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盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[18]女王の掌の上で
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-180-:全て貴女自身の身から出たサビ

 想いも寄らぬ3人の反応に、イオリは、はたとクレハたちを見やった。


「あ、アナタ達、このサターンが見えているの?」

 のたうつサターンを手に向き直る。


「うっ、変なニオイまでする。アンタ、そんなキモチ悪いもの、こっちに向けないでよ」

 思わず鼻をつまんで、クレハがイオリを追い払った。


「そんな生き物、見た事ないわ」「そ、それ、何なんです?」

 まだ幾本かの線で繋がっているリーダー女子とサターンとの間を、視線を行き来させながらオトギたちが訊ねた。


「驚いたわね…。霊能者を名乗る者でさえ、これを見る事が出来るのはほんの僅かなのに、3人とも見ることができるなんて…」


「んな事、どうでも良いわ。それが何なのか?さっさと教えなさいよ」

 驚くイオリの都合などお構いナシ。しかも人に教えを乞う態度すらなっていないクレハ…。


 そんなクレハに気圧されて、つい。

「こ、これは妖魔よ。それも妖魔の中でも一際厄介な妖魔で、種族はサターン。コイツが成長したら、人々を先導して大きな人災をもたらすの」


「人災って、テロの事?」

 サターンはその片鱗を見せて、ひとりの女子高生をいじめグループのリーダー格へと変貌させていた。だから納得。


「そうよ。大規模テロなんてお手のもの。最悪、戦争まで引き起こしかねない」


 説明を聞くタツローは信じられないと、サターンに指差しながらオトギへと向く。


「振り向かないで!」

 オトギに強く拒絶されてしまい、タツローは否応なく再びイオリの方へ視線を戻すハメに。


「こんな、みじめな姿、タツローくんにだけは見られたくないの」

 すかさずクレハは、顔を落とすオトギを抱きしめた。


「もう、大丈夫だからね。落ち着いて、オトギちゃん」

 オトギはクレハの胸に顔をうずめた。


 呆れてため息を漏らしながら、イオリは再びサターンをリーダー女子から引き剥がす作業を再開した。

 再び断末魔の叫びが病室に木霊する。


 オトギの頭を優しく撫でながらクレハは振り向き。

「こんなに大騒ぎしていたら、ご近所の誰かが警察に通報するよね…」


 窓を割っていたら、今頃不法侵入と器物破損で警察のお世話になるところだった。投げた消火器が窓ガラスを破らなくて良かったと、今になって胸を撫でおろす。


 ブチブチとリーダー女子とサターンを繋いでいた糸が切れ始めた。糸が切れる度に、リーダー女子は痛みに悲鳴を上げて、身体をのけ反らせてもがき苦しんでいる。


 あの糸が彼女の神経に絡み付いているから、切れる度に痛みが走るのだと理解した。


「イオリさん、あんなにヒドイ目に遭わされていたのに、どうしてこの人から妖魔を引き剥がして助けようとしているの?」

 タツローが訊ねた。


 すると、イオリはクスクスと笑って。


「助ける?ですって?これが?助けているように見えるの?貴方、おめでたい人ね」

 嘲笑する声が病室に響く。イオリは笑い過ぎてにじみ出た涙を指でふき取ると。


「強いて言うなら、これは“収穫”かしら」

 タツローは思っていたのと違う答えが返ってきたので戸惑いを隠せない。「収穫?」


「そう、収穫。私たちはね、サターンの出現した場所に赴いて監視、宿主を提供して成長させていたの」


「私たち?」

 タツローの背後からクレハが訊ねた。


 イオリは、またもやため息をついて。


「ごめんなさいね。そこから説明しなければならなかったわね。私は公安警察特殊課・対妖魔班所属の退魔巫女なの。一般には公表されていない、平安時代から続く退魔組織の現代版と言えば理解して頂けるかしら?」

 そんなマンガみたいな秘密組織、教えてもらったところで理解に苦しむ。


「サターンは非情に厄介な妖魔で、成長し切るまでは姿がおぼろげで、霊力の高い高位の退魔師でさえも触れる事がかなわない。だから、エサを与えて成長させてから殲滅するしか手は無いの」

