たち」

 普通に受け答えしているのは、事情を全く知らないオトギだけ。


「普通ならば、今日一日の記憶を消して、明日から何事も無かったように過ごしてもらうだけなんだがね」

 オロチの話を聞いたとたん、クレハは慌てて「それ困る!」話に割って入った。


「ん?」

 オロチがクレハへ向く。


「いや、その…。今日みっちり補習を受けてきたワケだしさ、今日一日の記憶を消されてしまうと、また赤点取っちゃう」

 個人の都合を差し込んだ。


 そんなの知ったコトではないと、全員に呆れられてしまった。周囲からため息が聞こえ、クレハは小さくなった。


「まぁ、お前さんの努力は水泡に帰する事は無いね」

 オロチの言葉に、クレハは安堵の表情を見せる。


「ただし、我々の協力者となってもらう」オロチの宣告にオトギは間を置かずに「お断りします!」


「話は最後まで聞くもんだよ、御陵のお嬢さん。何もお前さんたちに、お嬢と同じ事をしろと言っているんじゃない。お国のためにひと肌脱いでくれと言っているんだよ」

 大きなサングラスの向こうに見えるオロチの眼は、真っ直ぐにオトギへと向けられている。


「そう。妖魔退治なんて、一朝一夕で出来る事じゃないしね」

 背後からイオリの声。


「ゴメンね、イオリちゃん。話の途中で何だけど、前後で話しかけられると、私たち忙しく顔を向けなきゃならないの。悪いけど、一か所に固まってくれる?そこの飼い猫さんも」

 話の腰を折るのは心苦しいが、手間を考えると、同じ方向にいてくれた方が話しやすい。


「誰が飼い猫だ」

 助六がブツクサ文句を言いながらも、オロチ側へと場所を移す。


 場所変更が完了したのを見計らって。


「で、私たちに何をさせたいのよ?」

 クレハが訊ねた。


「お前さんたち全員に、ココミ・コロネ・ドラコット率いるドラゴンたちのマスターになってもらうよ」


「えぇぇーッ!?」

 驚いたのは、それが原因で鼻頭に傷を付けられたタツローただ一人。


「これの事だったのか…以前、僕が変な格好をした女の人に襲われた理由は」

 今になって、ようやく理由がハッキリした。だからといって納得できるものでもない。


「い、嫌だよ!そんなの。それが原因で、僕は危うく殺されそうになったんだから」

 しかし、拒絶しようものなら容赦はしないと、オロチの眼は語っている。


 後ろを振り向けば、無残な姿で仰向けに倒れているリーダー女子が。


 断れば、ああなってしまうのか?…そこには選択を許さぬ無言の圧力が。


「あ、アレなら心配無いわ。命に別状は無いから。ただし、全身の神経はサターンを引き剥がす時にズタズタになったから、生涯ベッドで過ごす事になるけどね」

 イオリはサラリと言ってのけた。


 人を“アレ”呼ばわりする事はもちろん、人間の一生を台無しにしておいて、罪悪感を感じていないあどけなさが、タツローには耐え難いほどに気に入らなかった。


「怖い目で見ないで。彼女、ああなった代わりに一生分の快楽を貪ったのよ。他人を虐げる快楽を存分にね」

 それでも人の一生は一生だ。彼女がどんな人間であろうとも、彼女に関わる両親やその他多くの人々の一生が巻き添えを食らってしまう。それはそれで許されない事だ。


「国のためとはいえ、僕は人の人生を踏み台にするような事には手を貸さない」

 タツローはイオリたちを見据えてキッパリと言い切った。


 クレハ、オトギはそんなタツローを頼もしく思う。


 だけど、オロチはニヤリと笑みを浮かべて。


「だからこそ、なおさらお前さんの力を借りたいのだよ。ココミ・コロネ・ドラコットは誰も傷付けずに魔導書(グリモワール)チェスの決着を着けたいと願っている」

 オロチの言葉に、クレハは。


「あの子、そんな事を思っていたっけ?」

 ただ一人、疑問に感じていた。

 







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