 そのエサがリーダー女子だった訳だ。


「どうして彼女だったんだい?彼女が何をしたんだい?」

 タツローは信じられないと首を横に振った。


 すると、イオリは高笑いを始めて。


「何をした?ですって。アナタも見たでしょう?彼女が散々私にしていた事を。彼女は元々加虐心を満たすために他者を虐げていた。快楽としてね」

 涙を流して苦しむリーダー女子を見下ろす。


「サターンは人間の憎しみや加虐心といった“負の心”を好み糧として育つ。他者を虐げる彼女の存在は私たちにとって、願ってもない妖魔の恰好のエサ。だから彼女を宿主に選んだのよ」

 他者の苦しむ姿に胸を躍らせるイオリもまた同じ種類の人間ではないのか?


 タツローは何も言えずに、ただ複雑な思いでイオリを見つめていた。


「もしかして…」

 抱きしめるクレハの手をスルリと抜けて、オトギが立ち上がった。


「もしかして、貴女…わざと彼女たちに虐められていたのね。彼女たちの加虐心を煽って、さらにその妖魔に負の心とやらをエサに与え続けていたのね」

 個々の努力を推進する天馬学府の校風や校則をもってすれば、イジメは苛烈を極めるほどエスカレートしなかったはず。

 オトギの推理に、イオリはフフンと笑い「流石はお利口なお嬢様。ご明察」告げた。


「なんて人なの」

 悲しみに暮れていたオトギの姿はもう何処にもない。


 湧き起る怒りを抑えきれずにイオリを睨み付けながら、ツカツカと彼女へと寄る。


「連中に傷モノにされたのは、貴女の自業自得。下らない正義を振りかざして憎悪を買った挙句に、この娘の加虐心を煽ったのも、全て貴女自身の身から出たサビ。これに懲りて家柄を傘に横暴な態度は改めることね」


「ふざけないで!」

 手を上げた瞬間、オトギの喉元にナイフの切っ先が突き付けられた。


「怒る気持ちは解るけど、今は大人しくしていてもらえるかしら?」

 口調こそなだめるように、それでも目はあざ笑っているかのよう。


 邪魔立ては一切認めないとナイフの切っ先で語っている。


 そんな中、イオリが捕えていたはずのサターンの姿がだんだんと薄くなってきた。


「ば、バカな!もう殲滅できるほどに成長し切っているはずなのに!」

 どうやらイオリは狩り時を見誤ったようだ。


 これでは、これまでの過程が全て台無しになってしまう。二度と、このサターンには同じ手は通用しない。


 最悪の事態だ!


 まるで、ヌメリのある生物のように、サターンが呪符から脱出を果たすと、オトギの足の間をすり抜けて、さらにタツローの足元を躱して、今度はクレハへと向かい這い回る。


 サターンはクレハを新たな宿主に選んだのだ。


「どうしてクレハ先輩に!?」「え?クレハさんに?」

 二人には到底理解できなかった。


 人の憎しみや加虐心をエサとする妖魔が何故クレハを新たな宿主に選んだのか?


 迫る人面イモムシ!妖魔サターン。


 クレハの顔が恐怖で引きつる。


「危ない!そいつは口から宿主の体内に入り込んで寄生するの!」

 イオリが警告を放つ間にも、サターンはもの凄いスピードでクレハに迫りくる。


「く、口からって!?な、何よ、その宇宙生物的な憑りつき方は!?」


 キシャーッ!!新たな宿主を前に、歓喜に吠えるサターンは跳躍し、恐怖におののくクレハの顔面へと跳びかかる。


 バシィッ!


 羽虫を叩き落とす要領で。


 クレハはサターンを床に叩き落とすと。


「キモチ悪いんじゃー!寄ってくんなやぁーッ!」

 最凶最悪の妖魔サターンを、クレハは容赦なく思いっ切り踏みつけた。


 


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